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『紅の豚』でジーナが歌うシャンソン「さくらんぼの実る頃」にまつわる悲しい歴史とは

11/2(金) 20:29配信

BuzzFeed Japan

宮崎駿監督の映画「紅の豚」が11月2日、日本テレビ系「金曜ロードSHOW!」で放送されます。あまりにワクワクしてしまい、今日は仕事が手に付きませんでした。【吉川慧/BuzzFeed Japan】

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ところで、みなさんは「紅の豚」のどんなシーンが好きですか?

飛行艇の空戦シーンをはじめ、見どころは盛りだくさんなのですが、私が好きなのはマダム・ジーナが店のピアノに合わせてシャンソンを歌うシーンです。

曲のタイトルは「さくらんぼの実る頃」。イブ・モンタンをはじめ、フランスを代表する歌手たちに愛されたシャンソンの名曲です。

劇中ではジーナを演じる加藤登紀子さんが、流暢なフランス語でしっとりと歌い上げています。

作品をグッと大人っぽくしている印象的な音楽ですが、実はフランス人が経験した悲しい歴史と深く結びついている歌だったのです。

今日はそのことを伝えたくて、この記事を書きました。

■甘く切ない恋の歌『さくらんぼの実る頃』にまつわる悲しい歴史

マダム・ジーナが歌う「さくらんぼの実る頃」は、エンディングテーマの「時には昔の話を」と相まって、この作品にノスタルジックな香りを映画に与えています。

宮崎監督はなぜこの曲を劇中に用いたのでしょうか。

もしかしたら、『紅の豚』が企画された1991年当時の空気を知ることがヒントになるかもしれません。

当時、世界は大きなうねりの中にありました。

湾岸戦争、ソ連の共産党クーデタ、ユーゴスラビアでの民族紛争……冷戦終結後、激的に変化する世界情勢に、宮崎監督は大いに影響を受けました。

加藤登紀子さんとの対談の中で、宮崎監督はこう語っています。

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宮崎:湾岸戦争以来、世界が突然動き始めたときに、自分の生き方の根っこの部分が揺らいできたということがある。

自分の今までのうしろめたさを根拠にした世界観とか歴史観、あるいは戦後の経済成長期に居合わせて、世の中少しずつ良くなっていくから人間性も良くなっていくんじゃないかとか、どこかで疑問符をつけながらも自分のいちばん根拠としてきた部分がぐらついた。

ほんとうにぐらついたと言わざるを得ないんです。しばらくの間、政治的判断力がすごく鈍った。そうとは気取られないようにしてましたけど(笑)。

加藤:『紅の豚』は、自分の内なる世界観や美意識を他人に押しつけもせず、伝えもせず、できるだけ気取られないようにしながら、だけど毅然と生きてきた男の映画だと、私は思っているんです。でもそういう男のイメージって歴史的にずーっとありますよね、ジャン・ギャバンから高倉健まで。

宮崎:そのイメージというのは実を言うと、加藤さんの「時には昔の話を」とか「さくらんぼの実る頃」のフレーズが、大きなひっかかりになっているんです。

だから1920年代になって、半世紀も前の歌を愛しながら、真っ赤な飛行艇に乗って飛び続ける「豚」に託された信条というのは、おそらくうまく伝われないだろうとわかっているんだけど、それはまあ、作る側のひそかな楽しみですから。

文藝春秋社『ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し』(文春ジブリ文庫)より

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劇中で「ファシストになるより、豚のほうがマシさ」と語る主人公のポルコ。

激動の時代にあっても、ぐらつくことのない魂を持つポルコに、宮崎監督は自身の姿を重ねようとしたのかもしれません。

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最終更新:11/3(土) 1:24
BuzzFeed Japan

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