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ブランドは、常に手を加えないと、廃れる

9/12(水) 15:01配信

ニュースソクラ

「わが経営」を語る 尾賀真城サッポロホールディングス社長(2)

 ――サッポロホールディングスの長期経営ビジョン「SPEED150」は、2026年がゴールですね。26年は創業150周年に当たり、ビール類の酒税が統一される年でもあります。

 「SPEED150」は、10年後の26年を見すえて16年に策定しました。最終年度は、様々な節目に符合します。また10年周期で酒類の需要は変わりますから、そうした動きに合わせて、スピーディーに経営を変革する方針です。

 私どもはビール会社からスタートしているので、この10年間に海外でもビールの販売を増やしてきました。国内では焼酎を始めましたし、一時期やっていなかった洋酒を再開したり、シャンパンやワインの品ぞろえを増やしたりして、どんなお酒も提案できる体制を整えました。

 ――その中で、やはりビールに特に力を入れていく方針なのですか。

 基本はそうです。ビールは酒税が下がり、お客様にとって買いやすくなるからです。またサッポロの商品の中で、我々とお客様とを強く結びつけているのはビールです。

 「黒ラベル」、「エビス」、北海道であれば「サッポロクラシック」、さらにジャパニーズ・オールデスト・ブランドのラガービールの「赤星」などです。ビールに注力して、新しい提案を加えれば、面白い展開ができると考えています。

 ――「赤星」は昔からありますね。

 映画俳優の三船敏郎さんの「男は黙ってサッポロビール」というCMの「赤星」です。ラベルのデザインは若干変わっていますが、赤い星は北海道の札幌で開拓使麦酒醸造所として創業して以来ですから、140年を超えるブランドです。

 ――先日、下町の居酒屋に知人らと入ったら、「赤星」が出てきたので、「珍しいね」とひとしきり話題になりました。

 「赤星」はものすごく伸びているんです。老舗飲食店とかガード下のモツ焼き屋さんとかで、扱うお店が増えています。昔ながらのラガーが伝統のよさもあって、この時代にビールらしいと、お客様に受け止めていただいているのだと思います。

 懐かしさだけでなくて、若い人たちにとっては逆に新しさなのです。飲食店では長年やっている方ほど扱ってくださいますが、若い店主の方にも独自性があっていいと評価していただいています。

 日本人が作った最古のビールのブランドですから、強烈な印象を与えるのだと思います。

 ――サッポロビールのブランドはそれぞれ確立していますね。これ以上、どう磨くのですか。

 ブランドというものは、常に手を加えていかないと、廃れる要因をはらんでいるのです。私はブランドが成り立つには、3つの要素が欠かせないと思っています。

 1つは独自性です。際立った特徴があって、とがったものがより先鋭化されるほど、ブランドは強くなる。

 2つ目は継続性です。「赤星」のように連綿と続くことは、お客様の信頼感につながるので、ものすごく大事です。

 3つ目に時代性です。長く続いても、古臭いとかジジ臭いと思われたら廃れます。やはり時代に合わせていかなければいけません。

 この独自性、継続性、時代性が、ブランドを磨いていくうえでのキーポイントです。ここを押さえて、うまさだったりデザインだったりをよりよくしていく必要があります。

 ――継続性も大事だが、十年一日のごとく同じ物を漫然と売っていてはいけないのですね。

 このブランドはお客様にどう見えているのかに注意して、常に新しいチャレンジをしていかなければ駄目です。

 ただし基本的なところを、大幅に変えてはいけない。変えるのは非常に危険な面を伴うからです。従って基本は変えずに、お客様の変化を見て、少しずつ変容させるように努めてきました。

 ――昔、米国のコカ・コーラが味を変えたら売れなくなったという事例がありました。

 我々は「黒ラベル」を1回止めたことがあるんです。「アサヒスーパードライ」が急激に売れたころです。

 「黒ラベル」はそれなりに売れていたのですけど、もっといいブランドを出そうと「サッポロドラフト」という新商品をつくって、「黒ラベル」を引っ込めました。

 それで何が起こったのかというと、お客様からのクレームの嵐です。本社にも私たち営業マンにも、お客様や飲食店さんから大クレームでした。「黒ラベルを出さないのなら、サッポロはもう飲まないからいいよ」と言われたのです。

 結局、春に出した「サッポロドラフト」を夏には止めて、「黒ラベル」を再び発売しました。その時、我々は何を学んだのか。ブランドは我々のものだと思っていたのですが、実はお客様のものだと身にしみてわかったのです。

 ブランドを作っているのはメーカーですけれど、商品を愛して飲んでくださるお客様への理解が足りなかったと、我々は気づかされたわけです。

 ――「サッポロドラフト」は自信を持って発売したのでしょう。

 もちろんです。中身を研究して、市場調査も入念にやりました。「黒ラベル」は重厚なつくりでよかったのですが、「サッポロドラフト」は軽やかな、これからの時代に向けたビールをつくろうという意気込みで取り組みました。しかし結果は散々で、お客様は「黒ラベル」がよかったのです。

 ――創業150周年を目指していますが、長い歴史も一つの資産ですか。

 お客様には、創業何年かは関係の無いことだと思いますが、この積み重ねを大事にして、商品やお客様との接点に企業の価値として生かしていきたいですね。

■聞き手 森 一夫(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:9/12(水) 15:01
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