ここから本文です

『ヤマト』の宇宙はなぜ青い? 『コードギアス』に人型ロボットが出る理由は? 制作者が作品に落とし込む宇宙SFの“リアリティ”とは【1/2】

11/8(木) 11:30配信

電ファミニコゲーマー

 『ウルトラマン』、『宇宙戦艦ヤマト』、『機動戦士ガンダム』……。程度こそ異なるが、「宇宙」と「SF」をテーマに取り入れた作品は1980年代ごろから多数存在し、現在まで小説やアニメ・実写映像、ゲームなど媒体のかたちを問わず多くの人がエンターテイメントとして慣れ親しんできた。

【この記事に関連するほかの画像を見る】

 宇宙SFは遠い世界のようで、意外と身近な作品のなかに多くあふれている。

 だが、誰もが宇宙や未来のテクノロジーについて詳しいわけではない。我々が宇宙SF作品を簡単に楽しめるのは、作中で描かれている設定を正しく考証したり、あるいはその設定を用いた演出を考え出したりする仕事があるからだ。
 ゲームが開発されていくうちにいくつものアイディアを洗練し時に切り捨てるように、宇宙やSFをテーマにした作品にも、骨子を過不足なく確立していく仕事がある。

 いったいその作業には、どんなテクニックと勘どころが必要となるのだろうか? 前回は『ガンダムUC』を手掛けた福井晴敏氏を中心に、SF対談をたっぷりと語っていただいた。

 今回もDMM GAMESの協力を得て、さまざまなアニメ作品の設定考証を務める小倉信也氏、さらに『恒星少女』にて監修を務めるイシイジロウ氏に加え、『プラネテス』や『コードギアス 反逆のルルーシュ』でおなじみのアニメ監督の谷口悟朗氏をお迎えし、宇宙SF作品の現場でのさまざまな話を語っていただいた。

 谷口悟朗監督は1966年生まれ。65年生まれの小倉氏、67年生まれのイシイ氏。
 同年代であり同じくSF作品に関わる3人は、いったいどのように宇宙SFを見据えているのだろうか。

聞き手、文/野口智弘、福山幸司
編集/ishigenn
カメラマン/佐々木秀二

■リアルな宇宙とラッセンは紙一重!? 宇宙の描き方の落とし穴

──具体的な話をされる前に、まずはイシイさんから谷口さんに『恒星少女』の簡単なご説明をお願いします。

イシイジロウ氏(以下、イシイ氏):
 戦艦とか刀を擬人化したゲームがいろいろとありますが、恒星を擬人化したゲームになります。

谷口悟朗氏(以下、谷口氏):
 恒星を擬人化? 惑星の擬人化だと『もやしもん』や『純潔のマリア』の石川さんが描いておられますけど恒星ですか。

小倉信也氏(以下、小倉氏):
 (資料を指さしながら)この宇宙の背景を描くだけでも、ものすごく大変で。それが、なかなかわかってもらえない。

イシイ氏:
 宇宙の絵がラッセンになっちゃうんですよ。イルカが飛んでそうな(笑)。

谷口氏:
 ほー(笑)。

イシイ氏:
 ラッセンをディスってるわけじゃないんですけど、リアルな宇宙をやりたいんですよね。

谷口氏:
 太陽系中心ではなく?

イシイ氏:
 真っ暗な宇宙じゃなくて、明るい宇宙を描きたいなって。だからラッセンまでいっちゃうんでしょうね。

小倉氏:
 いや、明るい宇宙でもいいんですよ。ハッブル宇宙望遠鏡が撮っているものなんて、極彩色ですよ。本物の天文写真が浮世離れしているというか。「人間の生活とまったく関係がない世界」とはまさにでして。

谷口氏:
 明るいですもんね、ハッブルの画像は。

小倉氏:
 たとえば、かぐやが撮った月は綺麗すぎてCGに見えてしまう。

谷口氏:
 そうですよね。馬の首星雲(馬頭星雲)とかも合成物みたいに見える。

小倉氏:
 誰かがエアブラシで描いたみたいなね。

イシイ氏:
 そういう意味ではラッセンにならないリアリティっていうものをすごく分析しました。なにも考えずに描いちゃうとラッセンっぽくなってしまう。
 宇宙じゃなくてファンタジーイラストになってしまうのを、どこまでリアルな宇宙として絵に落とし込むか。そこをすごく悩みました。

──そこは前回の対談では出なかった話題ですが、すごく興味深いです。たとえばアニメだと宇宙の描き方はどのようになるのでしょうか?

