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<変わる沖縄>玉城知事が体現 政治は変われるか

10/14(日) 9:00配信

毎日新聞

 沖縄取材を続ける上野央絵・毎日新聞編集委員が、知事選の時に現地で感じた大きな変化とは。三つのポイントを解説します。

 現職知事が急逝し、新人同士の事実上の一騎打ちの選挙で、政党の推薦を受けない野党国会議員出身の候補が、与党の自民、公明など4党の推薦を受け政権が全面的に支援した候補を約39万票対約31万票という大差で破る--。先の沖縄知事選の結果は衝撃的だった。

 私は沖縄取材を始めて13年になるが、選挙結果を完全に読み違えていた。現地に入り、両陣営など関係者に取材する中で感じたのは「沖縄の変わりように永田町の政治はついていけていない」ということだった。

 沖縄県の米軍普天間飛行場の全面返還で日米両政府が合意してから22年あまりたち、政権が『日米の合意事項』を理由に従来方針を堅持するだけで民意をくみとる努力を何もしないのでは済ませられない大きな質的変化を遂げているように感じた。

 ポイントは3点ある。9月30日、初当選を決めた玉城デニー氏が支持者に向けて語ったあいさつの中に凝縮されている。

 「普天間の問題はもう一度原点に戻るべきです。戦争によって土地を奪われた皆さんに返すこと。閉鎖・返還こそ私たちが求める道理です。そのために新しい場所を造れというのなら、これ以上沖縄には造らずに、日本全体でどこに持っていくか考えてください。多くの国民の皆さんがこれ以上もう米軍は必要ないというのなら、米軍の財産はアメリカに引き取っていただく。そのことを沖縄から堂々と主張していきましょう。そして、みんなで希望を描ける沖縄県づくりをする。地理的優位性を生かして順調な経済をしっかりとこれからも伸ばしていく」

 1点目は「原点」だ。翁長雄志前知事は普天間問題で「終戦直後に土地が強制接収され基地が造られたのが原点だ」と訴え、1996年の日米合意が原点とする政府側と鋭く対立した。県幹部は「翁長さんは最後まで基地集中の不条理に対するこだわりを強く持ち続けた。翁長さんの訴えが県民の中に、沖縄が長い歴史の中で受けてきたひどい仕打ちに対する積年の思いを呼び覚ましたのではないか」と指摘した。また、敗れた佐喜真淳氏の陣営関係者は「翁長氏を支えた『オール沖縄』側の方が、組織力、運動の熱量ともに上だった」と語った。

 普天間問題を争点とする沖縄県知事選は今回で6回目。自民党政権下で実施された2006年までの3回は、政権の支援を受けた県内移設容認候補が移設反対候補に勝利した。

 民主党政権下の10年は仲井真弘多知事が県外移設を訴えて再選。14年は辺野古埋め立てを承認し、政権の支援を受け県内移設推進を主張した仲井真氏を翁長氏が降した。今回玉城氏の得た39万6632票は、翁長氏の36万820票を3万票以上上回り、1972年の本土復帰以降の知事選で最多得票だった1998年の稲嶺恵一氏の37万4833票も超えた。

 選挙結果にあらわれる民意は、政権交代時に「普天間は県外へ」と訴えた民主党政権を境に県内移設容認派支持から反対派支持へと転じており、今回その傾向が定着したことがうかがえる。

 2点目は「地理的優位性を生かした経済」だ。「沖縄県アジア経済戦略構想」(2015年策定)を中心になってまとめた富川盛武副知事は、沖縄を「アジアの橋頭堡(きょうとうほ)」と表現する。

 中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)をあわせて人口20億人の巨大マーケットの中心に位置するという地理的優位性が、外国人観光客や国内外からの投資急増につながっているとみる。「復帰以来『本土との格差是正』が目標だった沖縄経済にパラダイムシフトが起きている」と指摘する。

 この変化のあおりを食らった形となったのが佐喜真氏だった。陣営関係者は「最大の敗因は経済。国が基地を受け入れさせる『アメとムチ』の手法が通用しなくなった。国と沖縄県が対立していても、沖縄経済は好況だから」と話す。菅義偉官房長官が応援演説で強調した「携帯電話料金の4割削減」には「えーっと思った。4年前の名護市長選で自民党が唐突にぶち上げた500億円の振興基金と全く一緒。沖縄県民の声を知らなすぎる」と苦言を呈した。

 また、自民党選対関係者は、普天間返還合意直後に新人候補の稲嶺氏が、県内移設に反対の当時の現職、大田昌秀氏を破った98年の知事選を振り返って語った。「あの時は沖縄の完全失業率が9.2%。移設反対で国との関係が悪化した大田さんを『県政不況』と攻撃できた。今回は翁長県政に対する攻撃材料がない。国と対話できていない翁長県政下でも景気が良いから、国との協調で経済を良くすると言っても響かなかった」

 そして3点目は、「沖縄県外の移設先を日本全体で考えて」と国民的議論を喚起する手段としての、県内移設計画の賛否を問う県民投票だ。

 「辺野古の米軍基地建設のための埋め立てがなぜ必要なのかを、進める側がしっかりと説明していただければ私も賛成に回ることもあり得る。納得のいく説明がほしい、日本全体で議論したいという思いで県民投票を追求している」

 2日の県議会米軍基地関係特別委員会で行われた県民投票条例案の審査で、条例制定を直接請求した「辺野古」県民投票の会の元山仁士郎代表はこう述べた。

条例案は県議会で可決され、6カ月以内に実施される見通しだ。佐喜真氏を支持した県中部首長経験者は「県民投票を実施すれば結果は『反対』と出るに決まっている。いよいよ後戻りできない方向に向かうことになる」と指摘する。

 「変わる沖縄」を体現する玉城氏に対し、政権が今度こそ対話で打開策を図ることができるか、それとも知事選で玉城氏を側面支援した野党各党がこれを契機に結集へ向かうか。政治の側が変われるかどうかが問われている。

最終更新:10/14(日) 9:00
毎日新聞