
(c)AFPBB News
【9月19日 AFP】グラハム・ショート(Graham Short)さん(72)は夜の静寂の中、誰にもまねできない極小彫刻作品を制作する。作業のためにボトックスを注射し、ベータ遮断薬(心臓の動きを抑え、血圧を下げる薬)を服用するほどのこだわりようだ。
ピンの先やかみそりの刃の隅に文字やシンボルを手で彫るショートさんは、「世界最小の彫刻職人」とも呼ばれる。作業は、屋外の振動が最も静まる真夜中から明け方にかけて行う。
ショートさんは、英イングランド中部バーミンガム(Birmingham)郊外にある自宅の工房でAFPの取材に応じ、「少しやりすぎだとは分かっているが、取りつかれてしまった」と語った。「ここまで苦労を惜しまないのは私ぐらいだろう」。ショートさんは自分が世界でただ一人の極小彫刻職人だと自負しており、「それが原動力になっている」と言う。
完成までに数か月かかることが多い。ケースに入れられた作品は、肉眼では見えない複雑な細部まで捉えられるように照明で照らされ、顕微鏡の下に置かれて展示される。
英語、アラビア語、カリグラフィーを融合したショートさんの一連の作品は、アートの投資家らに通常1作品20万ポンド(約2900万円)で取引されている。
縫い針の穴に埋め込んだ金にエリザベス女王(Queen Elizabeth II)の顔を彫った作品は、スコットランドの酪農家に10万ポンド(約1500万円)で売却された。
かみそりの刃の隅に「nothing is impossible(不可能なことはない)」と彫った作品は、イングランド北部のアートギャラリーに5万ポンド(約730万円)で売られた。
■塩粒に刻まれた「love」
ショートさんは15歳で学校を辞め、彫刻会社で見習いとして働いた後、独立した。それから何十年も文房具に刻印をする仕事に携わり、顧客には英王室や高級百貨店ハロッズ(Harrods)が名を連ねた。空き時間に極小彫刻を手で彫るようになった。最初はルーペで作業していたが、今は顕微鏡を使っている。
最初の作品は、金製の幅2ミリのピンの頭に主の祈りを彫ったものだった。仕事と2人の子どもがいる家庭生活を両立させなければいけなかったので、完成まで数十年かかった。
「完成したとき、作品から目を離すことができなかった」と、ショートさんは振り返る。「その作品は私の全人生をかけたものだった」
デジタル化の時代となり、伝統的な刻印の仕事が縮小すると、ショートさんはすべてを極小彫刻の制作にささげるようになった。
ショートさんによると、過去15年間で制作した作品は48点以上に上るという。
1粒の塩に「love」と彫られた驚きの作品もある。この塩粒は完成後、依頼主の妻から抜けた1本のまつ毛に乗せられた。依頼主はシベリアの塩鉱山で財を成したロシア人で、妻へのバレンタインの贈り物だった。
■宝探し
ショートさんは2016年、4枚の5ポンド紙幣に「高慢と偏見(Pride and Prejudice)」の著者ジェイン・オースティン(Jane Austen)の非常に小さな肖像画を彫刻したことで、英国内で一躍有名になった。
ショートさんはその4枚の紙幣を国内各地で使用し、流通する紙幣に紛れさせた。まるで宝探しのようだった。うち1枚を発見した人は競売に出し、6000ポンド(約87万円)で落札された。他の2人の発見者は紙幣を自分で持っている。残り1枚はまだ発見されていない。
「正直言って、こんなに関心を集めるとは思わなかった」と、ショートさんは言う。
ショートさんはこの夏、再び宝探しを仕掛けた。サッカーW杯ロシア大会(2018 World Cup)で得点王に輝いたイングランド代表ハリー・ケイン(Harry Kane)選手の顔を6枚の5ポンド紙幣に刻んだのだ。
このうち4枚はまだ発見されていない。1枚はイングランドサッカー協会(Football Association)に寄贈する予定で、最後の1枚は自分で保有する。
■ボトックスや高血圧の薬、水泳がこだわり
どんどん小さい作品を制作するようになるにつれ、人体の限界に直面し始めた。
「作品が小さくなるほど、自分の体の動きも抑える必要がある。完全に静止しなければならない」と、ショートさんは説明した。
瞑想(めいそう)やさまざまな呼吸法を試してみたが、十分とは思えなかった。そこで、運動のため毎日1万メートル泳ぐことにした。また、ベータ遮断薬の服用も始めた。作業中はあめのようにたくさん摂取して、心拍数を毎分20回まで落とすと言う。「鼓動と鼓動の間、自分が完全に動かなくなったときに彫刻をする」。健常成人の安静時心拍数は毎分60~100回だ。
「視神経と目の筋肉に煩わされない」ように、3か月ごとにボトックスをまぶたに注射している。
当然のことながら、ショートさんは制作過程を楽しんではいない。だが、完成したときの喜びはひとしおだ。
「一番うれしいのは、完成したときとギャラリーで来場者が顕微鏡をのぞき込み、圧倒されるときだ」と、ショートさんは言う。「最高の気分だ。他の誰もやっていないことをやり遂げたことを実感できる」
映像は8月14日撮影。(c)AFPBB News
最終更新:2018/9/20(木) 19:30
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