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<風疹流行>「妊婦にうつさない」職場でルールを

10/14(日) 9:30配信

毎日新聞

 風疹患者が首都圏を中心に急増し、大流行の兆しをみせています。国立感染症研究所によると、9月30日までの累積患者数は952人になり、昨年1年間の10倍を超えました。感染症に詳しい太融寺町谷口医院(大阪市)院長の谷口恭医師に、風疹対策で最も重要な「妊娠初期の女性に感染させない」ために必要なことを聞きました。【毎日新聞医療プレミア】

 風疹について、まずおさえておかねばならない基本的知識は、「感染力が非常に強く、十分な抗体がなければ、他人のくしゃみやせきなどから誰もが簡単に感染する」ということです。ただし、感染しても健康な人なら数日間で完全に治ります。とはいえ、高熱と激しい倦怠(けんたい)感に苦しめられることもあります。

 妊娠初期の女性が風疹にかかると、生まれてくる赤ちゃんに心臓病や難聴、白内障など「先天性風疹症候群」という障害が出る恐れがあることは、ここ数年の報道などで随分と社会に浸透しました。

 では、「自分は妊娠することはないし、しんどいのは困るけど全例が重症化するわけではないし、重症化してもそのうち治るわけだし、ワクチンを打つのはお金がかかるし、まあいいか」と深く考えないようにしている人も多いのではないでしょうか。

 しかし、この考えは「間違い」です。風疹で、最も気をつけなければならないことは何か。それは「他人への感染」です。もしも妊娠初期の女性に感染させると大変なことになります。

 たとえ赤ちゃんが先天性風疹症候群にならなかったとしても、風疹を患っていた人に接した可能性があれば、妊婦さんは何ヵ月も不安感に苦しめられることになります。妊娠中は精神状態が不安定になることも多く、例えば電車内で風邪のような症状の人がいたら、「あの時車内にいた人がもしも風疹だったら……」と悩む人もいるでしょう。

 風疹予防にはワクチン接種が有効ですが、風疹抗体価の低い妊婦さんの立場になれば「抗体が十分でない可能性のある人はすぐにワクチンを打って!」と言いたくなると思います。妊娠を希望していても、免疫不全など基礎疾患があって風疹ワクチンを打てない人もいます。

 ◇「職場の風疹対策ルール」を作っておくことが大切

 風疹対策の最重要事項は「他人、特に妊娠初期の女性に感染させない」です。そのことを前提として、では「風疹にかかったかもしれない」時にはどうしたらいいのでしょうか。答えは「可能な限り他人との接触を避ける」です。

 具体的には、オフィスに勤めている人なら、ただちに職場に電話して「風疹かもしれないから仕事を休みます」と言って、その日に医療機関を受診します。もちろん、簡単に仕事を休めないでしょうし、あなたの上司が風疹の危険性をきちんと理解してくれる人ではないかもしれません。

 ですから、事前に職場全体で風疹の話をしておく必要があります。「風疹を疑った時は無条件で仕事を休み、できる限り速やかに医療機関を受診する」というルールをあらかじめ作っておくことを勧めます。もしもあなたが風疹を疑っているのに出勤し、同僚女性が妊娠していることを後で知った、そしてやはりあなたは風疹だった、ということになったら、同僚女性もあなたもまともな精神状態ではいられなくなるでしょう。

 他人への感染を防ぐには、職場以外でも注意しなければなりません。家庭内での感染を防ぐ必要がある時は、場合によっては診断がつくまでホテルなどに宿泊した方がいい場合もあります。

 風疹を疑えば、たとえ軽症であったとしても医療機関を受診すべきです。そして、「風疹かもしれない」と事前に電話で医療機関に伝えておきましょう。

 ◇知らないうちに感染し、妊娠初期の女性に感染させる恐れも

 風疹がやっかいな理由はまだあります。先に述べたように成人の風疹には軽症例も多数あります。さらに国立感染症研究所によると、成人の15%程度は不顕性感染(感染してもまったく無症状)です。ということは理論上、他人と接する環境にいて風疹の抗体が十分でない限り、誰もが風疹に感染し、それに気づかないまま妊娠初期の女性に感染させる可能性があります。

 また、母親が風疹に顕性感染した場合の先天性風疹症候群の発生頻度は、妊娠1カ月で50%以上、2カ月で35%、3カ月で18%、4カ月で8%と、妊娠初期ほど高く、障害も重複して重くなります。一方、妊娠20週(6カ月)以降はほとんど発生しないとされています。

 妊娠1、2カ月というと、妊娠自体に気づいていない女性が多くいます。妊娠初期に風邪のような症状があったり、流行地域に住んでいたりして、後から妊娠や風疹抗体が十分でないことに気づいた場合、中には先天性風疹症候群を恐れて中絶を考える人もいるでしょう。

 日本産婦人科医会は、妊娠が分かった女性はただちに風疹抗体検査を受け、抗体がなかった場合は外出を控えるように呼びかけています。妊娠している女性についてはその通りなのですが、妊娠前の女性の場合、発覚後ではなく、妊娠の2カ月以上前に抗体検査やワクチン接種を済ませておくことが大切です。

 ◇抗体検査とワクチン接種の「壁」が招いた流行

 このように複雑な風疹に対してただちにすべきことは抗体検査とワクチン接種ですが、これらには「壁」があります。まず、国は自治体を通して、成人の抗体検査の費用を補助していますが、自治体の中には、妊娠を予定または希望する女性のみが対象で、夫や同居男性を含まないケースがあります。また、成人のワクチン接種に対する補助も、自治体によって独自の制度があったりなかったりします。抗体価が低いことを証明しなければならない、パートナーが妊娠中または妊娠を計画していなければならない、といった条件が付くことも少なくありません。

 公費の対象外となれば自費になり、そして日本のワクチンは安くありません。費用は抗体検査が5000円ほど、風疹ワクチンは5000~6000円ほど、麻疹風疹混合ワクチン(MR)は8000円~1万円ほどかかります。

 国は来年度、30~50代の男性を対象に、抗体検査費用を全額公費で負担する方針を決めたと報道されました。この世代の男性は、過去の予防接種制度の影響で、ワクチンを打っていない人が多く、今回も流行の中心になっています。

 ただ、この政策で現在の流行を止められるのでしょうか。このまま流行が拡大し続けたら、過去繰り返されてきたようにワクチンが不足して「打ちたくても打てない」という状況になる可能性が十分あります。流行地域で、家族や職場に妊娠の可能性のある女性がいる場合、抗体検査を待たずにワクチンを打つことも検討してほしいと思います。

 風疹の場合、まず「理解」すべき最重要事項は、妊娠初期の女性に感染させてはいけないということです。さらに、飛沫感染で簡単に感染し、健康な人は重い症状が出なかったり、まったく自覚がなかったりする場合もあることも覚えておきましょう。

最終更新:10/14(日) 9:30
毎日新聞