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駄々っ子トランプが「世界の消費者」を返上

10/16(火) 14:10配信

ニュースソクラ

役割放棄で後発国育てた好循環に幕?

 トランプ大統領を、赤ん坊に描いた風刺漫画をよく目にする。

 「泣く子と地頭には勝てぬ」と言うが、世界最強の駄駄っ子に、カナダもついに折れ、NAFTA(北米自由貿易協定)の修正版で、米国の保護主義色を強めた「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」への移行に同意した。

 すでに米韓FTAは、再交渉で韓国が譲って修正されたし、EU(欧州連合)と日本は、差し(バイ)の貿易交渉入りを受け入れた。関税を武器に貿易戦争中の中国も含め、米国は主要貿易相手のすべてに対し、赤字削減のアクションを起こしたことになる。

 戦後ずっと「最も豊かな国」だった米国は、自由貿易の原則に従い国内市場を開放し、他国に米国への輸出を足がかりに経済成長するチャンスを与えてきた。

 日米貿易摩擦の始まりとされる「ワンダラー・ブラウス事件」は1955年のこと。1ドル(当時のレートで360円)前後の日本製綿ブラウスが米市場に大量に流入して、ダンピングと、とがめられたのだ。

 韓国でテレビのカラー放送が始まったのは80年だが、韓国製カラーテレビは74年から製造されていた。メインターゲットは米国市場だった。

 「世界の工場」になった中国が、米市場に多くを負っているのは言うまでもない。昨年の米国のモノの貿易赤字の約半分が中国分。米国からの輸入は対米輸出の3分の1に満たない極端な不均衡だ。

 日本、韓国、中国はじめ多くの国が、米国の貿易赤字のおかげで輸出主導型成長ができた。

 それらの国が、稼ぎ(外貨準備)を、米国債などドル建て資産に投資することで資本が米国に環流し、長期金利の上昇を抑え、米国の消費者が低利のローンを借りて消費を増やし、米国の貿易赤字が増え…という循環が、過去数十年の世界経済のパターンとして定着していた。

 全方位に貿易赤字の削減を求めるトランプ政権の通商政策は、米国民の消費を源泉とするこの循環を断ち切ろうとするものだ。「米国は“世界の警察官”ではない」とは、オバマ前大統領の弁だが、トランプ氏は「米国は“世界の消費者”でもない」と言いたいのだ。仮に米国が世界の消費者を返上すれば…。

 第2の経済大国の中国は、米国への対抗から自由貿易の守護者のごとく振る舞い始めた。11月から工業品中心に1585品目の関税を引き下げる。景気対策に所得税の課税最低限を引き上げ中間層に手厚い減税(年3200億元=5兆1000億円規模)も実施する。

 住宅ローンや、教育費、医療費の負担が家計を圧迫し、中国の消費は伸び悩んでいる。生産年齢人口がピークアウトし、高齢化の加速が見込まれる中、減税が消費喚起の切り札になるだろうか。減税の一方で、政府は社会保険料の徴収を強化する方針とされる。

 “世界の消費者”になるのは簡単ではない。思い出すのは、85年4月、中曽根康弘首相のテレビ中継された記者会見だ。当時は日本が米国の最大の赤字先で、米レーガン政権から何とかしろ、と迫られた首相は国民に訴えた。

 パネルの図表を指しながら「自分自身の生活をよくするため、外国製品を進んで受け入れるようにお願いする」「国民が1人100ドルずつ外国製品を多く買えば、120億ドルも輸入が増え、外国も喜ぶ」と。

 だが、黒字は減らず、その後に起きたのは急激な円高、公共事業のバラマキ、そして資産バブルだった。

 もっとも米国の“世界の消費者”返上もそう簡単ではない。大半の経済学者は、トランプ流通商政策の赤字削減効果に懐疑的だ。

 一国の経済が貯蓄不足の状態なら、経常収支が赤字になるのがマクロ経済学の常識だ。トランプ減税などで財政赤字の増加が見込まれ、米国の貯蓄不足は解消されそうにない。

 犬(貯蓄の過不足)がシッポ(経常収支尻)を振るのであって、その逆ではない。

 仮に対中国の赤字が減ったとしても、貯蓄不足がそのままなら、別の国に対する赤字が増える。モグラたたきのような貿易戦争が続くのかもしれない。

■土谷 英夫:けいざい温故知新(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版)

最終更新:10/16(火) 14:10
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