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世界一の印刷インキメーカーが、「食べられる藻」を40年以上前からつくり続ける理由

11/6(火) 8:15配信

ITmedia ビジネスオンライン

 先日、ひさびさにソーダ味のアイスを食べてちょっと驚いたことがある。

 ベロが青くならないのだ。

スピルリナの顕微鏡写真を見る

 一体なんの話だと首をかしげる方はちょっと子どものころを思い出していただきたい。ソーダ味のアイスを食べると「青色2号」など合成着色力料で舌が真っ青になって、友だち同士で「わあ、気持ち悪い」なんて見せ合いっこした思い出があるはずだ。が、近ごろのアイスはいくら食べても青くならないのだ。

 一体、何が変わったのか。答えは、アイスの袋に表記された「スピルリナ青」という言葉にある。と耳にして「ああ、あれね」とピンときた方はかなりのシャレオツ女子か健康オタクに違いない。

 スピルリナは約30億年前に出現した「藻」の一種で、多くのビタミン・ミネラルに加えて、たんぱく質、鉄分なども豊富である。近年はサプリメントやパウダーにされたものが「スーパーフード」として海外などでは大人気で、あのマドンナやミランダ・カーなども愛飲しているという。

 原物のスピルリナは藻らしく濃い緑色だが、ここから青色色素「フィコシアニン」が抽出できる。そんな植物由来の天然成分がソーダ味のアイスに用いられている、というわけだ。

 多くの人に愛される国民的アイスに大きなイノベーションをもたらし、世界の意識高い系女子たちをとりこにしている「食用藻」――。好奇心が刺激されたので、さらに突っ込んでいろいろと調べてみたところ、あまり世間では知られていない意外な事実が判明した。

 実はこのスピルリナを世界30カ国に供給し、トップシェアを誇っているのは日本企業である。と、ここまではよくあるパターンなので特に驚くような話ではないが、それが印刷インキなどを製造する化学メーカーだと聞いたらどうだろう。

 そう、実は世界最大級のスピルリナメーカーはDIC株式会社(2008年に大日本インキ化学工業から改名)なのだ。

当時の人類は追いつめられていた

 大日本インキといえば、「印刷インキ、有機顔料、PPSコンパウンドで世界トップシェアの化学メーカー」(DICのWebサイト)。ぶっちゃけ、口に入れるものをつくっているイメージは皆無だ。ゴリゴリの化学工業メーカーがなぜ「食べられる藻」をつくっているのか。

 近年のスーパーフードブームに便乗して参入したにしては世界30カ国で展開するなどガチ感がハンパない。ということは、印刷インキの流れで、ソーダ味アイスの天然色素のように「着色」というところからスタートしているのか。

 それらの疑問を、スピルリナの製造販売を担っているDICの子会社、DICライフテック株式会社にぶつけたところ、同社の学術部長から意外な答えが返ってきた。

 「私たちがスピルリナの商品化をスタートさせたのは今から40年以上前。最初は健康食品とか着色料などではなく、もともとは世界の食糧不足を解決しようということで、“石油たんぱく”とセットで開発が進められていたのです」

 若い世代にはまったくピンとこない話だが、実は1960年代の世界では石油から食品を生み出そうという研究が盛んに行われていた。といっても、石油を固めて食べるとかではなく、「酵母」という微生物に、石油の副産物ノルマルパラフィンを食べさせて増殖をさせるというもの。酵母は主にたんぱく質から構成されているので、石油を食品へ変換できる新技術として注目を集め、日本でも化学メーカーなどが開発にしのぎを削っていたのである。

 と聞くと、理屈は分かるけれど、わざわざ石油を食べ物に変えなくてもと思うかもしれないが、当時の人類はそこまで追いつめられていた。今のペースで人口が増えていけば遅かれ早かれ食料の奪い合いになる。そこで圧倒的に不足するのが、たんぱく質であるというレポートが次々と公表され、肉、卵、乳製品など従来の食品以外で、たんぱく質をつくり出す方法が求められていた。その中で有力視されていたのが、当時は「無限の資源」と思われていた石油だったのだ。

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