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【オーストラリア】「豪潜水艦事業に異議あり」 R・パトリック上院議員インタビュー

10/9(火) 11:30配信

NNA

 新型潜水艦の設計・建造事業を勝ち取ったフランス政府系ネイバル・グループ(Naval)と、オーストラリア政府の建造前契約交渉が難航している。その中で、入札の透明性や潜水艦設計に依然として強く異議を唱えているのが、センター・アライアンス党のレックス・パトリック上院議員だ。潜水艦建造が行われる南オーストラリア(SA)州選出の同議員は、ネイバルへの委託をやめ、海軍向けに改良した潜水艦を購入するよう求めている。同議員はこのほど、キャンベラでNNA豪州との単独インタビューに応じた。【NNA豪州編集部】
 ――パトリック議員は以前、ネイバルが事業を落札した後で、オーストラリアによる設計・建造関与の義務がなくなっていたことを暴露されましたね。
 オーストラリアの造船会社ASCではなく、ネイバルが自社で建造することが明らかになったのは昨年6月に開かれた上院の小委員会でした。私が情報公開請求で入手した資料で分かりました。我々だけでなく、上院議会全体も驚きでした。ASCには1,700人の従業員がいて、そのうち300人は前回の潜水艦建造に携わった従業員です。ASCを使わないということは、ASCだけでなくオーストラリアの産業界全体への裏切りに他なりません。
 ――日本やドイツも参加した入札プロセスで提出された提案書では、ドイツや日本だけでなく、ネイバルもASCと共同開発する、ときちんと明記していました。
 そうです。にもかかわらず、それがなぜ入札後、ASCが外されたのかはまだ確固たる情報が得られていません。一体いつ、国防省がそれを決めたのかもです。現在調査中で、それ以上のことは分かりません。
 ネイバルのオーストラリア部門責任者であるショーン・コステロ氏は入札前に、現地生産比率を90%と言っていました。今は、かなり低く言っているでしょう。保守的な日本企業が受注していれば、発言に責任を持ち、一度90%と言及したら後になって変えるということはなかったでしょう。
 ――ネイバルが落札した背景には、コステロ氏が寄与したとされています。
 コステロ氏がネイバルの幹部であるのは入札の公正さが失われるということを、日本とドイツの双方から、入札の際に苦情が提議されるべきだったでしょう。入札の結果が出てからでは遅いです。特にドイツから苦情があるべきだったでしょう。なぜならコステロ氏はその前に豪国防省の公職に在籍しており、その当時、おそらくドイツから応札内容についてレクチャーを受けていたかもしれないからです。
 ――パトリック議員としては、なぜ日本が漏れたと思いますか?
 私は日本には何度も行き、潜水艦の造船場を視察したこともあり、優秀なメーカーや産業があるのは知っています。日本にとって今回は外国に潜水艦を提供する初めてのケースで輸出経験がなかったため、競争入札という形式は理想的ではなかったでしょう。しかもオーストラリア内で多くの圧力があります。分け与えられるパイも少ない、というのも日本側としても受け入れ難かったでしょう。外から推測するのは難しいですが、日本がリスク面で警戒して、よりリスクが少ない提案をしてきたのかも分からないし、その提案がオペレーション面であまり魅力的ではなかったのかもしれません。
 フランスは、調査の段階でも、プレゼンテーションの段階でも、入札内容でも好評でした。ただし、フランスのバラクーダ級はポンプジェットだったのが論点ではありました。ポンプジェットはスピード面で不適切なのです。日本のそうりゅう型はポンプジェットではありませんでした。
 ――入札の際、だれが最大の決定権限を持っていたのですか。首相?国防相?海軍?国防産業相?
 幾層にも重なる権限がありますが、海軍が推薦という形で提案します。海軍が、各国のプランの利点と欠点を列挙し、技術要素、運営的要素、戦略的要素、ファイナンス的要素などさまざまな要素を考慮して、国防相の名前で内閣に推薦しているはずです。当然、当時のターンブル政権が最終的に決めましたが、背後にはそうした推薦を受けていました。ターンブル氏は潜水艦に詳しくないし、そうでなくても膨大な案件を抱えており、彼が関与する余地はなかったです。
 ――そもそも日本側にはオーストラリアから話を持ちかけられたのに、手のひらを返された、という認識があります。
 おそらくトニー・アボット元首相が日本の安倍首相と単独で協議し、約束していたのでしょう。残念なことに彼の命運が変わってしまった。彼が首相のままだったら、ということも分からないですね。
 なぜなら、競争入札を実施すると決めた後、多くの役人が日本を訪れて調査し、新型潜水艦はSA州で建造されるべきだという莫大なプレッシャーがアボット元首相に降りかかっていたはずです。つまり、彼がオーストラリアが建造に参画することを条件とした競争入札をやると決めた時点で、日本には2つのハンディーがありました。一つ目は日本が競争入札の経験が乏しい、という点。二つ目は、潜水艦を輸出したことがないという点です。だからアボット氏が首相のままであっても、競争入札である限り、日本の結果は難しかったかもしれません。