小倉氏:
 アニメの宇宙の背景だと、ととにゃんさんとか、すごく慣れていますよね。

谷口氏:
 たぶん、ライティングも考えた色の締め方だったりじゃないですかね。

小倉氏:
 デジタルになってから黒を使えるようになりましたからね。

谷口氏:
 そうですね。あの、少し脱線しますけど、デジタルになったときにテレビ用の色データって一時期混乱したんですよ。
 たとえば、テレビで放送するときにRGBを全部 足した数値が16Uじゃなきゃいけないルールがあったりしてね。アナログだとそもそも関係なかったのがデジタルだとできちゃう。でも、5/5/5じゃダメなんですよね。5/6/5とか6/5/5とか。そうすると黒のなかに微妙に赤や青が出る。

■タツノコプロ、『宇宙戦艦ヤマト』、『機動戦士ガンダム』……アニメにおける宇宙の色使いの歴史

イシイ氏:
 そのあたりの技術の話をお聞きしたいんですけど、宇宙の表現ってアナログからデジタルに変わっていったし、時代によっても変わっていったと思うんですよね。
 たとえば、松本零士の宇宙は、『宇宙戦艦ヤマト』のときにすごく青かった。1970年代の『ヤマト』ってあんなに綺麗な星雲が発見されていなかったから、カラフルな宇宙ではないんです。でも宇宙の色が青いんですよ。

谷口氏:
 私の意見だと、松本作品の宇宙は暗くしたほうだと思います。

イシイ氏:
 まだ暗くしたほう? 『ゼロテスター』とかそういう……。

谷口氏:
 自分自身の記憶をたよりに語ると、もっともカラフルだったのはタツノコプロの宇宙だと思うんですよ。

小倉氏:
 ああー! 『テッカマン』とかね。

谷口氏:
 タツノコプロがやっていた作品の宇宙空間というのはいろんな星雲に色がついているのを再現したかったらしく、それが多分、元だと思うんです。
 そこからいくと『ヤマト』はいろんな情報量がかなり抜かれていて、なおかつ、青を主体としたというのは想像ですけど、冷たい宇宙にしたかったんじゃないかな。

谷口氏:
 要するに『ヤマト』の単体の旅であるという形で。

小倉氏:
 あとヤマト自体の色がグレーじゃない。あの掟破りの。

谷口氏:
 まさにその通りで、ヤマトが背景の宇宙の色に溶け込まないようにした、というところもあっての宇宙の色だったんだろうなと思うんです。

イシイ氏:
 渋かったですよね。青が綺麗で、すごく孤独感がありました。

小倉氏:
 寒色系ですよね。

谷口氏:
 富野(由悠季)さんは『機動戦士Zガンダム』のときもそうだったのかな。『逆襲のシャア』のときもそうだったけど、通常の暗い宇宙とコックピットごしに見える、青く上げてある宇宙。そういう形の切り替えは使っておられましたね。

小倉氏:
 『宇宙戦艦ヤマト2199』以降は黒宇宙を使うんですよ。

谷口氏:
 ですよね。デジタルになった影響で、事前に画面のルックの状態がよくわかるようになったりとか、調整できるようになりましたから。家庭や局の機材も変わったし。

 フィルム作品の場合、大概はまずフィルムテストをやりましたね。コダックのフィルムを使うのか、富士フィルムを使うのか。
 両方のフィルムを使って背景ボードと色味を撮って、「じゃあ今回の作品はコダックの色味がいいよね」といった具合で決めていました。

小倉氏:
 『スタートレック2 カーンの逆襲』のパンフレットを見たら、フジカラーって書いてありましたもん。あ、そうなんだって。

谷口氏:
 (笑)。

イシイ氏:
 アニメにおける、宇宙表現映像の歴史はなかなか面白いですね。『プラネテス』はデジタルがどこまで入っていたんですか。

谷口氏:
 撮影はすべてデジタルですね。

小倉氏:
 作画が超アナログで。

谷口氏:
 あははは、作画は手です。手力ですよね。当時、CGで出来る点数っていうのがある程度限られていましたし、CGでできる表現っていうのも限られていたので、そうすると確実な技術は手だっていう。

小倉氏:
 そうなんですけど、あのメンツがいなければできなかったような気もする。

■ガンプラ方言問題。バーニアは大型メインロケットノズルにあらず。

──当時の小倉さんの仕事としては、幸村誠さんの原作もありますけれど、それをアニメに落とし込んでいく上で必要となるSF的なものを設定していった感じなのですか。

小倉氏:
 原作こそあるんだけど、一番最初の番組企画としての体裁は職業もの、社会人向けに見せるということ。社会人が主人公であるドラマとは?とか、そういう話がほとんどでしたね。

谷口氏:
 はい、「宇宙空間における仕事とは」というポイントを学ぶために最初は小倉さんによる勉強会を開いたんですよ。
 勉強会では、脚本家の大河内一楼さんとか、メインになるアニメーターの千羽由利子さんたちと共に宇宙空間における挙動とか、そういったレクチャーをしてもらって。

