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大嫌いだった父、辰巳琢郎に「ありがとう」 ソプラノ歌手の辰巳真理恵が初の音楽アルバム

10/12(金) 15:27配信

産経新聞

 オペラやミュージカル、また舞台女優としても活躍するソプラノ歌手の辰巳真理恵(たつみ・まりえ)が初めての音楽アルバム「Ba,Be,Bi,Bo,Bu(バ・べ・ビ・ボ・ブュ)」を出した。掉尾(とうび)を飾る楽曲「ありがとう」は、父で俳優の琢郎(たくろう)(60)に贈った。実は、父のことは「大嫌いだった」という…。

【写真で見る】初めての音楽アルバムを出したソプラノ歌手の辰巳真理恵さん

■お父さんキモい

 切れ長の目。通った鼻筋。端正な顔立ちは、まさしく父親譲りだ。が、中学生から高校生時代にかけては、父親のことが嫌いだった。

 「『お父さん、きたない』とか『キモい』などと言ってしまうこともあった。同じような顔立ちだと、父の良くないところまで似てしまうような気がして、『反面教師にする』などと言ったこともありました」

 反抗期だったし、父親が俳優であるため学校で目立ちすぎることは思春期の少女には重荷だった。

 だが、次第に父の背中を追うようになった。父親が出演したミュージカル「キャンディード」(宮本亜門演出)に感銘を受けたのも高校時代だった。もっとも、このときは共演の俳優、中川晃教(あきのり)に憧れたというのが正直なところ。同時に、芸の道を志すきっかけになった。

 芸能界の厳しさをよく知る父親は、芸能界入りを反対したが、最後は「歌の基礎をきちんと勉強するなら」と条件付きで認めた。

 一念発起した真理恵は猛勉強して、東京音楽大(声楽専攻)に合格。同大学院修士課程を修了し、プロのオペラ歌手を養成する機関「二期会オペラ研修所」、さらにオペラの本場、イタリアに渡ってレッスンを受けた。

■七光結構

 帰国すると、東京二期会が主催した、平成28年の宮本演出のオペラ「フィガロの結婚」や、29年のオペラ「こうもり」に出るなどソプラノ歌手として活躍し始めた。

 「『父親が俳優だから役を射止めたのでは』などという言葉が耳に入ってくることもあった」と悔しそうに打ち明けるが、「『親の七光』といわれても結構。もっと光り輝いてみせる」と言い放てるようになった。勉強をしたことが自信につながっている。

 もう父親は嫌いな存在ではない。むしろ尊敬すべき存在となった。テレビの旅番組に一緒に出演したときだ。一言の感想を絞り出すために多くの時間と労力を惜しまないプロ意識の高い父親の姿を目の当たりにした。刺激を受けた。

■還暦祝いに歌を

 父親の琢郎が今年8月に還暦を迎えるにあたって、ソプラノ歌手らしく歌をプレゼントしようと決めた。

 そこで、大学院の先輩で「ジュネーブ国際音楽コンクール」の作曲部門1位に輝いた、作曲家の薮田翔一(やぶた・しょういち)(35)に「曲を作ってもらえませんか」と頼んだ。「お父さんとの思い出はありますか?」と尋ねた藪田は、数日後、楽譜とともに歌詞まで送ってきた。

 翌朝早く出掛けなくてはならない夜でも、真理恵がつらいとき、泣きたいときは夜更けまで悩みに耳を傾け、励ましてくれた父親。自転車を押しながら一緒にたどった家路…。

 そこには、薮田に話した父との思い出が、詞としてつづられていた。

■泣いた父親

 その歌が「ありがとう」だ。琢郎の還暦を祝うパーティーで真理恵は、多くの関係者を前に披露した。歌と同時に、思い出の映像も映し出す趣向を凝らした。

 「パーティーに先んじて自宅でこの映像を見た父は号泣していました。ただ、当初は、私の幼い頃の写真や動画ばかりだったので『(真理恵の)結婚式ではないんだから』と、父の舞台の写真なども加えるよう注文をつけられました」と笑顔で振り返る。

 「昔は父の話題に触れられるのも嫌だったけれど、今は好きなことを続けられるのは両親のおかげだと思っています。父には本当に感謝しています」

 透き通るような澄んだ声を弾ませる。(文化部 竹中文)

最終更新:10/12(金) 18:22
産経新聞

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