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【木内前日銀政策委員の経済コラム(26)】 歪んだ金利政策・金融行政を変えよ 地銀が追い詰められている

10/11(木) 13:01配信

ニュースソクラ

金融庁の融資拡大要請が裏目

 金融庁が先般公表した金融行政方針によれば、地域銀行106行中、実に過半数にあたる54行で、貸出と手数料ビジネスから得られる本業利益が2017年度に赤字となった。

 2年以上連続して赤字となった銀行の割合は、前年度の38%から49%へと増加した。いったん赤字に陥った銀行の多くが黒字転換に失敗しており、赤字が定着してきた感がある。

 銀行に厳しい収益環境を強いている低金利は、潜在成長率の低下など、以前と比べて日本経済の潜在力が低下してしまったことに起因する部分が大きい。

 しかし、近年の日本銀行による異例の金融緩和策が、経済の実力に照らした妥当値を大幅に下回る水準まで金利水準を押し下げ、銀行の収益環境を損ねてしまっていることもまた確かだ。

 例えば、経済環境に照らした10年国債利回りの妥当値は1%強程度ではないかと思われが、実際の水準はそれよりも1%程度も低い。

 既に金融緩和の追加的な効果は無くなり、銀行の収益を悪化させ、金融仲介機能を損ねるといった副作用のみが累積を続けている。

 日本銀行が7月末に公表した政策修正は、イールドカーブのスティープ化を通じてこうした副作用の軽減を狙った、事実上の正常化策だ。しかし、この程度の措置では金融機関の収益見通しを改善させるにはなお力不足だ。

 多くの地域金融機関が、不正ではないとしても不動産融資などで過度なリスクをとっている背景には、金融政策による低収益への対応に加えて、金融庁による融資拡大要請の影響もあるのではないか。

 地域密着型のビジネスモデルに根差して、企業に対する目利きを効かせた融資の拡大を、金融庁は地域金融機関に求めてきたが、そうした融資を拡大できる余地もかなり限界に達している。

 そうした中で無理に融資を拡大しようとすれば、低金利戦略で他行の融資を奪っていく他はなくなる。しかし、それで貸出金利が一段と下がれば、融資が増加する中でも利鞘縮小によって銀行の収益は逆に悪化してしまう。

 実際、こうした貸出金利引き下げの過当競争が、地域金融機関の収益悪化に拍車をかけているのが現状だろう。

 この点から、金融庁が地域金融機関に融資拡大の要請を安易に強めることには問題がある。その背景には、政府の政策、「地方創生」と平仄を合わせる意図があったのかもしれない。

 しかし、地域経済活性化を優先するなかで地域金融機関の収益が一段と悪化し、いずれ金融システムの不安定化に繋がってしまうようでは、金融庁は本来の職責を果たしていないことになるだろう。

▼当局は金融システムの安定により目配りを

 貸出金利引き下げの過当競争のもとで、信用リスクに見合わない低金利での貸出が、既にかなり拡大してしまった可能性がある。また、金融庁は、適切な不良債権管理の観点から銀行による債務者区分をしっかりとチェックしなくなっている。

 そのため、景気情勢がひとたび悪化すれば、予想以上に地域金融機関の不良債権は拡大し、金融システムを揺るがす事態にまで発展する可能性があるだろう。

 日本銀行には「物価の安定」と「信用秩序の維持(金融システムの安定)」という2つの使命(マンデート)がある。本来は、双方の使命をバランスよく達成することが求められる。

 しかし、近年は、政府からの強い要請もあり、デフレ克服を優先するとの方針のもと、「物価の安定」という使命に過度に偏った金融政策がなされてきた。

 その結果、銀行の収益環境は大幅に悪化し、将来的には金融システムの不安定化に繋がるリスクを高めてしまっている。「信用秩序の維持(金融システムの安定)」という使命が軽視されてきたのである。

 こうしたバランスを欠いた日本銀行の金融政策と、金融庁の金融行政とが重なりあうことで、現在の地域金融機関の厳しい経営環境が作られている面がある。

 そしてそれは、いずれ銀行経営の悪化と金融システムの不安定化に繋がるリスクも秘めていよう。金融政策、金融行政ともに軌道修正が必要な局面だ。

■木内 登英(前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)
1987年野村総研入社、ドイツ、米国勤務を経て、野村證券経済調査部長兼チーフエコノミスト。2012年日銀政策委員会審議委員。2017年7月現職。

最終更新:10/11(木) 13:01
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