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名前もなかった野良猫 病院から家に迎え入れた日

9/8(土) 14:30配信

sippo

 悩んだ末、ハチワレの野良猫を保護して、自宅で飼う覚悟を決めた。キャリーバッグに入れて自転車にのせ、初めて動物病院に連れて行った。

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    ◇   ◇

 血液検査とウイルス検査の結果、ハチワレ猫は健康上に特に問題はなく、猫白血病と猫エイズも陰性だった。

 強いていえば体重が5キロと「ぽっちゃり気味」なので、これ以上太らせないように注意することぐらいだった。栄養補給のためのビタミン剤注射に、ノミダニ駆除薬の投与、危険を回避するための爪切り。家猫になる準備が着々と進むなか、仕事を終えたツレアイも病院にやってきた。

 ツレアイは、今日から3日間は仕事が立て込んでいた。「家に迎えたばかりのハチワレが夜中に鳴いたり、走り回ったりして睡眠に支障をきたすと困る」と彼は言い、この3日間、動物病院のペットホテルで預かってもらえないかと頼むために来たのだった。

 先生は「足の怪我の経過も見られるからいいですよ」と快諾してくれた。看護師さんも「いい子そうだから、お泊まりも大丈夫じゃないかしら」と言う。

「ただ、名前はどうしましょう?病院内で呼ぶのに名前がないと不便なので……」と看護師さん。

 飼い猫には名前が必要だ。当然のことだが、このときまで考えたことはなかった。ハチワレを引きとる日までに決めてくることにし、「それまでは適当な名前で呼んでください」と頼み、キャリーごとハチワレを預けて病院を後にした。

 その晩、私たちは近所のビストロで祝杯をあげた。

 翌日の午後、ハチワレの様子が気になり病院に電話をした。すると、「猫ちゃん、くつろいで横になっていますよ。今日は缶詰を食べて、オシッコもちゃんとしました」とのこと。

 病院のケージに入れられると、暴れるか緊張して固まってしまい、水も食事も受け付けなくなる猫がいることは知っていた。どうやらハチワレは、おおらかというか、神経がずぶといというか、そういう性格らしい。安心したところで、次は名前だ。

 私は「クグロフ」という名前をひそかに考えていた。「クグロフ」は、私がかつて「お菓子修業」と称して長期滞在したことのあるフランス・アルザス地方の郷土菓子の名称だ。愛称は「クーちゃん」かな、と漠然と思い描いていた。

 しかし、飼い主の思い出を投影した、猫の個性とは無関係な外国語の名前をつけることに、気恥ずかしさもあった。だから言い出せないでいた。

 その日の夕食の席で「ハチワレの名前、どうする?」と私はツレアイにたずねた。数秒の間があり、「ぽんた」と彼は答えた。

「あの猫は“ぽんた”っていう感じがする。“ぽんた”がいいよ、名前」とツレアイ。

「それいいね、そうしよう!」と私。

 どうして賛成したのか、自分でもわからない。でも「ぽんた」と聞いた瞬間に「クグロフ」の案は頭から消えていた。

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最終更新:9/8(土) 14:30
sippo