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改正著作権法が日本のAI開発を加速するワケ 弁護士が解説

9/6(木) 11:01配信

ITmedia NEWS

 学習済みモデル生成のためには大量の生データや生データを基に生成した学習用データセットが必要となりますが、その際に著作物である生データ(文章、写真、静止画、動画など)を利用することも多くあります。

【改正著作権法の変更点】

 著作権法上、著作物は著作権者に無断で利用(ダウンロードや改変等)することは出来ませんが、実は日本の今の著作権法には47条の7という世界的に見ても希な条文があるため(詳細は後述)、AI(人工知能)開発目的であれば、一定限度で著作権者の許諾なく著作物を利用できます。

 その点を捉えて、早稲田大学法学学術院の上野達弘教授は「日本は機械学習パラダイスだ」と表しています。言い得て妙ですね。

 ただ、この47条の7には「ある限界」もありました。

2019年1月1日に改正著作権法の施行が予定されていますが、同改正法が施行されると、この47条の7が廃止され、新しい条文である新30条の4や新47条の5が発効します。

 これによりAI開発のために可能な行為がより広くなるため、AI開発がより加速し、AI関連企業にとっては非常に大きなビジネスチャンスとなる可能性があります。

 この記事では、「現行著作権法47条の7で可能な行為」「現行著作権法47条の7の限界」「改正著作権法30条の4等により可能となった行為」についてまとめます。

 なお、今回の著作権法改正は、文化審議会著作権分科会報告書(2017年4月)に基づいて行われていますので、この報告書を以下「2017年報告書」として適宜引用します。

現47条の7で可能な行為

 まず、現47条の7で可能な行為を整理してみましょう。

モデル生成の際に行う作業

 生データ収集からモデル生成の一連の流れを図にするとこのようになります。

 この図で言う「データ収集」「データ処理」「機械学習、DL」とは、具体的には、データのコピーだったり、整形だったり、データセットを用いた機械学習や深層学習ですが、これらの行為は「複製」や「翻案」に該当することから、著作権者の承諾を得ない限り原則として著作権侵害となります。

日本の機械学習の救世主「著作権法47条の7」

 しかし、そこでさっそうと現れるのが著作権法47条の7です。

著作権法47条の7は学習済みモデル生成に際しては非常に重要な条文ですのでぜひ覚えておいてください。

 条文は以下の通りです。

第四十七条の七  著作物は、電子計算機による情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の統計的な解析を行うことをいう。以下この条において同じ。)を行うことを目的とする場合には、必要と認められる限度において、記録媒体への記録又は翻案(これにより創作した二次的著作物の記録を含む。)を行うことができる。ただし、情報解析を行う者の用に供するために作成されたデータベースの著作物については、この限りでない。

 簡単に言うと「情報解析」のためであれば、必要な範囲で、著作権者の承諾なく著作物の記録や翻案ができる、というものです(ただし一部例外あり)。

 従って「情報解析」に「機械学習・深層学習」が含まれるとすれば、「機械学習・深層学習」のためであれば著作物について著作権者の承諾なく自由に記録や翻案ができる、ということになります。

 そして、この点については、私が知る限りでは、「情報解析」に「機械学習・深層学習」は含まれる、すなわち「機械学習・深層学習」に著作権法47条の7は適用されるという意見が多数を占めていると思います(後述しますが、この点については改正法ではより明確になりました)。

 そのような見解に立つと、たとえ他人の著作物であっても、機械学習・深層学習のためであれば著作権法47条の7により無許諾で自由に利用できる、ということになります。

 さらに、この条文の最大のポイントは、「非営利目的の利用」に限定されていないことです。

 つまり営利目的(販売・有償提供目的)の学習済みモデル生成のためにもこの条文は適用され、営利目的であっても著作物の「記録・翻案」が可能なのです。

 ちなみに諸外国でも日本著作権法47条の7と同趣旨の規定はあるのですが、いずれも非営利目的の開発や、研究機関による開発の場合にのみ許容されていますので、営利目的の場合でも適用がある日本著作権法47条の7は、世界的に見ても特異的といわれています。

 つまり、端的に言うと「著作権法47条の7は日本の機械学習の宝」であり「機械学習するなら日本においで」ということになります。

よくある質問

 私はセミナーなどでこの著作権法47条の7を紹介することも多いのですが、そのたびに参加者の皆さんからは、声にならない驚きの声が上がります。私の手柄でも何でもないのですが少し気持ちの良い瞬間です。

 ただそのたびに、よく受ける質問がありますので、以下に整理しておきます(ちなみに、以下の質問と回答は改正著作権法の下でも同様に当てはまります)

1:日本著作権法47条の7が適用されると著作物の無断利用も適法になるということだが、外国のサーバ上で学習作業を行ってもこの47条の7は適用されるのか

 これは、著作物の利用行為の準拠法の問題(ある利用行為にどこの国の法律が適用されるかの問題)ですが、著作権法については、著作物の「利用行為地」における法律が適用されるとされています。

 ただ、特にネットを利用した利用行為の場合、どこが「利用行為地」であるかの解釈は難しい問題です。

 1つの考え方としては、「サーバの所在地」が利用行為地であるというものですが、A国にいる人がB国に所在しているサーバを利用して学習行為を行った場合にA国の著作権法が適用されるのか、B国の著作権法が適用されるかは難しい問題です。

 ただ、「日本国内にサーバがあり、日本国内にいる人が同サーバを利用してデータのダウンロードやラベル付け、学習行為を行う」ケースであれば、日本著作権法47条の7が適用されることはほぼ間違いないと思われます。

 なので「機械学習するなら(物理的に)日本においで」ということなのです。

2:国外の権利者(例えばディズニーなど)が権利を持っている著作物を利用する行為についても47条の7は適用されるのか

 これも準拠法の問題ですが、準拠法の問題は「利用行為地」によって決される問題であり「権利者の所在地」は無関係です。

 従って、国外の権利者が権利を持っている著作物についても、日本国内で学習作業が行われる限り、日本著作権法47条の7が適用され適法となります。

 なのでやっぱり「機械学習するなら(物理的に)日本においで」ということなのです。

3:海外の大学や事業者とAI開発に関する共同研究を行う場合、著作権等の法律はどこの国の法律が適用されるのでしょうか(データがあるところ? 作業するところ? 見ることができるところ?等)

 これまでの説明からお分かりの通り、「学習作業をする場所」の国の法律が適用されることになります。

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最終更新:9/6(木) 11:01
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