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<相続>円満から暗転「10年後の争族」いさめた82歳母

9/16(日) 9:30配信

毎日新聞

 10年前に夫を亡くした82歳女性。自宅やアパートなど遺産は子供らと3人で円満相続しましたが、年月がたつにつれ「争族」の兆しも。そこでA子さんが取った行動とは……。ありがちな相続のケースを税理士の広田龍介さんが解説します。【毎日新聞経済プレミア】

 東京都心に近い住宅地に住むA子さん(82)は10年前に夫を亡くした。主な遺産は、自宅の土地(相続税評価額1億1500万円)と建物(同1200万円)▽隣接する築10年のアパートの土地(同8250万円)と建物(同1000万円)▽金融資産5000万円--だった。

 ◇「ありがとう」亡父へ家族の感謝

 家族はA子さんと長男(45)、長女(40)の3人。長男長女はすでに独立しており、3人で遺産相続について話し合った。まず、自宅の土地建物と金融資産5000万円はA子さんが受け継いだ。アパートは家賃収入が月約50万円あり、兄妹2人の「生活の足しになる」ということから、2人が2分の1の共有で相続することにした。さらに生命保険金4500万円があり、1人1500万円ずつ受け取った。

 相続税は総額約2000万円。相続税には「配偶者の税額軽減」の特例があり、A子さんの納税はなかった。兄妹は1人あたり約500万円を納税することになったが、入った生命保険金を充てても、それぞれ現金1000万円が手元に残った。家族が遺産をめぐって争う「争族」など、どこ吹く風の「円満相続」。3人は「お父さん、ありがとう」と感謝しながら、仲良く相続を乗り切った。

 だが、年月が経てば、状況も変わってくる。築20年に近づいたアパートは、建物修繕費用がかさむようになり、1回あたり100万円超になることもあった。借家人が退去しても、新しい入居者がなかなか決まらないこともあり、空室期間が長びけば、そのぶん収益は悪化していった。仲良しで知られた兄妹だが、いつしかアパート経営の費用負担をめぐり言い争いになることも増えてきた。

 ◇「アパートを売りたい」長女の提案

 兄妹の争いに心を痛めたA子さんはその度ごとに仲介を買って出た。「お父さんが残してくれたアパートよ。賃貸収入には今まで随分と助けられてきたんじゃないの。だから2人で仲良く管理しなさい」と。

 長女も、毎月の家賃に助けられてきたことは十分わかっているつもりだった。だが、次第にそれは「当然の定期収入」という感覚に変わっていた。さらに子2人の教育費支出がかさむようになり、特に医学部を目指す末っ子にはまだお金がかかる。そんななか、アパートの修繕費用は、追加でのしかかる大きな負担と感じるようになっていた。

 「一緒にアパートを売ろう」。長女は長男に切り出した。だが、長男は、父が残し、立地も悪くないアパートを手放す気にはならない。長男がそう告げると、長女は「それなら私の2分の1の持分を買い取ってよ」と要求してきた。

 長女の持ち分は相続税評価額で考えても約5000万円になる。そんな資金は長男にはない。仮に、銀行融資で手当てするとしても、今後のアパート経営の資金収支で考えれば割に合わない。兄妹の関係はますます険悪になっていった。

 ◇「一体いくら必要なの?」言い放った母

 にっちもさっちもいかなくなったころ、A子さんは長女を訪ね、こう切り出した。「それで、あなたは一体いくら必要なの」。

 「医学部の進学費用として1000万円がいるの」と長女は答えた。すると、A子さんはあっさりと言い放った。「それなら、あなたの土地の持分の半分を私が2000万円で買い取るわ。建物はそのままあなたが持ち続けなさい。それならこれからも家賃は入るでしょ」

 10年前にお父さんが残してくれた「円満相続」を今さら「争族」になんてしたくない--。それがA子さんの思いだったのだ。

最終更新:9/16(日) 9:30
毎日新聞