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コラム凡語:謡講

10/14(日) 12:46配信

京都新聞

 丸竹夷二押御池…。東西に走る通りの名前を思い起こすとき、つい口にする。なじみ深い京都の通り名歌、基は「九重」という謡曲からだということを、京都市内で開かれた「謡講(うたいこう)」で聞いた▼南北の通りは樵木(こりき)町(現在の木屋町)から千本の西の辺りまで、東西は鞍馬口から九条まで謡(うた)う。1723年に出版された「便用謡」に収められ、源氏物語の巻名や九九、日本の地名、日常生活のマナーなどの曲も収載されている▼江戸時代、京都の町衆は身につけるべき実用的な知識を、謡を通して覚えたという。そうした場が謡講でもあったようだ▼町家の座敷を障子や御簾(みす)、ふすまで仕切り、集まった聴衆を前に、謡い手は姿を見せずに素謡を聞かせる。大正初めまで各所で盛んに開かれていた▼町衆文化を伝えようと、能楽が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に選定された2001年から、観世流能楽師の井上裕久さんは、年に数回演じている。灯明のほの暗い場で朗々とした声が響くと、聴覚が一層研ぎ澄まされ自然と耳に残る▼この季節の夕刻、住宅街を歩くと、漂う甘い香りでキンモクセイに気づき、秋の訪れを感じる。謡も同様、町家から漏れ聞こえる声がいつの間にか心に刻まれる。そんな自然な文化伝承こそ、京都のまちに似合う。

[京都新聞 2018年10月14日掲載]

最終更新:10/14(日) 12:46
京都新聞