小倉氏:
 何をやったか忘れてますけどね(笑)。

谷口氏:
 小倉さんに怒られて以降、気をつけていることがあるんですよ。それは何かというと、「バーニア」という言葉ですね。
 バーニアってすごく便利な言葉だからアニメ業界だとよく使っちゃうんだけど。なにしろ作画さんにはソッチのほうが伝わるんで。

小倉氏:
 あれはスタジオぬえの森田(繁)さんも言っていたけど、ガンダム方言とか、ガンプラ方言と言われているものですね。本来、「バーニア」は「微調整」って意味なんですよね。

 メインのノズルがあったら、わきにちょっと小さいノズルがついているでしょ。それはメインロケットの癖を調整するために、ほんのちょっと力を効かせている。
 氷川竜介さんに教えてもらったんですけど、回転する計算尺を「バーニア」っていうんです。計算するためにほんのちょっとズラすっていう挙動。それだからバーニア。

谷口氏:
 いやぁ、勉強になります。

イシイ氏:
 メインで吹かすのをガンダム世代はバーニアって呼んでいて、僕も当時はずっとバーニアって言ってました。

小倉氏:
 アニメの現場ではね、まだバーニアって呼んでます。

谷口氏:
 そのほうが伝わりやすいから、利便性を優先しちゃうんですよね、どうしても。

イシイ氏:
 ……あ! 『バイファム』だ、バーニアって呼んだ最初の作品は!

小倉氏・谷口氏:
 ああ! ラウンドバーニアンだ!(笑)。

谷口氏:
 そうだ! 『バイファム』のせいだ(笑)。

イシイ氏:
 デザインがスラスター推しのくせに、「ラウンドバーニアン」って言っちゃったから(笑)。

谷口氏:
 ということは、責任者は元アニプレックス社長である植田(益朗)さん。

小倉氏:
 植田さんね(笑)。A-1 Pictures、アニプレックスの。

イシイ氏:
 でもラウンドバーニアンは姿勢制御するから、使い方として合ってはいる。あれを「バーニア」って言わなければよかったんですよね。

小倉氏:
 まあ、インパクトがあるからねえ。

■設定考証の今と昔。「昔はみんなで知識を持ち寄っていた」

谷口氏:
 多分、当時の時代的に「ロケット」って言うと恥ずかしかったんでしょうね(笑)。そういう意味でいうと、SF作品とかで「スター」と呼ぶか「スペース」と呼ぶかという問題もあるじゃないですか。

小倉氏:
 コンプライアンス的に言えないんだけど、僕は愛してるんだよね、そのB級のテイストを。名前とか用語とか難しいですよね。そのときの世情もあるし。

イシイ氏:
 コスモとか、一時期流行ってましたよね(笑)。

小倉氏:
 我々にとっては、神聖なる言葉ですよね。松本零士さんは、なんでもコスモ、コスモって言ってましたね。
 冒険王で『宇宙戦艦ヤマト』の単行本があったじゃないですか。そこでは「コスモシップ・ヤマト」と記されてました。

イシイ氏:
 最初はコスモシップでしたね。スペースバトルシップとスペースクルーザーもありました。

小倉氏:
 その話には、松本零士さんと西崎(義展)さんの血で血を争う歴史があるんですよ。本当は「スペースクルーザーヤマト」って西崎さんは言いたかった。
 でも松本零士さんが「戦艦とクルーザーの違いもわからんのか」と軍艦の知識で反論するわけ(笑)。

谷口氏:
 (笑)。

小倉氏:
 ちなみに、富野さんは『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』でもアポジモーターっと名付けちゃったり、凄いんですよ。

イシイ氏:
 アポジモーターって言ってた!

小倉氏:
 言ってたでしょ! やめろよっていうね。誰か教えてあげればいいのに。

谷口氏:
 多分、そのあたりはみんなそれぞれ知識を知っている範囲で、持ち寄ったもの。それに対して責任者だったりとかは、まだ存在しなかったんだと思いますね。

 私の最初に関わったロボットものの『絶対無敵ライジンオー』という作品では、設定制作だったんですけど同時に設定考証らしきこともやっていました。
 『Gガンダム』に入ったときでも、スタジオワークに関わる設定考証はいなかったですから。『Gガンダム』では、「このアンテナは何のためにあるの」とか、みんなで話してましたからね。

