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<ラテンアメリカから>ブラジルで続く過去最大の汚職捜査

10/14(日) 14:00配信

毎日新聞

 ブラジルで過去最大の汚職事件捜査「ラバジャット作戦」が続いている。歴代大統領を標的にし、根深い政財界の癒着の構図を明らかにした捜査はどうやって実現したのか。捜査機関が法整備や体制強化により能力を向上させ、世論も捜査を後押ししたことが大きいようだ。

 「こんなに大きな癒着が隠れていたとは思わなかった」。捜査を指揮したジャノ前検事総長(現副検事総長)は振り返る。ラバジャット作戦は左派、労働党のルセフ政権下の2014年春、両替商らによる資金洗浄事件を皮切りに始まった。ジャノ氏がターニングポイントになったと指摘するのは、両替商の知人で国営石油会社ペトロブラス幹部の司法取引に基づく証言だ。資金洗浄事件に関連して捜査対象になった幹部は、驚くべき内容の証言を行った。同社と取引先が契約額を不当につり上げ、その差額を賄賂として労働党の有力政治家らに渡すことが長年にわたって続けられてきたというのだ。



 ◇司法取引を活用 捜査体制強化



 他人の犯罪を証言する見返りに証言者の刑を軽くする司法取引は1990年に導入された。2000年代に給与や人員の増加で連邦警察が強化され、連邦検察との連携も進んだ。ジャノ氏は「世界どこでも同じだが、通常の捜査では犯人は組織の構造や金の行き先などは絶対に話さない」と組織犯罪の解明の難しさを指摘。そのうえで「取引に応じた証人は知っていることを全て話さなければならず、この情報がなければ捜査は非常に難しかった」と司法取引の有効性を強調する。

 贈賄側企業を中心とする司法取引は計約200件に及んだ。証言は労働党のルラ元大統領ら100人以上が有罪判決を受ける有力証拠になった。ジャノ氏は「企業が利益を出すため、賄賂を払い政治家と不当な結びつきを強める悪循環を断ち切る必要があった。必要なのは透明性の高い関係」と話す。



 ◇抗議デモ頻発 汚職撲滅意識の高まり



 4年間にわたる捜査を巡っては、政界から捜査妨害や政治家優遇ともとれる動きが続き、市民の抗議活動が相次いだ。16年3月にルラ氏が訴追されると、ルセフ大統領(当時)はルラ氏を官房長官に任命した。閣僚への捜査は難しくなるため捜査妨害だとして全国で300万人以上がデモに参加し、この人事は撤回された。デモの勢いは衰えず、同8月にルセフ氏が政治腐敗の責任を問う形で弾劾、罷免されることにつながった。後任のテメル大統領も2度、起訴されたにもかかわらず、国会がいずれも公判開始を否決。事実解明は進まずにデモが続いた。

 「以前なら有力政治家の汚職は見過ごされ、『デモをしても意味がない』と思われていた。しかし、それが可能になったと国民が認識したことでデモの規模が膨らんだ。市民の力で政治を動かせると知った意識の変化はとても大きい」。弾劾や捜査の進展を目指し、抗議活動を主導した市民団体「自由なブラジル運動」のキム・カタギリ代表(22)が話す。

 カタギリ氏は政治議論が活発化したこともデモの成果だと指摘する。ブラジルでは1964年~85年の軍政下で、左派活動家らへの拷問など人権侵害が多発した。カタギリ氏は「以前は(軍政下で弾圧された過去を持つ)左派を批判するのは難しかった。拷問や権威主義を支持していると思われるからだ。デモを通じ(ルラ氏ら労働党に代表される)左派に対しても自由に意見を言えるようになった」と話す。

 事件はブラジル国内にとどまらず、中南米各国に飛び火。中南米諸国の多国間協議の場でも汚職対策が最重要テーマとなるようになり、ブラジル国内でも相次ぐ汚職への憤りから汚職撲滅の意識が強まった。世論調査によると、国民の8~9割がラバジャット作戦を支持。国政の最重要課題を尋ねたところ、健康、治安に続き、汚職が3位に入った。

 政財界では汚職防止対策が進む。選挙活動に関する政党への企業献金が禁止され、企業のコンプライアンス(法令順守)が強化されている。サンパウロ大のロジェリオ・アランテス教授(政治学)は「さらなる政治改革や法改正、捜査力の向上が必要」と話す。



 ◇捜査批判 政治不信は民主主義のリスクとも



 一方、ラバジャット作戦への批判も多い。サンパウロ大のグスタボ・バラロ准教授(法学)は「司法取引の証言内容が重なっている部分が多く、不必要な人まで刑を軽くすることにつながった。事実解明に必要な人に対象を絞るべきだ」と話す。裁判官が職権を超え、捜査に介入しすぎだとの指摘もある。また、アランテス氏は「汚職が民主主義に与えるリスクに国民の政治不信がある。この不信感に便乗し、軍政に戻そうと訴える候補が現れた」と危機感を抱く。

 7日の大統領選第1回投票で首位につけた極右、ボウソナロ下院議員は汚職批判で人気を集めた。その一方で軍政を賛美し、民主主義に後ろ向きな姿勢をみせる。マイノリティー(社会少数派)への差別的発言などはトランプ米大統領と共通しており、「ブラジルのトランプ」と呼ばれる。ボウソナロ氏と労働党のアダジ元教育相による決選投票は28日に行われる。政治不信の高まりの中、国民がどんな指導者を選ぶのか注目している。【山本太一】

最終更新:10/14(日) 14:16
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