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「南部せんべい」復活プロジェクト 鍵は幅広いファンの獲得、“顔”見える店頭販売に力

9/16(日) 11:06配信

デーリー東北新聞社

 南部せんべい発祥の地とされる青森県八戸市内の製造業者が、業界の“復活”に向けて「ブランド力向上プロジェクト」を展開している。復調につながる大きな変化はまだ見られないものの、一部の業者は店頭販売を強化し、“顔”の見える店づくりに取り組んで成果を挙げるなど着実に歩みを進めている。一方、同プロジェクトは、主に三戸郡で成功している幅広いファンの獲得を再生の鍵に位置付ける。元祖・八戸が真に復活を果たすためには、業者自らが改革を進めるとともに、一般消費者の購買意欲の高まりも不可欠だ。

 プロジェクトは八戸商工会議所が企画し、店頭販売を手掛けている市内13業者が参加。7月は強化月間として、認知度アップや宣伝方法の工夫に取り組んだ。

 南部せんべいの小売市場を巡っては、製造規模や商品開発力に勝る市外企業が売り上げを伸ばし、八戸の業界を取り巻く環境は厳しさを増している。これまでは、スーパーなどへの卸売りに頼ってきたため、店頭での直接販売による売り上げ増を目指す。

 強化月間に合わせ、参加店は新調したのぼりを掲げて消費者にアピール。看板がなかった店もあり、地域住民にせんべい店だと認知されていなかったケースもあったという。

 上舘せんべい店(田面木)は、プロジェクトを機に店頭の販売環境を改善。ショーケースを変えたり、商品名や価格を書いたポップを作ったりしたほか、新たに棚を設置したことで売れ行きが伸びた商品もあった。

 店主の稲福智美さんは「自分たちで店頭販売を増やす意欲が出てきた。プロジェクトはまだ始まったばかり。これからも続けていきたい」と意気込む。

 営業活動に取り組み、新たな販売ルートを構築した業者もいる。上舘せんべい店(鍛冶町)の後継者・高橋加菜子さん(36)は、同市のコープあおもりるいけ店に商品を売り込み、取引が成立。店内で試食販売会も行い、売り上げが上向いたという。

 高橋さんは「試食販売が好評で、おいしさを知ってもらうきっかけになった。店頭販売も大事にしつつ、営業にも力を入れていければ」と販売戦略を描く。

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 八戸の業者が再生するヒントは隣り合う三戸郡にありそうだ。郡内の専門店は主に「羽根型式」という機器で手焼きし、それぞれが固定客を確保している。

 今年で創業101年を迎えた三戸町の「小山田煎餅店」。老舗の変わらない味にほれ込んだファンは数知れず、続々と買い物客が来店する。常連やリピーターに支えられた専門店ならではの光景だ。客層の7割が町外から訪れ、残る3割が地元住民だという。

 3代目の小山田美穂代表(72)は「せんべい屋は昔ながらの家内工業。長年の技量と三戸せんべいのおいしさが根強いファンをつくってきた」と自負する。

 目先の収支にとらわれず“小山田ブランド”を確立。今では店頭販売が売り上げの半分以上を占め、郡内を代表する業者としてテレビにも取り上げられた。地元にゆかりがある人の縁で、日産自動車のカルロス・ゴーン会長が同店のせんべいを食べたこともあるという。

 小山田代表は「常に職人の原点に立ち返り、この味を残していきたい」と強調。八戸の“仲間”に向け、「おいしいせんべいは口コミで広がっていく。八戸も手焼きの味を生かしてほしい」とエールを送る。

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 八戸商議所は、元祖八戸の復活に向けたプロジェクトを継続的に展開する方針。次回は強化月間第2弾を11月中旬から12月上旬に実施し、広く専門店をアピールする考えだ。

 参加店での購入者を対象に実施したアンケートでは、せんべいを食べる頻度が高い人は50代以上が大半を占めることが判明。メインターゲットである中高年層への販売を強化しつつ、若い世代にPRして新規の顧客を掘り超す重要性も指摘されている。

 プロジェクトを担当する八戸商議所の田村暢英・嘱託専門指導員(65)は「業者が切磋琢磨(せっさたくま)してほしい。発祥の地の八戸には底力があるはずだ」と力説する。

 南部せんべいがソウルフードとして根付いた八戸は、昔も今も大量消費地である環境に変わりはない。復活に向け“再始動”した機運を今後も生かせるかどうかは、業者だけでなく地元の食文化を残そうという消費者の思いに懸かっている。

デーリー東北新聞社