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警察官から若女将に転身、老舗温泉旅館を切り盛り 島根・江津 

9/15(土) 16:22配信

産経新聞

 憧れだった警察官から老舗旅館の若女将に転身した女性が、由緒ある温泉街の灯を守ろうと奮闘している。島根県江津市の有福(ありふく)温泉で「ありふくよしだや」の若女将を務める佐々木文(あや)さん(31)。畑違いの仕事に戸惑う毎日だが、SNSなども駆使して地元の魅力を発信。持ち前のバイタリティーと笑顔で、低迷する温泉街を盛り上げている。

 有福温泉は651(白雉2)年の発見と伝えられ、古くは「福有りの里」と呼ばれた歴史ある湯治場。かつては20軒近い温泉旅館が立ち並び、平成12年には14万人以上が訪れたが、現在は4軒が残るのみ。昨年の観光客数は5万人弱だった。

 よしだやは、江戸時代から約250年間続く老舗旅館。佐々木さんはその長女として誕生したがスポーツ好きで、体育教師を目指して日本女子体育大(東京都世田谷区)に進学。ところが1年の夏、住んでいた寮に男が侵入。佐々木さんが1人で眠っていた部屋に入り込んだが佐々木さんには気づかず退出し後日、警察に逮捕された。

 無事だったとはいえ、「生きた心地のしない恐怖感」に震えた。同時に、男が逮捕されたことに心の底から安心し、「私も女性や子供たちに安心感を与えたい」と警察官に憧れた。卒業後、教員として中学校に2年間勤務したが警察官への憧れは消えず、採用試験に挑戦。平成24年度、警視庁に採用された。

 だが、身体の弱い父、正臣さん(69)の分まで頑張っていた母、美弥子さん(66)が体調を崩したため、帰郷を決意。26年度に島根県警に入り、地元で警察官として務めながら両親を見守ることにした。交番勤務や犯罪の初動捜査、要人警護などを経験。「体を張った仕事に、責任感をひしひしと味わった」

 一方、両親と過ごす時間が増えると、旅館経営の大変さも実感、負担の重い母を心配した。人口減少と高齢化が進む町では、どこも跡継ぎ問題に苦慮しており、温泉街の旅館が次々に減っていく現実を目の当たりにした。

 「生まれ育った有福がなくなってしまう」との危機感から今年3月、旅館を継ぐことを決意。県警の上司は「人当たりがよく活発で、この仕事にぴったりなのに、もったいない」と思いつつ、快く送り出した。

 警察官から転身して半年。朝5時半に起きて朝食を用意し、布団を下げて宿泊客を見送ると夕方には新たな客を迎え入れ、夕食を用意。次の日の仕込みをして予約確認、部屋割り…と目まぐるしい。日中の合間には、別棟でカフェも手伝っている。

 「お客さんと会話したり、いろんな人と関わったりするのが好き」という佐々木さん。インスタグラムやフェイスブックを始め、宿泊施設予約サイト「Airbnb」に登録。県外へのキャラバン活動にも参加した。「有福温泉、島根県が持っている魅力をどんどん発信し、町を盛り上げたい」と意気込みを語った。

最終更新:9/15(土) 17:26
産経新聞