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住宅の資産価値にすでに影響が…… 海面上昇の脅威にさらされるアメリカの不動産業界

9/7(金) 12:11配信

BUSINESS INSIDER JAPAN

・海面上昇の影響が出てくるのは何十年も先であるにもかかわらず、アメリカではその恐れがある住宅は、そうでない住宅よりも安く販売されている。

・資産価値の低下は、フロリダ州の脆弱なコミュニティーだけでなく、国中の何百万ものアメリカ人に深刻な影響を及ぼしている。

・複数の不動産や別荘を所有する投資家たちは、予測される気候変動の影響をふまえ、値引きを要求し始めている。

驚異的な予測だ。アメリカでは、2100年までに470万人が暮らす住宅が海面上昇による被害を受ける可能性があり、沿岸部の不動産が被るであろう損害は1兆ドル(約110兆円)近くに達するという。

海面上昇の影響が出るのは何十年も先のことだが、未来の被害の可能性によって、沿岸地域の住宅価格が下落している。

ペンシルベニア州立大学とコロラド大学ボルダー校の研究者らが行った最近の研究によると、海面上昇に対して脆弱な住宅は、そうでない同等の住宅よりも約7%安く売られている。一方で、22世紀になっても浸水する恐れのない住宅の割引率は4%にとどまる。

中でも警戒が必要なコミュニティーは、フロリダ州にある。同州では今世紀中に、100万戸以上の住宅が慢性的な浸水の危険にさらされることになる。しかし、海面上昇の脅威は一部想定外の地域にも迫っている。サウスカロライナ州ヒルトンヘッドでは、2045年までに約15億ドル相当の不動産が失われるとされ、同じ州のチャールストンでは2005年以来、沿岸での浸水被害や差し迫った海面上昇の脅威によって、すでに2億6600万ドルの資産価値が失われている。

アラバマ州フォーリーやマサチューセッツ州ナンタケット、ニューヨーク市クイーンズといったコミュニティーでも、2045年までにそれぞれ10億ドル相当以上の損失が出る可能性がある。

こうした状況から、複数の不動産もしくは別荘を所有する、高収入・高学歴の傾向にある事情通の投資家たちは、不動産を購入するときに気候変動の影響を考慮に入れるようになった。2007年から2016年にかけて、46万戸以上の住宅販売について調査した研究者によると、投資家が情報に詳しくなるにつれ、値引きを求める声も高まりそうだ。

アメリカ政府は、オバマ政権時代の気候変動政策を覆そうとしているが、投資家たちは科学的な予測に沿って動いている。2014年に「国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が世界の海面上昇の予測値を2倍に引き上げたことで、事情通の投資家のための不動産価格の値下げは大幅に増えた。これを受け、研究者は海面上昇が「沿岸部の不動産市場における特定のセグメントにとって、第一に考慮すべきこと」になっていると結論付けた。

だが、事情通でも家を借りている場合、賃料の値下げは期待できない。なぜなら、賃料は現在の資産価値に基づいているからだ。

研究者らの結論としては、資産価値に対する真の脅威は、現時点での住宅の品質ではなく、将来の災害が起こる可能性だ。ウォーターフロント、リモデル、浸水経験といったさまざまな要因と照らし合わせた結果、海面上昇に対して脆弱な住宅と住宅価格の値引き率には関連があった。海面上昇への不安が大きなコミュニティーほど、住宅価格が引き下げられやすい。

これらの調査結果は、不動産市場だけでなく、アメリカ経済全体にとって大きな意味を持つものだ。多くの世帯にとって、不動産は最大の資産だ。その資産価値の低下は、何百万ものアメリカ人の経済状態に影響を及ぼす可能性がある。海面上昇への恐れが高まる中、沿岸部のコミュニティーは気候変動による影響を軽減するために動くか、住宅市場の緩やかではあるが着実な衰退という危険を冒すかのどちらかだ。

[原文:Nearly one trillion dollars of US real estate is threatened by rising seas, and the risk is already affecting home values]

(翻訳:仲田文子、編集:山口佳美)