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大江千里に聞く「格好悪い振られ方」と大人の恋愛

2018/9/8(土) 12:13配信

BuzzFeed Japan

「縄に入れた」きっかけ

退路を断ってきてるから、帰る場所もない。授業だって無料じゃない。肉体的にも精神的にもすごくつらい毎日でしたが、でも結局、一番好きなこと……それがジャズだったので、つらかろうが、しんどかろうが、適当に寝て、少しサボって、気持ちを入れ替える。

でも、再び学生ができる喜びもありました。ニューヨークがすごいのは、何歳であっても関係ないところ。みんなフラットに「センリ」と呼ぶ。30歳下の友人たちに混じって、同じ釜の飯を食う生活は、お金こそありませんでしたが幸せでした。

本も靴下も買わない学生だったので、日本から来た知人にもらった三島由紀夫の本をもらったり。それを持って歩いていたらニューヨーク・タイムズの取材を受けて「三島は割腹自殺したんだ。俺はジャズをやってる」って話した様が紙面に載って、次の日学校の先生に「Oh!New York Times man」っていじってもらえたり。

2年ほどかかって、だんだんジャズの中に入れるようになった。あらゆるものが、皮がむけていくように、楽しくなっていきました。大学を卒業したのは、52歳の時でした。

ジャズを掴んだ入口は、レッド・ガーランドの『Straight, No Chaser』のソロのフレーズを歌って覚えることだったり、先生から言われた「これを覚えなさい」っていうことを、毎日毎日すり込むようにやったこと。特別な薬や、劇的に視界が変わるようなヒントはなかった。

目の前にもらったアイデアで擦り切れるぐらい練習して、体に、骨身にすり込んでいく。それしかありませんでした。解答というのは。

ジャズピアニストとして、独り立ちした後に

大江は大学を卒業後、修行としてアメリカ各地を一人で回った。基本は、ジャズの名曲を自分流にアレンジして演奏する。アメリカのオーディエンスは、異国から来たジャズミュージシャンに対しても、いい演奏をすればスタンディングオベーションで讃えた。2年が経つ頃、大江は何かを再発見した。

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僕は当初、ジャズ、とりわけアメリカのジャズのオーディエンスは、特別なヒエラルキーを持っていると思っていたんです。だからこそ、不安があり、格闘していたのですが、そこに誤解がありました。

いいライブができた時は、国もジャズというジャンルも超えて、音楽を共有している雰囲気が場を包むんです。ウワーッと立って、喜びを、感動を全身で表してくれる。

最初は、シャイボーイみないなメンタルで「マジ? 本気で褒めてくれてるの?」と思ったのですが、どうやら嘘はない。スタンディングオベーションは、僕も活力になりました。

そんな中で、ポップス時代に書いた曲をジャズアレンジして演奏してみたら、手応えを感じたんです。『Rain』をピアノで弾くと「これ美しいメロディーだから、詞を付けて歌った方がいい!」と言われるくらいで。

正直、自分の曲なんて、長いこと聴いてなかったので驚きました。

ジャズだけに耳がいってた僕が、かつて自分が作ったポップの作品を真剣に聴いて、アレンジする。それによって視野が広がるような感覚があったんです。

フェンスも垣根もないような気持ちで、自分のポップスを聴けた。80、90年代に全霊をかけて作ったものは、こんなにもキラキラした活力を与えてくれる音楽だったんだと、気がついんたんです。

生きられる予感がする。そんな感じですかね。

若き日の青春って、今思えば些細なことに絶望したり、ある意味で残酷で。それを全部自分で処理して、紆余曲折あって大人になった。

その時に作った『BOYS & GIRLS』は、過去作品であるけれども、現在も生き続けていた。もともとポップスだったこの曲を、同じ人間がジャズとして、アメリカの場で「新曲です」と披露する。そうすると「おもしろい曲だ」と言ってもらえる。でも、この曲は80年代から90年代初頭に作られたポップスだと種明かしすると驚かれる。

作者としてもわくわくするし、過去と現在が結び付いて自分の人生が、意味があるものに感じられる。

ジャズミュージシャンとして、次で5作目のアルバムになります。ジャズもトリオ、クインテット、ビッグバンドといろいろやってきて、久しぶりにソロに回帰しようと思って。その時に、セルフカバーをやりたくなった。

ノスタルジーではなくて、ジャズミュージシャンとして新しい音楽にしたかった。ジャズは過去の作品を、畏敬の念を込めて自分でアレンジすることも多いジャンルなので。

『BOYS & GIRLS』には、「10年経って出逢った時もラストは君と」というフレーズがある曲なんです。30年前だから、何回「その10年」をやっているんだ? とも思うのですが(笑)、「ラストは君と」という感覚でこれからを生きられたら、そんな素敵なことはない。

だから、「ポップ・ミーツ・ジャズ」、「ジャズ・ミーツ・ポップ」であるこのアルバムのタイトルは『Boys&Girls』にしました。

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最終更新:2018/9/8(土) 12:13
BuzzFeed Japan

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