ここから本文です

ANAとJAXA、「宇宙日本食」を機内提供する「宇宙フライト」開始。大西卓哉 宇宙飛行士が宇宙の食事情を語る

9/12(水) 20:51配信

Impress Watch

 ANA(全日本空輸)とJAXA(宇宙航空研究開発機構)は9月12日、成田~ヒューストン線で「宇宙フライト 2018」の運航を開始した。機内で「宇宙日本食」を提供するのが特徴のフライトで、9月20日まで実施する。

【この記事に関する別の画像を見る】

 宇宙の日は、1992年にJAXAの宇宙飛行士である毛利衛氏が日本人として初めてスペースシャトルに乗って宇宙に旅立ったことを記念して制定された日。宇宙フライト 2018はこの宇宙の日に合わせてスタートし、民間航空再開を記念して制定された9月20日の「空の日」を終了日としている。

 対象となるのは成田~ヒューストン線の下記の便。知られているとおりヒューストンには、NASA(米航空宇宙局)のコントロールセンターなどがある「ジョンソン宇宙センター」があり、宇宙にゆかりのある就航地ということで、この路線が選ばれたという。

ANAとJAXAが実施する宇宙フライト 2018対象便(2018年9月12日~20日)

ANA174便:成田(11時15分)発~ヒューストン(09時30分)着
ANA173便:ヒューストン(11時30分)発~成田(翌15時20分)着

 宇宙フライト 2018では、機内で「宇宙日本食」を提供するのが最大のトピック。宇宙日本食は、JAXAが定める「宇宙日本食認定基準」に則って、食品メーカーから提案された食品を「宇宙日本食」として認証する制度。製造工程の安全性や製造体制の整備などが審査される。

“日本食”といっても広く捉えられており、“日本の家庭で食べられているもの”であれば対象となる。ただし、日本国内の衛生基準に則っていることが求められることから、国内に製造施設がある食品が中心になる。

 特に重要になるのは消費期限とのことで、常温で1年半以上保管できることが求められている。1名の宇宙飛行士がISS(国際宇宙ステーション)で活動するのは長期滞在でも4~6か月程度だが、事前に準備をし、ロケットで打ち上げ、冷蔵庫のないISSで保管しておける必要があるためだという。

 JAXAによる宇宙日本食は2007年に最初の食品が認定され、現在では16社の32製品が認定されているという。宇宙日本食として認定された食品は、全国の科学館や、筑波宇宙センターなどのJAXAの施設、食品メーカーのWebサイトなどで購入できる。

 ちなみに、宇宙日本食に認定された食品にはロゴマークを掲出することが可能となっている。この宇宙日本食ロゴマークは2種類あり、赤丸のマークは食品自体がISSで食べられるものと同じで、地上販売用に包装や容器などを変えているもの。金色の四角いマークは包装や容器もISSに搭載されるものと同等であることを示す。ただ、後者の商品は現時点では販売されていないという。

 宇宙フライト 2018で提供される宇宙日本食は、ハウス食品の「ビーフカレー」、三井農林の「緑茶」、山崎製パンの「羊羹(小倉)」、ロッテの「キシリトールガム(ライムミント)」の4種類。

 ビーフカレーは成田発便のみのサービスで、プレミアムエコノミー/エコノミークラスではメインメニューの選択肢の1つとして提供。ファーストクラス/ビジネスクラスでは好きなときに頼める軽食として提供する。

 緑茶はプレミアムエコノミー/エコノミークラスでのドリンクサービス時に。羊羹はセルフサービスのスナックとして提供。キシリトールガムは到着前にCA(客室乗務員)が配布する。

 宇宙フライト 2018の出発イベントには各社の担当者も列席し、各製品の特徴を紹介した。

 ハウス食品の「ビーフカレー」は、宇宙空間で地上と異なる味覚になることからターメリックを強めるなど濃いめの味にしてるほか、地上で売られる同社の一般的なレトルトカレーに比べて、カルシウムを6倍強、ウコンを2倍強にしている。また、宇宙では液体が丸まって飛散してしまうので、粘度を高めにしているという。

 三井農林の「緑茶」は、国産茶葉に宇治抹茶のうま味を加えたものを、粉末状にしている。ISS向けには透明のパッケージに粉末が入っており、そこに水やお湯を入れてお茶にする。粉末状のお茶というと回転寿司屋さんなどで提供されるお茶をイメージするが、それとはまったく異なるスプレードライ製法で作られている。これは、一度緑茶にしたものを噴霧して急速に乾燥させるもの。これにより水でもお湯でも完全に、簡単に溶けるようになっている。

