ここから本文です

【ZOOM東北】岩手発 沖合に漁船避難 津波から守る「沖出し」ルール策定目指す

9/16(日) 7:55配信

産経新聞

 岩手県は東日本大震災を教訓に大津波から漁師の生命を守るため沖合に漁船を避難させる「沖出し」のルールづくりを進めている。岩手、宮城、福島の被災3県で初めての試みだ。震災時に「沖出し」で無事だった漁師と漁船が復興に大きな役割を果たした。岩手県は県内24漁協すべてのルールづくりを目指している。(石田征広)

 ◆水深100メートル以上は「安全」

 岩手県大船渡市の根(こん)白(ぱく)漁港で8月22日、吉浜漁協の「沖出し」のルールづくりを後押しする県の実証実験が繰り広げられた。港口から5~6キロの沖合にある水深100メートル以上の安全な避難海域を設定、港口や操業海域からの所要時間を測って、船速を割り出した。

 安全な避難海域を水深100メートル以上としたのは震災時に「沖出し」した地元の漁師9人が避難先を沖合5~10キロの水深70~100メートルの海域と証言したため。実験には主にサケやサバ、カレイなどを漁獲する動力船5隻、ワカメやホタテ養殖用の船外機を動力とする小型船(サッパ船など)9隻が参加した。

 港口から安全な避難海域まで、操業海域から安全な避難海域まで、操業海域から根白漁港まで、それぞれ全速力で走って所要時間を測った。このうち、動力船が港口から安全な避難海域までの所要時間が14分50秒~21分55秒で、船速は16・8キロ~25・7キロだった。

 ルールづくりを担当する県漁港漁村課によると、このデータをもとに10月下旬から11月にかけて素案を吉浜漁港に提示、年明けをめどにルールをつくることにしている。すでに同様の実証実験を経て、田老漁協が県内で初めての「沖出し」ルールを策定した。

 動力船(定置網や刺し網など)は、漁師が陸上にいた場合、港口で予想される津波の高さが3メートルの津波注意報・津波警報、5メートルの大津波警報、10メートル以上の大津波のいずれも「沖出し」しない。ただ、津波到達まで2時間以上のケースは漁船までの移動時間で判断するとした。

 海上にいる場合には、漁港まで5分以内なら状況によって漁港に戻るか「沖出し」するか判断する。5分以上の場合は津波注意報・津波警報は水深30メートル以上、大津波警報は同50メートル以上、高さ10メートル以上の大津波は同150メートル以上の安全な避難海域に「沖出し」するとした。

 ◆「知識の普及」の側面

 船外機を動力とする小型船は漁師が陸上にいる場合は3つのケースとも「沖出し」しないとした。海上にいた場合も3つのケースとも最寄りの漁港に帰港し原則「沖出し」しないとした。ただし、帰港時に転覆の恐れがある場合、各自が帰港か「沖出し」かを判断するとしている。

 県漁港漁村課の阿部幸樹総括課長は「吉浜漁協でも小型船は沖出しはしない方向になる」と話した。今後は田老、吉浜両漁協のケースを県内の漁協関係者が集まる会議で説明、来年度から本格的にルールづくりを働きかける方針。

 ただ、田老、吉浜両漁協以外ではルールをつくって事故があった場合に責任を問われかねないとして、二の足を踏む漁協がほとんど。阿部総括課長は「沖出しするかどうかは自己責任。ルールはあくまでも目安。例えば、水深100メートル以上の海域が大丈夫という知識があれば自主的に避難もしてくれる。ルールづくりは知識の普及という側面もあるんです」と強調する。

 吉浜漁協は震災時に「沖出し」したこともあって10隻の漁船が残った。これを漁師70人が共同で利用していち早くワカメやホタテの養殖を再開、三陸沿岸南部で最も早い復興の原動力になった。同漁協の佐藤善之業務課長が「この10隻が残っていなかったら大変なことになっていた」と話すほどで、多くの漁協の取り組みが期待される。

最終更新:9/16(日) 7:55
産経新聞