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<生活>高齢者が「消費税10%」に反発する切実な理由

9/15(土) 9:30配信

毎日新聞

 2019年10月、消費税は8%から10%へと引き上げられる予定です。ただ高齢者からは予想以上の反発もあるのではと、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生さんは見ています。その切実な理由とは何でしょうか。【毎日新聞経済プレミア】

 ◇物価が先に上がってから年金額に反映

 増税は誰でも嫌うが、特に高齢者は消費税率の引き上げへの反対が強い。税率アップを財源にして、幼児教育無償化などを実施することになっており、10%への増税を安倍政権がさらに延期することはないだろうが、半面、今度も高齢者からの反発が予想される。

 第1の理由は、年金の支給額が固定的であるからだ。消費税の引き上げや物価上昇によって、生活コストが増える一方で、年金の支給が増えないとすれば、実質所得減となる。

 14年は消費税率が5%から8%へと引き上げられた年である。14年度は、年金支給額は前年比0.7%下がり、消費者物価は前年比2.9%も上がった。0.7%の年金削減は、従来、物価下落を年金にスライドさせなかった特例扱いの部分を解消させることを行ったものだ。そして、15年度は、1年遅れで物価スライドで年金支給額は前年比0.9%ほど上がる。

 14年の経験は、特例水準の解消を増税のタイミングにもってくるという対応のまずさもあるが、物価スライドが1年遅れで実行されるという、制度上の問題もある。さらに、年金制度には、マクロ経済スライドという削減ルールがあって、物価上昇率が0.9%以上にならないと、それ以上の物価上昇率をスライドさせない仕組みである。固定的な支給額の下では、物価が上昇するほど高齢者が不利益となるのだ。

 ◇食料、光熱・水道費は大幅に上昇

 第2の理由は、高齢者がより生活コストの上昇を感じやすくなっていることである。総務省「家計調査」では、高齢者世帯は「食料」「光熱・水道」の支出割合が多くなっている。実は、この2項目は過去10年間で最も物価上昇が進んだ項目なのである。

 消費者物価の総合指数は07年から17年の間に3.3%しか上昇していない。しかしこの間、食料は11.8%上昇、光熱・水道は12.3%も上昇している。この物価上昇の痛みは、勤労者世帯よりも高齢者世帯で強く表れる。

 特にこの10年間の生鮮食品の値上がりは大きく、生鮮魚介は23.0%上昇、生鮮果実は14.2%の上昇だ。これに反応して、生鮮魚介の購入数量はマイナス35.5%、生鮮果実はマイナス15.4%と激的に減っている。「最近、お魚を食べなくなった」と嗜好(しこう)の変化をコメントする人もいるが、それは値段が高くなったから買い控えが起きているに過ぎない。家計は指数をみて生活実感を判断しているのではなく、スーパーなどで生鮮食品の値動きから「厳しい」とか「割高だ」とかを感じているのである。

 ◇無職の年金生活者が増えている

 高齢者は、所得が固定的なので、値上がりに対して購入数量を減らしたり、より値段の安い別のものに買い換えたりして我慢をしている。デフレ的な価格感応度の高さには、こうした背景がある。

 単身世帯を含む全世帯の有業比率(世帯主が働いている比率)を調べると、02年は69.8%、12年は63.1%、2017年は60.9%まで低下していた。この数字は、無職の年金生活者が多くなり、全世帯の約4割を占めていることを示している。

 先行き、2020年に年金制度改革が行われる予定である。そこで年金の物価スライドの仕組みをもっと工夫しなければ、社会保障を立て直すための消費税増税に高齢者が反対する図式が続いてしまう。

最終更新:9/15(土) 9:30
毎日新聞