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恵比寿売れば1兆円だった 世界の名だたるビール会社を買えたが

9/19(水) 12:06配信

ニュースソクラ

「わが経営」を語る 尾賀真城サッポロホールディングス社長(3)

 ――米国では日本系ビールの中で一番売れているのですか。

 日本系ビールというくくりで、我々は米国で30数年トップなのですが、もっと高いところを目指しています。 我々は米国とカナダの両方を考えています。

 2006年にカナダで3番目に大きいスリーマンというビール会社を買収しました。ラバットとモルソンが非常に大きいので、それほど大きくないのですが、買収後、売り上げ、利益ともに大幅に伸びました。

 当初4%程度だったシェアが8%くらいになって、我々にとってスリーマンは北米での中核会社です。伸び盛りで、「サッポロ」も売っています。

 また同社は地域のビールメーカーを買収し、州ごとにマーケティングをがっちりやれるようになりました。カナダでは盤石の体制ができましたね。

 一方、米国では昨年ビールメーカーのアンカー・ブリューイングを買収しました。このアンカーと販売会社のサッポロUSAをうまく統合して、製造と営業体制を融合させようと思っています。

 最終的には、北米で「サッポロ」を含めて「アンカー」と「スリーマン」というブランドを機能的に売れる体制をつくろうと、今着々と進めているところです。

 ――スリーマンの買収が成功した要因は何ですか。

 まずは現地の人間とサッポロの人間が解け合ったことです。そしてサッポロ・ウェイを押しつけずに、スリーマンの歴史を大事にしながら、品質とか我々の思いとかを向こうのものとうまく融合できたからだと思います。

 今では現地の従業員が「サッポロと一緒になってよかった」と言っています。これが強みで、現在の業績好調を支えています。

――北米での売り上げはどのくらいですか。

 全部合わせて年間売上高は酒税込みで500億円くらいになります。今後、北米は我々にとって非常に重要な市場になっていきます。

 ――その他の海外はどうですか。

 あとはアジアです。日本に近い韓国、台湾、中国は輸出です。東南アジアではベトナムの工場が拠点です。今人口が1億人を超す国が12あって、13番目にベトナムが多分なります。ビールの総需要が数年で日本を抜くんです。ベトナムの人はビールが大好きで、ビールを売るには最適の国です。

 ――成功しているのですね。

 ですが2011年に、誰も「サッポロ」ブランドを知らないゼロから工場をつくって、やっとブランドが認知されるまでになったのです。

 ずっと赤字で、今年上半期から黒字になりました。これからが楽しみです。ただし市場は伸び盛りですが、競争が激しく、価格が安いんです。

 我々はベトナムのためだけの工場とは考えず、アジア全体に供給するサッポロビールの拠点の1つと位置付けています。

 うちのビール工場は日本に6つ、北米に3つ、そしてベトナムに1つです。今後、これらが縦横無尽にビールを供給するグローバル供給体制になっていきます。

 ――サッポロホールディングスは不動産事業もやっていますね。売り上げは小さいですが、利益は全体の半分くらいを占めています。ビール、飲料事業などと、どのような相乗効果があるのですか。

 我々の不動産事業は、マンションを分譲するわけでも建売住宅を売るわけでもありません。本社がある「恵比寿ガーデンプレイス」は、ビール工場の跡地で、エビスビール発祥の地です。恵比寿の町があって「恵比寿ビール」(1890年発売)が生まれたのではなくて、その逆なのです。

 東京の山手線内でこれだけ大規模な開発はあまり例が無いでしょう。「エビス」ブランドの発信基地でもありますが、バブル崩壊後に借金を抱えて苦労しました。その後10年はビールにもっと投資したい場面で、なかなかうまくできなかったのは、このためもあるのです。

 しかし20数年たって、いまだに多くのお客様に来ていただいて、周りの恵比寿の町も変わりました。不動産・住宅案内サイトのスーモの調査では、恵比寿は関東圏の住みたい街ランキングで1位とか2位になっています。

 我々は地域貢献という意味で不動産事業をとらえています。札幌市の複合商業施設「サッポロファクトリー」も、サッポロビール発祥の地です。あの地域一帯の街づくりの一端を担う狙いもあるのです。

 ――単なる不動産業ではないわけですね。

 基本は恵比寿と札幌と、ポッカサッポロフード&ビバレッジがある名古屋市の一部といった、会社との結びつきが強い所で、地域の価値を高めて、併せて企業価値をいかに高めるかという観点で取り組んでいます。

 東京の銀座も、ビアホール発祥の地でかつて本社もありましたので、ビアホールをやっています。高い地価の銀座で、なぜと思われるでしょうが、我々だからこそビアホールをやる価値があるのです。

 ――ブランドを高める点で相乗効果があるわけですか。

 恵比寿ガーデンプレイスの開発には3000億円をかけて、一時はどうなることかと苦しみました。当時、土地をそのまま売れば1兆円になったと言われました。

 もし1兆円あれば、世界の名だたるビールメーカーを買っていたかもしれませんよ。まだ安かったので、いくつも買えたかもしれない。しかし外に目がまだ向いていなくて、そんな発想は無かったんです。

 あのころ1兆円があったら、今とは全く違う人生だったろうなと思うこともありますけどね(笑)。そんなことを言ったってしょうがないので、ここは後生にいい形で引き継いでいきたいと思います。

(次号に続く)

■聞き手 森 一夫(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:9/19(水) 12:06
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