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「司法判断」に揺れる原発 電力会社の経営や政府方針に影響も

11/7(水) 9:30配信

産経新聞

 原発の再稼働や運転が司法判断に揺れている。昨年12月に広島高裁による運転差し止めの仮処分命令を受けて運転できない状況が続いていた四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町、出力89万キロワット)は、今年9月にこれを取り消す決定が出たことで、約1年ぶりに再稼働した。ただ、原発をめぐる同種の訴訟や仮処分申し立ては全国的にあり、今後の司法判断によっては電力会社の経営や政府方針にも影響を与えかねない。

 10月27日午前0時半-。四国電は伊方3号機の燃料の核分裂を抑えていた制御棒を引き抜き、原子炉を起動させた。再稼働は、定期検査に入るために運転を停止した昨年10月以来だ。

 四国電はもともと今年1月の再稼働を見込んでいたが、昨年12月に広島高裁が運転差し止めの仮処分命令を出したことで、運転停止の状態が続いていた。四国電は「伊方3号機の安全性は確保されている」と説明。同高裁が今年9月25日に四国電の主張を認める異議審決定を出し、再稼働が可能となった。

 運転差し止めによって原発の停止状態が長引けば、収支の悪化は避けられなくなる。仮処分命令を受けて伊方3号機が運転できない状況が続いていた四国電の場合も、火力発電所の燃料費負担の増加などで約330億円の収支悪化要因となった。原発を持つ他の電力会社にとっても対岸の火事ではない。

 電力業界の関係者によると、全国で係争中となっている原発の運転差し止めを求める訴訟や仮処分申し立ては30~40件程度という。伊方3号機についても、同種の仮処分は高松高裁や山口地裁岩国支部など複数の裁判所でなお係争中だ。

 原発の再稼働や運転と司法判断について、電気事業連合会の勝野哲会長(中部電力社長)は10月19日の定例記者会見で「(東京電力福島第1原発事故の教訓を踏まえて策定された)新規制基準への適合はもちろんだが、規制以外の安全性向上の取り組みも含め、しっかりと事業者(電力会社)の取り組みを説明していくことが必要だ」とした。

 一方、ある電力会社の幹部は「司法判断が裁判長によって変わってしまうことが見受けられる。こうしたことは『原子力ムラ』ではリスクとして受け止められている」と指摘。伊方3号機をめぐっても、昨年12月に広島高裁が運転差し止めの仮処分命令を出した際は野々上友之裁判長(当時)だったが、今年9月に同高裁がこれを取り消す決定を出して再稼働を認めた際は三木昌之裁判長だった。

 この幹部は「(電力会社側の主張が認められる)判例を積み上げることが重要になってくる」と話す。

 原発の再稼働をめぐる政府の方針にも影を落としかねない。今年7月に改定されたエネルギー基本計画では、原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認めた場合は「その判断を尊重し原発の再稼働を進める」とした。これまで新規制基準のもとで再稼働したのは5原発9基。政府は2030年度の電源構成に占める原発の比率を20~22%に引き上げる目標を掲げるが、達成には30基程度の運転が必要とされ、なお遠い。

 5原発9基は、いずれも「加圧水型軽水炉(PWR)」と呼ばれるタイプの原発だ。今後は、福島第1原発と同じタイプの「沸騰水型軽水炉(BWR)」の再稼働が進むとの期待もあるが、実際にそうなったとしても住民らによる訴訟や仮処分申し立てが続く可能性はあり、司法判断によっては運転が突然差し止めとなるリスクも拭えない。

 原発の再稼働や運転をめぐる司法判断について、経済産業省の関係者は「これまでは電力会社側の主張が認められており、今はそれほど深刻な状況ではない」としつつ、「多くの訴訟や仮処分申し立てがあるのは確かだ。背景には原発への不安があり、重く受け止める必要がある」と話す。

 電力会社や政府は、原発をめぐって司法が“想定外の判断”を下すリスクに、この先も神経をとがらせることになりそうだ。(経済本部 森田晶宏)

 ■原子力発電所の再稼働

 東京電力福島第1原発事故の反省や国内外の指摘を踏まえて策定された「新規制基準」のもとでこれまでに再稼働したのは、関西電力、四国電力、九州電力の計5原発9基。東電柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)や日本原子力発電東海第2原発(茨城県)も安全審査に合格しているが、地元自治体には慎重姿勢もみられており、今のところ再稼働のめどは立っていない。

最終更新:11/7(水) 9:30
産経新聞

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