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【木内前日銀政策委員の経済コラム(27)】 円高恐れ政策正常化遠のく恐れ

10/30(火) 11:03配信

ニュースソクラ

日米経済交渉で 円高リスク一気に表面化

 10月8日から14日に、インドネシのバリ島で国際通貨基金(IMF)の年次総会が開かれた。筆者も当地に赴いて、世界の貿易問題、通貨問題を議論するパネルディスカッションにパネラーとして参加した。

 そこでの参加者の関心は、米中間での貿易戦争、通貨戦争に集中していた。当方からは、日米間での2国間貿易交渉が始まること、その交渉過程で米国側から円安誘導との批判を受ける可能性があること、為替と日本銀行の金融政策は、相互に強く関係していること、などを報告した。

 日米間の問題に関する参加者の関心は概して低く、日米2国間貿易交渉については初めて聞いた、との反応もあった。

 しかし、まさにその直後、年次総会に参加していたムニューシン米財務長官は、日米貿易協定に為替条項を盛り込む必要性を語り、金融市場に大きな衝撃を与えた。日本政府は、日米間でそうした議論はないと火消しに回ったが、貿易問題と為替問題を結びつけたいという米政府の意向がこれではっきりした。

 すでに米国とメキシコとの新たな貿易協定にも、メキシコの通貨安を牽制する為替条項が盛り込まれた。米韓改定FTA(自由貿易協定)にも、同様な条項が盛り込まれたと米国側は主張している。

▽日本銀行の政策にも影響

 突然出てきた米財務長官のこの発言には、実は伏線があった。米財務省が4月に公表した為替報告書では、日本銀行が現在の緩和政策を始めた2013年上期から円の対ドルレートは低下傾向を鮮明にし、実質実効為替レートでみた現在の円の価値は、歴史的な平均値を25%程度下回っている、と指摘されていた。

 これは、日本銀行の金融政策が過度な円安をもたらしているとの米国政府の認識を反映しているのだろう。

 日本は、今後、米国との間で厳しい貿易交渉を余儀なくされるだろうが、これに、通貨を巡る対立も加わってくる可能性が高まってきた。実際に、日米貿易協定に為替条項が盛り込まれる可能性が高いとまでは言えないだろうが、少なくとも、日米貿易交渉が難航する局面では、米国政府が日本の金融政策、為替政策を円安誘導と批判する可能性は高まったのではないか。

 実際、そうした事態となれば、円高リスクが一気に高まる可能性がある。

 他方で、日本銀行にとっては、通貨安誘導との米国政府からの批判、いわば外圧をむしろ利用して、金融政策の事実上の正常化をさらに進めることも可能である。

 米国側からの批判を受けても、それほど円高が進まない場合には、そうしたシナリオが現実味を帯びるだろう。しかし、円高圧力がかなり強まる場合には、正常化策が円高傾向をさらに増幅してしまうことを恐れて、逆に正常化に慎重になってしまうことも十分に考えられる。現時点では、後者の可能性の方が高いのではないか。

■木内 登英(前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)
1987年野村総研入社、ドイツ、米国勤務を経て、野村證券経済調査部長兼チーフエコノミスト。2012年日銀政策委員会審議委員。2017年7月現職。

最終更新:10/30(火) 11:03
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