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二流の事業は不景気の時、足を引っ張る

10/10(水) 15:01配信

ニュースソクラ

「わが経営」を語る  森川宏平昭和電工社長(2)

 ――「個性派事業」の3条件(1)営業利益率10%以上(2)営業利益数十億円以上(3)市況の影響を受けにくいを満たす3つの事業とは、具体的には何ですか。

 電気炉用の「黒鉛電極」のほかに、電子データを記録する「ハードディスク」と半導体の製造に使う「高純度ガス」です。

 ――ハードディスクは今後、大量に電子データを保存するデータセンター向けで伸びるのでしょうか。

 昔はほとんどパソコンに記憶させていたのですが、今はパソコンとデータセンターが半々くらいになっています。情報量は飛躍的に増えていて、そのほとんどはデータセンターで記録します。

 そこで重要になるのはコストです。ビッグ・データの時代ですから、ほとんどアクセスが無いデータも、いつ役に立つのか分からないので、捨てられません。

 すると低コストのハードディスクに保存します。半導体と比べると10分の1くらいのコストで済みます。

 ハードディスクの需要は枚数ベースでたぶんまだ伸びるでしょう。データセンターのほか、いま大きくなっているのは監視カメラのデータ保存用です。監視カメラ4、5台にハードディスク記録装置が1台という組み合わせです。

 ――高純度ガスもまだ成長するでしょうね。

 半導体材料のウエハー1枚当たりに使うガスの量が昔と比べて非常に増えてきています。

 ――ほどよい市場規模のときはトップだったのに、市場が巨大化して外国企業にトップを奪われた液晶のシャープのようなケースもあります。

 巨大な市場でも、その中のどの部分に焦点を絞るかセグメンテーション(市場細分化)が重要だと思います。

 例えば石油化学とひとくくりにすると巨大ですよね。そのどこにセグメンテーションをしていくのかが、日本の化学メーカーの大きな課題で、ここ10年、20年、それを念頭に置いてやってきたのです。

 つまり汎用品化した量を競う製品を狙わない。ポリエチレンやポリプロピレンにしても、非常に特化したグレードの製品をやるというようにです。

 包装材料でもボーンと大量に造ってバーンと売るような物は、日本のメーカーには難しいですね。やはり特殊な物を狙っていかないといけません。

 ――個性派事業に集中しようという今の路線は、長い歴史の中で結果としてこうなったのか、戦略的に仕掛けてきたものなかのか、どちらですか。

 我々は「個性派事業」という言い方をしていますが、日本の化学メーカーはみんな同じようなことを目指しています。

 「高付加価値製品」とか「特殊製品」とか、あるいは「グローバルニッチトップ」であるとか、様々ですけど皆一緒です。そうでないと生き残れないと、みんなわかっているのです。

 実際に我々が「個性派事業」と言いだしたのは、大橋光夫社長(現最高顧問)のころですから、もう20年くらい前のことです。各社いろいろですが、どう定義するかが難しい。我々は個性派事業を3条件で定義したわけです。

 ――確かに昔から「ファインケミカル」などの特殊な分野を目指す動きがありましたね。

 海外の化学メーカーは規模が大きいのですが、実際にはどこの化学メーカーも小さい事業の集まりです。

 例えば、当社は年間売上高が1兆円弱ですが、事業部が13あるので、平均すると1事業部の売上高は、ざっくり言って700億円あまりです。

 海外も含めて他のメーカーも、個々の事業の売上高はそれほど変わらない。ただし総和で規模が大きくなれば、それだけ投資余力は大きくなるので、そういう強さはありますね。

 ――総合化学メーカーとして多様な事業を持つことによるシナジーを、どのように考えているのですか。

 昔から言われているのは、広い技術のスペクトルを持っているので、技術を融合させてシナジーを生むというのが1つの考え方です。

 もう1つ、社内に素材の提供者とそれを使うユーザーをつくることによるシナジーがあります。

 技術の幅が広ければ広いほど、いろんなシナジーが期待できます。昭和電工のように多様な13の事業部を持っている会社は、たぶん世界にほとんどないでしょう。他の各社も事業内容はそれぞれ異なります。総合化学と一口に言っても、内容は会社によって全部違います。

 ――いろんな業種の事業があると、不調の事業が全体の足を引っ張り、企業価値を損なうコングロマリット・ディスカウントの問題が起きる場合がありますが。

 当社で言えば、ハードディスクとビール用のアルミ缶の売れ行きは関係ないですね。そういう製品がたくさんあると、互いに補い合って業績が安定するよい点だと言われていたのが、コングロマリット・ディスカウントと見られるようになりました。

 ならば低い水準で安定させるのではなくて、高いところで安定させればいいじゃないかというのが私の考えです。そのための個性派事業なのです。

 二流の事業があると、景気が悪いときに、それが下向きのベクトルになります。すべての事業が一流になれば、業績は高位で安定して、ディスカウントは起きないでしょう。

 ――競争力の無い事業を助けると、共倒れになりますね。

 社内で、事業部と事業部が素材メーカーと顧客になる場合、どちらも一流にならなければ駄目です。一流の顧客は二流のメーカーを相手にしません。逆も真なりです。一流同士でないと、一流の結果は出せない。正のシナジーは生まれないのです。

(次号に続く)

■聞き手 森 一夫(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:10/10(水) 15:01
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