 ――中国からの圧力は考慮されたと思いますか?
 実際にあったかどうかは分かりませんが、その可能性はあると言えますね。報道ベースで中国は日本が受注することへの懸念は示していましたが、実際の圧力があったとすれば、外交ルートを通じてかけていたでしょう。アボット政権の崩壊後に中国企業のランドブリッジ(嵐橋集団)に天下りしたアンドリュー・ロブ元貿易相も、潜水艦への影響力はなかったでしょう。
 ――ところで潜水艦のプロジェクトのコストは1,000億豪ドル(約8兆300億円)を突破すると懸念されています。これは地元ASCによる建造が含まれるからではないのですか?
 はっきりさせておきたいのは、その1,000億豪ドルの内訳は、建造コストと買収コストが合わせて500億豪ドル、残り500億豪ドルは、運営・維持コストです。これが世界一高い潜水艦プロジェクトと言われる実態です。ASCとは関係ないです。なぜそんなに高くなっているのか国防産業省に追求しています。
 数週間前、ドイツが12隻の潜水艦を200億豪ドル未満でできると確約していたことが確認できました。500億豪ドルと200億豪ドルでは莫大な違いがあります。日本のオファーはいくらだったのか、是非とも知りたいところです。私は上院議員として、政府の財政支出が適切だったのか知る必要があるからです。なぜ200億豪ドルという提示価格があったのに、500億豪ドルの方を選んだのか、今後も政府を追及していくつもりです。
 ――個人的な推測ですが、将来的に必須となる原子力潜水艦の選択がドイツと日本になかったからではありませんか?
 その説が確かに一部で言われているのは知っています。ただし、まずオーストラリアには原子力産業がないのは致命的です。運用ができないのに原潜は導入できません。原潜を持ちながら原子力産業がない国もありません。
 ――グアムには米国の原潜基地がありますが、グアムには原子力産業がありません。運用とメンテナンスはかなり離れた米国本土がやっています。
 米国が現在海外で運用している原潜は、スキップジャック級原潜のスコーピオン(USS Scorpion)ですが、原潜の運用やメンテナンスを、米国やフランスに任せるということはできないでしょう。それはいい選択肢ではないです。
 ――オーストラリアには一応、原子炉があります。
 シドニーにありますね。ただしそれは薬品と研究に限った原子炉です。大規模な原子力産業ではないです。ただし確かに米国では、原潜の技術者は民間の原子炉に研修に行きます。それをオーストラリアで実施する可能性はありますが、現実的ではないです。
 ――今後50年で原子力潜水艦の可能性はありませんか。
 入札では12隻ではなく、8隻の潜水艦でした。将来のどこかの時点で原子力にするという選択肢があります。その時点で、米国や英国が持っている原子力潜水艦になる可能性はあります。必ずしもフランスの原潜である必要はありません。というのも、これまでも英国の潜水艦から、スウェーデンのコリンズ級が採用されており、今後はフランスのバラクーダ級に変えることになります。国が変わること自体は問題ありません。
 ――今回の事業はどういうあり方が理想的でしょうか。
 この潜水艦プログラムは2032~35年くらいに納入になるものです。オーストラリア北東にある珊瑚海にはロシア船が出没し、ロシアは既にフィジーにロシア戦艦の使用を提案しています。中国もバヌアツと戦艦に関する協議をしているし、東ティモールには中国のソフトパワーが忍び寄っています。南沙諸島では既に直面している中国を巡る問題が目の前にあります。つまり、オーストラリアが次に導入する新型潜水艦は、わが国を守るという目的で「現実的にすぐに対応できる」という必要があるのです。
 つまり、ドイツ造船(HDW)が開発した、通常動力型の「214型潜水艦(U-Boote der Klasse 214)」を、改良したバージョンの潜水艦だったら、より低リスクで、価格も安く、最良だったでしょう。もしくは、日本が現在運用している特定タイプの潜水艦を、特定の時期に納入すると約束していたら、日本が選ばれていたかもしれません。また誠実さという意味では、日本が最も競争力があったはずで、ネイバルが起こしているような問題はなかったでしょう。
 ――国内建造がWA州と争う可能性はありますか?
 これは巨大な国家プロジェクトです。できるだけ多くの地場企業が関与できればと思っていますが、SA州には潜水艦産業があります。ビクトリア州や西オーストラリア(WA)州に関連産業があっても問題ありませんが、大半がアデレードに来ることを望んでいます。SA州にシッピング・カレッジを設立することも計画しています。(聞き手=西原哲也)

最終更新:10/9(火) 11:30
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