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薬物依存に陥らせるのは、薬の作用というより「孤立」

9/13(木) 11:01配信

BuzzFeed Japan

薬物依存症に関する根本的な誤解

薬物乱用防止教室では、「薬物の怖さ」を子どもたちに伝えるために次のような残酷な実験が紹介されることがあります。

それは、ネズミを檻のなかに閉じ込め、檻のなかのレバーを押すとネズミの血管に直接薬物が注入される仕掛けをセットし好きなだけ薬物を使える環境に置くと、日がな一日レバーを押し続けるようになり、連日大量の薬物を摂取した結果、ついには死んでしまう、というものです。

その際、次のような解説のナレーションが入ります。

「1回でも薬物を経験すると、薬物の快感が脳に刻印付けられ、脳がハイジャックされてしまいます。その結果、自分の健康や命を守る本能が働かなくなるのです……」

この実験は、薬物依存症の怖さを説明するものとして頻用されてきましたが、いささか奇妙なところがあります。

というのも、レバーを押すと体内に注入される薬物を、覚せい剤やヘロインといった強力な依存性薬物から、依存性が比較的弱いアルコール(エチルアルコールは中枢神経抑制作用を持つ、立派な依存性薬物です)に切り替えても、やはり同じな現象が再現されるからです。

これはさすがにおかしいと思いませんか? 
【寄稿:松本俊彦・国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 部長】

人が薬物を使う状況を反映していない環境

だって、人間に置き換えて考えてみてください。

長い休暇をとって家族や恋人、あるいは気の置けない仲間たちと南の島――仕事を忘れて好きなだけアルコールが飲むことができる環境です――に出かけた人は、誰もがみんな死ぬまで飲酒し続けるでしょうか?

まさか。そんなことはめったにありません。

いくら休暇といっても、日がな1日飲む人はむしろ少数派です。むしろ、日中はしらふか、アルコールを飲むとしてもごく少量にとどめ、仲間とビーチで泳いだり、日光浴しながら読書をしたり、あるいは、景勝地を観光したりする人の方が多いのではないでしょうか? 

もろちん、夜ともなればお酒を飲むでしょうが、それでも、大抵の人は、恋人や家族とディナーを味わったり、パーティで友人や知人との会話を楽しんだりすることを妨げない程度の量にとどめるのではないでしょうか?

要するに、あの実験の設定は、人が薬物を用いる状況を正確に反映していない可能性があります。

ネズミが死ぬまで薬物を使い続けたのは、薬物自体が持つ毒性・依存性によるものではなく、むしろ檻のなかという、孤独で、窮屈で、自分の裁量がまったく効かない不自由な環境のせいではないでしょうか?

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最終更新:9/13(木) 11:29
BuzzFeed Japan

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