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「組織化された混沌」を大切にしてきた

10/24(水) 13:31配信

ニュースソクラ

「わが経営」を語る 森川宏平昭和電工社長(4)

 ――森川社長は事業部長のときに、儲かっていなかった半導体の製造に使う高純度ガス事業を立て直したそうですね。

 高純度ガスは儲かっていたのですが、7、8年かけて、利益がほとんどゼロになったんです。値段が下がって、例えば、昔は単位当たりの利益がこれだけあったのが、5分の1になったという次第です。

 さらに値段を下げたくないということもあって、売ることに消極的になっていたのでしょう。これでは利益は5分の1になりますよ。

 しかし市場はどんどん拡大している。市場が日本から海外に移っているのにも、きちんと対応していなかった。

 どう見ても5倍売れる市場になっているので、5倍売れとやったのです。非常に単純な話です。

 ――人材についてみると、高橋秀仁取締役常務執行役員は銀行を振り出しに外資系企業を経験した方で、スカウトした人材ですね。古い会社だと思ったら、意外に新しい。

 あのあたりは、新しい血を入れなければいけないという市川秀夫会長の考えによるものです。

 ――伝統のある企業は内部昇格の人材で固める傾向が強くて、外から来る人を体質的に受け入れないものですが。

 不思議なことに、うちにはそれが全く無いですね。うちの文化なのでしょう。

 意図的に外部からあまり採用していなかったのではなくて、やっていなかっただけだと思います。

 ――縄張り意識も無いのですか。

 あまり無いんじゃないですか。心が広いのか、考えていないのか、分かりませんが。(笑)

 ――自分が担当する分野には、他から口を挟ませないし、他にも口出ししないといったことはいかがですか。

 他の会社から来た人に対してや、事業部間で、縄張り意識のようなものはあまり無いと思います。今の時代は、それが強みでしょうね。昔はひょっとしたら、縄張り意識が強い方が、(活力が出て)会社を強くしたのかもしれないですけどね。

 みんなそれぞれ特徴がありますが、それが強みになるか弱みになるかは、特徴の生かし方にもよるし、時代にもよります。

 その意味で、縄張り意識が無いという特徴は、昔はあまりよくなかったかもしれないが、今はいいのかもしれません。

 ――多様性が求められる時代ですからね。

 多様性、ダイバーシティというのは、イノベーションを生む手段なんです。いろいろなものがぐじゃぐじゃに混ざった、混沌状態がイノベーションを生むことは、昔からわかっていたことです。

 卑近な例では、組織を変えるとか、人事異動とかがそうでしょう。突然、違う部署から知らない人が異動で来る。機構改革で組織が一新される。異業種交流もそうです。

 今流行りのオフィスで席を自由に選べるフリーアドレス制や、よその会社や研究機関などと共同研究するオープンイノベーションも、狙いは同じです。

 ――森川さんの座右の銘は「組織化された混沌」だとか。

 今話したような意味です。その言葉を初めて見たのは江崎玲於奈さんの日本経済新聞の『私の履歴書』です。すごくいい言葉だなと思いました。

 個々は自由奔放に動き、ぐちゃぐちゃだけど、全体として一つの方向に向かって行くことができれば、ものすごく強い組織になります。

 しかし混沌状態はすぐ元に戻ってしまいます。連続してつくるのが難しい。外部から人材を入れるのも一つの手でしょうね。

 ――ソニーの創業者、井深大さんは天才で、計画が嫌いだったそうです。計画を作ると、それに縛られて、考えなくなるからと。

 長く続いているメーカーは、天才の創業者がいなくなっても、混沌状態をうまくつくり出し、それを統括する人が代々出ているからだと思います。

 カリスマがいなくなった途端、混沌状態を方向付けられる人がいなくなったり、みんなが同じことを考えるようになったりしたら、駄目です。

 ――混沌状態をコントロールするものは、何でしょうか。

 それが分かれば苦労しない(笑)。例えば徳川幕府はなぜ15代も続いたのか。歴代の将軍が全員優れていたかというと、そんなことはないと思います。

 システムがうまくできていたのでしょうね。徳川家康が偉かったのか、3代目の家光が偉かったのか、わかりませんが、初期の人たちが優れていたのでしょう。

 将軍を支える下の連中が偉かったのか。将軍も御三家などから直接血のつながらない人が何人か来ていますよね。

 ――いわばビジネスモデルがよくできていたのですかね。

 当社も昭和電工になってから来年で80年、その前からだと100年を超えるのは、そういうものがうまくできていたのでしょう。

 ――社長が昭和電工に入社を希望されたのはなぜですか。

 就職について最も信頼して相談できるのは恩師だと思っていたので、先生に「ここはどうですか」と聞いて、何社か「止めとけ」と言われました。「昭和電工」は「いいじゃないか」だったのです。

 ――社長を目指して入ったわけではないでしょう。

 社長って、何をしているのか分からないでしょう。課長ですら分からなかったのに、社長になりたいなんて思うわけがない。

 ――今はストレスが無いそうですね。社長は自分で全部決められますものね。

 ええ。まあそうですね。

 ――業績が悪かったら大変です。

 そういう時でも、ストレスは無いと思います。

 ――動じないのですか。

 必ず盛り返せるという根拠のない自信を、生まれつき持っていますのでね。(笑)

■聞き手 森 一夫(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:10/24(水) 13:31
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