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減らぬ介護離職 「在宅」シフト政策を改めよ 論説委員・河合雅司

9/16(日) 8:59配信

産経新聞

慢性的なスタッフ不足

 家族の介護や看護のために仕事を辞める「介護離職」が高止まりしている。

 総務省の「就業構造基本調査」(2017年)によれば、16年10月~17年9月の1年間に離職した人は約9万9千人に上った。

 5年前の前回調査(約10万1000人)と比べれば微減だが、少子化で若い世代は激減していく。決して小さくない数字といえよう。

 介護をしている40~50代は少なくない。こうした働き盛りの年代が突如職場を去ったならば業務の混乱は避けられない。生産性は下がり、税収にも影響しよう。介護離職者の8割は女性だ。安倍晋三政権が掲げる「1億総活躍」に大きく水を差している。

 介護離職を減らすには公的な介護サービスを増やすしかない。ところが、受け皿となる特別養護老人ホーム(特養)などが圧倒的に不足している。

 これに対し、政府は2020年代初頭までに特養などの「受け皿」を前倒しで整備し、施設数も拡充する方針を明らかにしている。

 ただ、高齢者が今後激増するのは大都市部だ。地価が高く、思ったように進むかどうか定かではない。

 それ以前の問題として、業務内容の厳しさに賃金が見合わず、介護現場は慢性的な人手不足にある。地域によっては特養のベッドの空きがありながら、スタッフが足りず待機者を入所させられずにいる例もみられる。

日常生活は家族に依存

 政府は税財源による介護スタッフの処遇改善に乗り出しているが、厳しい財政状況下では限度があろう。

 外国人材の受け入れの拡大も図ろうとしているが、各国とも介護人材を求めている。要介護者の増大に追いつくほどの人数の外国人労働者を確保できるかどうかは分からない。介護職の場合、専門知識だけでなく一定の語学力や技能水準が求められる。

 施設の受け入れ態勢の脆弱(ぜいじやく)さに加えて介護離職に拍車を掛けているのが、病院や介護施設から「在宅」へのシフトという政府の政策である。

 不必要な入院などを無くすことで社会保障費の伸びを抑制しようということで進められてきた経緯もある。

 「在宅」を進めるために考え出されたのが、自宅を含む住み慣れた地域で最期まで暮らせるよう医師や看護師、介護スタッフが訪問する「地域包括ケアシステム」だ。

 だが、地域包括ケアシステムは医療や介護の専門職、自治体職員だけでは成り立たない。買い物や洗濯、掃除など、患者や要介護者の日常生活の多くは家族や地域のサポートを当て込んでいる。

 すでに人口が減り始めている地方などでは、少子化で支え手となる若い世代がすでに激減してしまったところもある。一方、都会では近所づきあいが乏しく、住民同士の助け合いが期待できない地区が少なくない。

 名前こそ「システム」と付けられているが、中心となる医師の力量に依存しているところが大きいのが実情だ。現状では機能している地域も中心的な医師が引退したら停滞や破綻が懸念される。

抑制効果の検証が必要

 そもそも、「在宅」シフトは歳出削減にどれだけ有効だったのか検証が必要だ。確かに、必要度の低くなった人が退院したことによって医療費は抑制できた部分はあろう。社会保障費だけを取り上げれば、「在宅」シフトには一定の抑制効果はあった。

 だが、これから1人暮らしの高齢者の急増が見込まれている。高齢者の多くが認知症になると予想されている。個々の「在宅」での生活を維持するために、買い物支援や地域の公共交通機関の維持など他の行政経費が大きく膨らんだのでは意味がない。

 少子高齢社会において、社会保障費の抑制を社会保障制度改革の枠組みだけで実現することには無理がある。

 介護離職の10万人近くでの高止まりは、地域包括ケアシステムが絵に描いた餅になっていることを示すものだ。そろそろ「在宅」シフトから転換すべきときであろう。

 社会の支え手が激減していくことも勘案すれば、むしろ少ないスタッフ数で患者や要介護者に効率よく対応できる態勢を組んでいくことのほうが現実的である。

 社会保障費の抑制ペースが落ちたとしても、トータルでは歳出削減が進むことだろう。高齢者の「高齢化」が本格化する前の政治決断が求められる。

最終更新:9/16(日) 8:59
産経新聞