 山崎製パンの「羊羹」は「小倉」と「栗」の2種類が販売されており、宇宙フライト 2018では「小倉」を提供する。羊羹は保存性が高く、包材は変えているものの原料も含めて地上で一般的に販売しているものとまったく同じ。一般向け商品は自社基準で消費期限を「1年」としているものの、実際にはもっと保存できるという。

 ロッテの「キシリトールガム」も地上とまったく同じもの。ガムは水分が少なく、品質が低下しにくいことから宇宙食に適したアイテムだという。ISS搭載品は1袋に1粒ずつ入れているが、宇宙フライト 2018では2粒が入った包みを2つ提供する。

 このほか、宇宙フライト 2018に合わせて、成田空港 第1ターミナル 第5サテライトにあるANA LOUNGE(ラウンジ)でも船外宇宙服や宇宙日本食を展示。訪れた人にキシリトールガムを配布する。

 宇宙フライト 2018初便となった9月12日のNH174便のゲート前では出発イベントを実施。登壇したANAHD(ANAホールディングス) デジタル・デザイン・ラボ チーフ・ディレクターの津田佳明氏は、1952年に日本ヘリコプター輸送としてヘリコプター2機で創業し、旅客機、ジェット機の導入、国際線進出とチャレンジを繰り返したANAの歴史を紹介したうえで、「ではANAは次にどこに向かうのか。3年前に10年先のANAを考える長期戦略構想を策定したが、“10年後は世界中を網羅するようなネットワーク”を示したが面白くない、10年先のわりには夢がない、と評価が芳しくなかった。そこで裏表紙に大きく『次は宇宙へ』と書いたら、すごく共感を得た。そこで、この先10年間は地球上で航空会社としてできることをやり尽くし、10年後は次のステージとして宇宙へ向かっていこうとなった」と、ANAが宇宙に取り組むようになったきっかけを紹介。

 2018年1月には宇宙事業化プロジェクトが立ち上がり、パイロットやCA、整備士などさまざまな部門から集まった17名のチームで本格的に宇宙の事業化を検討し始めたという。そして、「私たちは旅客機のオペレーションを宇宙にも活かすのは自信があるが、宇宙機のノウハウがない。従って必ずパートナーが必要になる。日本では宇宙の第一人者であるJAXAさんは心強い存在」というJAXAとの対話のなかで「宇宙日本食」の存在を知ったという。

 津田氏は「ISSにいる宇宙飛行士の皆さんに美味しい日本食を味わっていただき、リラックスしていただくというコンセプトで工夫をこらしている。その話を聞いて、お客さまに機内食を提供している私たちも関心をもった。そして、この宇宙日本食を皆さんに知っていただくことで、宇宙をより身近に感じていただくのではないかと考えた」と、今回の宇宙フライト 2018を実施することになったきっかけを明かした。

 宇宙日本食を機内食として提供することについては、「機内でリラックスしていただきたい、味が濃いめであるなど宇宙食と機内食は通じる部分がある」とする一方、「品質にこだわっている航空会社なので、これを本当にお客さまに提供してよいのか葛藤があった。それでも、チャレンジする会社なので、なんとか実現できた」との苦労も。今回のヒューストン線の実施で得た反応やフィードバックをもとに、今後の展開を検討する方針だ。

 出発イベントには、元ANAのパイロットで、JAXAの宇宙飛行士として2016年にISSに滞在した大西卓哉氏も来場。「日本の宇宙開発にとって記念すべき9月12日にこういうイベントを成田空港で開催できることは、宇宙飛行士としてもうれしいことだし、私はANAのパイロットをしてきた経歴があるので、二重の喜びを感じている」と話し、宇宙の食事情について紹介。

「本当なら宇宙でも新鮮な食材を持っていって、その場で調理して食べられればよいが、残念ながら今のテクノロジではそこまでいっていない。あらかじめ作られた宇宙食をまとめて打ち上げて、それをいただいている。

 具体的には、アメリカや日本の宇宙飛行士は、アメリカの宇宙食で“標準食”と呼ばれるものがまとめて届けられ、それをみんなで分け合って食べる。例えば、肉料理や野菜料理などが箱ごとに分けられていて、1つの箱を2週間に1回開けてよいことになっているので、2週間ごとに新しいものを出して自分の気に入ったものを食べる。新しい箱を開けてすぐのころはいろいろ入っていて好きなものを食べていけるが、2週間のサイクルの最後の方はみんなで取り合ったあとの箱になる(笑)。

