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心疾患・脳卒中の4人に1人の命を救う、“奇跡の薬”を生んだ日本人

9/23(日) 10:57配信

ニュースイッチ

“ノーベル賞にもっとも近い日本人”が発見した高脂血症薬スタチン

 「経営の神様」とも呼ばれるパナソニック創業者の松下幸之助は数々の名言を残しているが、その一つに次のようなものがある。

 「執念ある者は可能性から発想する。執念なき者は困難から発想する」

 確かに、目標や目的に対し、たとえば「部長は勇ましいこと言っているけど、現場を知らないからだ。そんなの無理に決まってるでしょ」とか言いながら渋々取り組んでいても、なかなか達成はできないだろう。ちょっとした困難にぶつかったら、すぐにあきらめてしまいそうだ。

 しかし、たとえ1%の可能性しかなくても、粘り強く試行錯誤を繰り返していけば、何かのきっかけで成功したりするものだ。漫画『SLAM DUNK』からよく引用されるように「あきらめたらそこで試合終了」なのである。

 「執念」が偉大な発見やイノベーションに結びついたエピソードは枚挙にいとまがない。電球の発明に使うフィラメントに何千もの素材を試したトーマス・エジソンが「私は失敗したことがない。ただ、1万通りのうまく行かない方法を見つけただけだ」と言ったのは、あまりにも有名だ。

 『世界で一番売れている薬』(小学館新書)に描かれているのも、「執念」を偉業につなげた人物の姿だ。タイトルにもなっている「世界一売れている薬」とは、高脂血症薬「スタチン」。血中のコレステロール濃度を下げることで動脈硬化、ひいては心筋梗塞や脳梗塞の発症を抑える薬だ。

 高脂血症(高コレステロール血症、高中性脂肪血症などの総称)患者の大半が薬物治療に用いるスタチンは、同書によれば市場に出回って以来、世界中で4000万人が毎日服用しているとされる。過去に行われた大規模臨床試験の結果、心臓疾患や脳卒中の発症率をいずれも3割近く低下させたそうだ。おおよそ3人に1人がスタチンで命を救われるということになる。

 このように世界的に優れた効果が認められた“奇跡の薬”を発見したのは、実は遠藤章という日本人研究者なのだ。『世界で一番売れている薬』は、ノンフィクション作家の山内喜美子さんが遠藤博士の足跡を追った評伝である。

 遠藤博士は1933年生まれで、製薬会社の三共(現・第一三共)醗酵研究所に勤めていた1973年に、スタチンを発見した。しかしながら、1987年に認可を受け、世界初の製品化にこぎつけたのは米国製薬大手の「メルク」だった。遠藤博士と三共はメルクにサンプルや資料を渡しており、秘密保持契約の甘さからメルクに出し抜かれるかたちになってしまったのだ。

 製品化では「世界初」を譲ったものの、遠藤博士の評価が消えたわけではない。2008年「アルバート・ラスカー臨床医学研究賞」、2017年「ガードナー国際賞」といった数々の医学・生理学賞を受賞。今“ノーベル賞にもっとも近い日本人”の一人と言われている。

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最終更新:9/23(日) 10:57
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