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【門間前日銀理事の経済診断(10)】日銀、謙虚に超低金利の害を避けるべき

9/11(火) 12:07配信

ニュースソクラ

超低金利で円高リスクも蓄積

 日銀が長期金利のコントロールを幾分柔軟化してから1か月が経った。国債市場に対する副作用を和らげるための措置であった。

 日銀は、これにより異次元緩和を長く続けることができるとしている。しかし、そもそも「異次元緩和を長く続けるべきか」が真の論点である。

 日銀は、大胆な金融緩和を続ければ2%インフレが実現すると考えている。しかし、5年半かけて実現しなかったものが、なぜ今後は実現するのだろうか。しかも過去5年半は、世界経済の同時拡大など外部環境に恵まれた局面でもあった。

 もちろん、日本の物価環境に何らかの構造変化が起こり、日本国民が2%インフレを普通だと思える日々がいつか来る可能性を完全否定はしない。しかし、それにはある種の偶然の作用が必要であり、意図して実現できるものではない。過去5年半の経験を踏まえれば、そう考えるのが常識的な判断だと思う。

 グッドニュースは、2%インフレにならなくてもそれほど困らないということである。確かに2%程度のインフレを伴う経済の方が、ゼロインフレの経済よりも、長い目で見てうまくいく、という考え方が世界の主流である。しかし、その差はたいしたことはないかもしれない。

 少なくとも現在の日本経済を見る限り、ゼロインフレであることが経済成長や雇用拡大の障害になっているとは思えない。失業率は26年ぶりの低水準であり、賃金も上がり始めている。日銀短観の設備投資計画は、連続したデータで遡れる限り過去最大の増加率である。景気拡張の期間も戦後最長の6年1か月に近づいている。

 このように、日本経済は近年にない良好な循環局面にあり、インフレでもデフレでもない状態が続いている。「物価の安定」が達成されているのである。経済が正常なのだから、金融政策も正常に近づけるべきだろう。

 極端な低金利の長期化には様々なリスクがある。よく言われるのは、金融仲介機能の低下やバブルの生成である。この点、日銀は現時点で大きな問題は無いとしている。しかし、日銀自身が公表している金融システムレポートの分析を見る限り、将来顕在化しかねない問題が既に進行し始めているような印象を受ける。

 そもそも金融政策の理論は、経済の循環変動への対応を想定したものである。極端な緩和が10年続くことは念頭に置かれていない。過去の経験もなく理論的にも十分解明されていないのだから、超低金利の長期化が経済にもたらしうる影響については、未知への謙虚さを持って様々な可能性への洞察を深めることが重要だ。

 例えば、超低金利が長く続けば、バブルというほどではないとしても、中長期的に採算のとれない投資や事業が促されたり、温存されたりする可能性が高まる。それらは次の景気後退時には不良資産と化し、デフレの温床になる。長期的には2%インフレからかえって遠ざかってしまうリスクすらある、ということだ。

 また、金利の上昇が全く展望できない状況は、金融資産の保有主体、すなわち家計には、閉塞感をもたらす要素の一つとなる。とりわけ高齢化社会が加速する日本では、利子所得を政策的に圧縮し続けることの影響をあまり無視しない方が良い。

 超低金利で家計から企業や政府への所得移転を後押しし続けることは、現在の景気の特徴からみても望ましいようには思えない。日銀短観だけでなく日本政策投資銀行の調査でも、企業の設備投資計画は極めて強い。これ以上投資を刺激してもその後の調整が深くなるだけだろう。一方の家計は、雇用者報酬の増加にもかかわらず慎重な消費行動を取り続けている。

 為替相場への長期的な影響にも懸念がある。日銀は2%インフレを目標とする理由の一つとして、長期的な為替相場の安定を挙げている。他国が2%インフレで自国も2%インフレなら、内外価格差が長期的に開かず、したがって為替も安定するというわけだ。

 この議論は本当に2%インフレが実現するなら正しい。しかし、いくら目標だけ2%にしても実際のインフレがずっとゼロのままなら、10年間で日本の物価水準が20%割安になる現実は変わらない。

 超低金利で円安方向にバイアスをかけ続けることは、いずれ一気に20%の円高が起こるリスクをため込むことかもしれないのだ。それよりは、現実を直視してなだらかな円高傾向を受け容れる方がましである。しかも、内外価格差に沿った円高なら競争力が落ちることもない。

 以上のように、超低金利の是非を巡る論点は多岐にわたる。金融機関収益への影響に問題を限定するのは適当でない。むしろ、金融機関の問題について言えば、日銀の政策よりも金融業を取り巻く構造的な要因の方が大きいだろう。

 マイナス金利やイールドカーブ・コントロールは窮余の策である。出口の展望なくこれらをいつまでも続けることが、日本経済の持続的な経済成長に資するのだろうか。逆効果となるリスクを完全に排除できるのだろうか。そのリスクが少しでもあるなら、なるべく早くやめた方が良い。

■門間 一夫(みずほ総合研究所 エグゼクティブエコノミスト)
1957年生。1981年東大経卒、日銀入行。調査統計局経済調査課長、調査統計局長、企画局長を経て、2012年から理事。2016年6月からみずほ総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト。

最終更新:9/11(火) 12:07
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