ここから本文です

大坂なおみ“天然の無邪気さ”は過当競争の外だから保たれた

9/20(木) 9:26配信

日刊ゲンダイDIGITAL

コラム【大坂なおみの正体】

 全米決勝は、セリーナ・ウィリアムズが警告を3度受ける異様な幕切れだった。優勝セレモニーでの激しいブーイングが整然とした拍手に変わったのは、大坂なおみが司会者の質問を遮って、こう切り出したときだ。

「皆さんが彼女(セリーナ)を応援していたのに、こんな結果になってごめんなさい」

 泣き顔でしゃくり上げペコリと頭を下げた。

 勝者が敗者に対し「ソーリー」と言うことは、これまでもあった。ナダルがフェデラーに言ったこともある。だが、異様な状況下で20歳の新人が口にした率直な言葉は新鮮で、我を忘れて興奮する大人たちをたしなめるようだった。

 テニスでは相手のミスも得点になる。言葉を換えれば、相手の失敗が己の得になるため、以前は相手のミスに対してスタンドは拍手しなかった。最近はダブルフォールトにさえ拍手が起きる。ゲームが高度化し、ミスが「ミスを導いた力」、ダブルフォールトは「精神戦の勝利」と解釈が変わり、競技はギスギスしてきたのだ。

 全米オープンは今年がオープン化して50年目だった。最初の優勝賞金は男子1万4000ドル(当時504万円)に対し女子6000ドル。ビリー・ジーン・キングらの運動で1973年から男女同額になり、今年は380万ドル(約4億2580万円)に跳ね上がった

■方法はコピーでも異なる家庭環境

 女子テニスは、賞金の高騰に伴い、冷戦構造が崩れた90年代に低年齢化が加速した。グラフ、セレシュ、ヒンギス、シャラポワ……10代選手が用具開発をバックにチーム体制でパワーと技術を競い、現在に至っている。チーム戦の中で勝敗が優先されゲーム性が排除されたことで、プレーがギスギスしてきた。

 こうした過当競争を批判したのが、ビーナス、セリーナ・ウィリアムズの父リチャードだ。テニスはゴルフ同様に階級色が濃いクラブゲームで、黒人の競技人口は極端に少ない。リチャードが白人たちの競争の外で娘たちを育てた理由は、2つあっただろう。燃え尽きないようにという親心、そして恐らく秘密保持だ――真似されて、宝の山に黒人の運動能力がなだれ込むのも困る……。

 リチャードの真似をしたのが、ナオチ(大坂なおみのあだ名)姉妹の父レオナルドで、ナオチにジュニアの戦歴はない。しかし、方法はコピーでも家庭環境が違った。セリーナたちが育った西海岸コンプトンは米国有数の貧困と犯罪の町だ。ナオチの父は米国人でも少数派のハイチ系で母は日本人……争いを好まない天然の無邪気さも、過当競争の外で保たれたのだ。

「オープンで純粋ななおみを見習っていい」

 コーチのサーシャ・バインはそう話した。現在の米国選手のトップ10を見ると、昨年の全米覇者スローン・スティーブンスら6人が黒人と、既に新たな競争は始まっている。ナオチは2つの競争の谷間に咲いた無垢な花かもしれない。

(武田薫/スポーツライター)

Yahoo!ニュースからのお知らせ