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肺がん根治目指す 初の免疫チェックポイント阻害剤とは?

10/12(金) 9:26配信

日刊ゲンダイDIGITAL

 今年のノーベル生理学・医学賞受賞で大注目の免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」。いくら「夢の薬だ」といっても、肺がんの80%以上を占める非小細胞肺がんでは手術不能な進行(転移があること)・再発がんが対象で、抗がん剤や放射線治療後にしか使えない。いわば末期のがん患者に対する延命のための薬だ。しかし、新しい免疫チェックポイント阻害剤はⅢ期を対象に抗がん剤・放射線を併用して根治を目指すという。

 先月末、欧州委員会は新たな免疫チェックポイント阻害剤の販売を承認した。「イミフィンジ」(一般名:デュルバルマブ)だ。

 米国では今年2月、日本では8月に発売され、期待が高まっている。承認の根拠となった国際共同第3相臨床試験(PACIFIC)では、無増悪生存期間を11カ月以上(イミフィンジ群16.8カ月、プラセボ群5.6カ月)延長、再発・再燃リスクを48%減少させた。「JCHO東京新宿メディカルセンター」(東京・飯田橋)放射線治療科の黒崎弘正部長が言う。

「先月末、カナダ・トロントで開かれた世界肺がん会議では『死亡リスクが32%減少』『無増悪期間と遠隔転移までの期間の延長』などさらに詳しいPACIFICの内容が発表されました。また同じ抗PD―L1抗体薬のテセントリクは、従来の抗がん剤との併用で未治療の小細胞(悪性度が高い)肺がんに対して好成績が出たことも報告されました。それらはすぐに世界的権威のある医学雑誌の電子版で紹介されるなど医療関係者の関心を呼んでいます」

■Ⅲ期の非小細胞肺がんを対象

 免疫チェックポイント阻害剤は、抗CTLA―4抗体の「ヤーボイ」を皮切りに、抗PD―1抗体の「オプジーボ」と「キイトルーダ」が発売され、今年4月からは抗PD―L1抗体の「テセントリク」が加わった。ヤーボイを除く3剤はⅣ期の非小細胞肺がんも対象にしているが、イミフィンジは同じ非小細胞がんでも少し違う。国際医療福祉大学病院内科学の一石英一郎教授が言う。

「イミフィンジの最大の特徴は、抗がん剤や放射線治療を終えたⅢ期の非小細胞肺がんを対象にしている点です。Ⅲ期の非小細胞肺がんは、放射線療法と抗がん剤を使った化学療法が標準治療ですが、ここ20~30年はほとんど治療法に進歩はありませんでした。その意味でこの承認は画期的なことであり、早いステージで幅広い適応がなされることにより、今後のがん治療においてより多くの方に効果が期待できるようになってくる可能性があるのです」

 一般に後で発売される薬は最初に認可された薬より厳しい審査基準や臨床試験を経て承認されることが多い。それらをクリアしたイミフィンジは、従来の免疫チェックポイント阻害剤と同等以上の期待がかかるのは当然だ。新薬はどのようにしてがんを抑えるのか?

「T細胞は、がん細胞への攻撃を始めてしばらくすると、攻撃が暴走しないように細胞の表面にブレーキ役のPD―1受容体を発現させます。その時、がんやその周辺の微小環境の細胞は、T細胞からの攻撃から逃れるために細胞表面に多数のPD―L1を発現させるのです。両者は鍵穴と鍵の関係にあり、結合するとT細胞によるがん細胞への攻撃にブレーキがかかります。免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞がこの仕組みを利用して免疫から逃れるのを防ぐ薬です」(一石教授)

 オプジーボはT細胞側のPD―1を、イミフィンジはがん細胞側のPD―L1を阻害する。素人目には「どちらであれ、T細胞が力を取り戻してがん細胞を攻撃することに変わりはない」と思ってしまう。しかし、両者には微妙な差がある。

「T細胞などの免疫細胞の働きを抑制する免疫チェックポイントは何種類もあって、PD―1はPD―L1だけでなくPD―L2と結合し、PD―L1はPD―1のほかにB7―1に結合すると考えられています。つまり、薬を使った場合、若干の阻害の違いがでてくるのです。今後の方向性としては併用すると、より多くの免疫チェックポイントを阻害できるわけで、思わぬ効果が得られる可能性があるのです」(一石教授)

 現在、免疫チェックポイント阻害剤同士や、同剤で免疫に対するブレーキを外したうえでT細胞のがん探索力や攻撃力を高める治療法の開発、血管新生阻害剤であるVEGF阻害剤との併用、従来の抗がん剤・化学療法・放射線療法との併用などの臨床研究が進んでいる。

 新たな免疫チェックポイント阻害剤の登場はそのバリエーションが増えることになる。その結果、がん治療の効果は1+1が5にも10にもなるかもしれない。がんは治る時代にまた一歩近づいた。