 旅行に行かれても、1週間ぐらいすると日本の料理を食べたくなると思うが、日本人宇宙飛行士も、ずっとアメリカの宇宙食ばかり食べていると、食事も飽きてくるし、いろいろなストレスが溜まってくる

 そういったストレスの軽減のためにも、JAXAでは宇宙日本食を各食品メーカーと協力しながら開発を進めている。その宇宙日本食を個人食として持って行けるシステムがあるので、標準食で好きなものがなくなったときに日本食を出してくる。(全日程の食事のうち)15%ぐらいの割合を日本食として持っていった。例えば『今日は一日頑張ったなぁ』というときに、自分へのご褒美として夕食をまるまる日本食で構成した。また、週に一度~二度みんなで集まって食事をするが、秘蔵の個人食などを持ち寄って物々交換する。カレーは海外の飛行士にも人気だった」。

 こうした、リアルな宇宙の食事情を明かし、「宇宙という特殊な環境で何か月も生活するので、宇宙日本食を持っていけたのは日本の宇宙飛行士にはありがたく、心強い味方だった」として、開発に携わった食品メーカーへの感謝の言葉を述べた。

 さらに会見後の囲み取材では、米国から提供されている“標準食”について、「種類は多い。レトルトやフリーズドライ。健康に配慮しているので低塩分だが、食べる方としてはなので味にパンチがない。個人食は自分の好きなものを持って行けるので、とてもありがたいシステムだった」とコメント。

 他国のクルーにも人気だったというカレーについては、「宇宙で食べたときは普通のカレーだと思っていたので、味覚が少し変わっていたと思う」と話し、持参した宇宙日本食のなかでも、鯖の味噌煮とならんでお気に入りだったという。

 宇宙フライト 2018の実施については、「飛行機はおよそ10~11kmぐらいの高さを飛んでいるが、実はその10倍ぐらいの100kmより上の世界は宇宙と呼ばれる空間。もうほんのちょっと先に宇宙がある。例えば、フライト中に宇宙日本食をお試しいただいたり、JAXAはイベントにあたって機内エンタテイメントプログラムにもスペシャルコンテンツを用意したので、そちらをご覧いただくなどして、今回のイベントをきっかけに宇宙を身近に感じていただければ」と呼びかけた。

 ちなみに、ANAで進める宇宙事業について、津田氏は「本業として旅客機や貨物機の運航なので、人や物の輸送に興味がある」と話す。

 一般の人の宇宙旅行を実現するうえでハードルになることを、両名に1つずつ挙げてもらったところ、津田氏は「まず宇宙機を開発しなければならないことがハードル。機体自体やエンジンなどいろいろなものが組み合わさって完成するので、まずそれがないことには行けない」とコメント。

 大西氏は「飛行機の世界は安全が一番大事だが、宇宙も安全が一番大事。特にプロフェッショナルの宇宙飛行士だけでなく、一般の方々が宇宙旅行に気軽に行けるようになるためには、宇宙空間は元々いろいろな危険がある世界なので、いかに安全を担保していけるか」と話し、これを受けて津田氏も「安全運航はANAが66年間やってきたところなので、安全なオペレーションに関わってきた経験が、宇宙に皆さんが行くようになるときや、宇宙事業・ビジネスが発展していくときにお役に立てるのでは、そして貢献したいという思いがあってのプロジェクトでもある」と続けた。

 出発イベント終了後、NH174便への搭乗がスタート。搭乗に際しては大西氏が搭乗客にステッカーや、搭乗券を模した搭乗証明書を配布。搭乗証明書に書かれたQRコードを読み取ると、ANAの宇宙プロジェクト関連情報にアクセスできる仕掛けも隠されている。ちなみに9月13日以降の運航便では、ステッカーや搭乗証明書は機内食とともに提供する。

 宇宙飛行士の青いユニフォームに身を包んだ大西氏は日本人のみならず外国人からも注目を集めており、記念撮影を求める人の姿も多かった。その搭乗客188名(幼児1名含む)を乗せたボーイング 777-300ER型機が、大西氏や津田氏、CAらに見送られるなか出発。「宇宙フライト」がスタートした。

トラベル Watch,編集部:多和田新也

最終更新:9/15(土) 17:37
Impress Watch