小倉氏:
 『Vガンダム』くらいまでは設定考証的な役割を井上幸一さんがやっておられましたよね。

谷口氏:
 はい、井上さんがやっておられましたね。

小倉氏:
 作品次第ですよね。ああいう感じになるかどうかって。

谷口氏:
 『勇者王ガオガイガー』のときは野崎透さんとは別に堀口滋さんが設定制作でもあり、設定考証としてやっておられたんですよね。敵や味方の理屈とかを米たに監督と一緒に作られていた。
 ちなみに『Gガンダム』で、音声入力というのは私が一話の演出時に勝手に考えた設定でして……。

──『Gガンダム』で必殺技を叫ぶのは……。

谷口氏:
 「必殺!」って叫ぶのは、これがスイッチになっていて。「オッケーグーグル」とか「ヘイ!シリ」と同じで、「必殺!」と言うからスイッチが入る。
 以降の話で主人公のドモンが「バ~ルカン!」と叫ぶんですけど、バルカンは人間の体には存在しない。つまり音声で言わないと使えないという。

小倉氏:
 ああ~! 音声入力による火器管制。すごいな、なるほど。

■原体験は『ウルトラ』シリーズ。70年代のSFの受容の証言。

──日本のSF作品で影響を受けたものや覚えているものはありますか?

谷口氏:
 『ウルトラマン』です。おそらく再放送だと思いますが、出てきた怪獣を全部覚えていたって親に言われました。
 自分では覚えていませんが、食い入るようにずっと観ていたんでしょうね。『ウルトラマン』のちょっと不思議な感じとか、バルタン星人とか、今でも好きです。

イシイ氏:
 リアルタイムで観ていたのは『帰ってきたウルトラマン』です。……素朴な疑問ですが、『ウルトラ』シリーズにハマる人と『ゴジラ』シリーズにハマる人って、どう違うんですかね。僕は『ゴジラ』派だったんですよ。

小倉氏:
 原体験は『帰ってきたウルトラマン』ですね。

谷口氏:
 私はすっごく貧乏だったんですよ。『ゴジラ』は映画館に行かないと観れなかったですから……。

小倉氏:
 わかる。

谷口氏:
 だからテレビでやってる『ガメラ』を観ていて。

──『ゴジラ』はテレビで放送されていなかったんですか。

イシイ氏:
 当時はしていなかったですね。逆に『ガメラ』はすっごいテレビでかかった。『ゴジラ』は角川映画のスターみたいなもんで、『流星人間ゾーン』っていうテレビ番組にゴジラがゲスト出演したんですよ。

小倉氏:
 ありました!

イシイ氏:
 そのときに僕、本当に興奮して「テレビで見れないゴジラが、テレビに出てる!」と。映画スターみたいな感じでしたよね。

谷口氏:
 私はだからずっとガメラ派でやってきて、金子修介さんの平成三部作のときは、「ざまぁみろ」と。ガメラが認められたよろこびが「ざまぁみろ」という表現だった(笑)。

イシイ氏:
 平成三部作は本当に最敬礼して「ありがとうございます」って感じですね。

谷口氏:
 いわゆる宇宙船ものも、『宇宙空母ギャラクティカ』とか『スタートレック』とかにハマる人と、そうじゃない人に別れると思うんですよ。

小倉氏:
 当時の自分はSFアニメのメカデザインとか『スター・ウォーズ』以降のミニチュアを使った特撮(当時は“SFX”と呼ばれていた)にハマってたね。後々に自分で仕事をやってるぐらいだからね。

──そういえば福井さんの回では、『最後のジェダイ』の話が少し出ました。

谷口氏:
 私個人は『フォースの覚醒』って、今までの『スター・ウォーズ』シリーズにJ・J・エイブラムス監督が乗っかって作ったと思えてしまうんですよ。新しく評価できるものがあるの? ってなると、私はないと思うんです。

 『最後のジェダイ』は上手くいってない部分があちこちにある。でも、チャレンジしようとした。その精神は褒めてあげなきゃいけないだろうと思うんです。
 J・Jみたいな、今まであった記号だけで上手いこと組んで、はいできましたというのは、評論家の人が褒めればいいんだと思うんですけど、作り手の自分としてはこれは褒められないなと。

──『スタートレック』もJ・Jが作っています。

谷口氏:
 彼はそういうのが上手い人なんでしょうね。でも私は、やっぱり新しいチャレンジをしようとしたとか、新しいことを組み入れたことを褒めてあげたいと思ってしまいます。
 もともと、『スター・ウォーズ』のエピソード1、2、3に関しては、ルーカスの持っている売れない美学が炸裂しているわけじゃないですか。

小倉氏:
 それはあるよね(笑)。

谷口氏:
 もっと売ろうと思ったら、私ならヒロインはもうちょっと違うデザインにする(笑)。

小倉氏:
 4、5、6に対して、売ろうとする気がないですよね。1、2、3は本当にルーカスが作りたかったものだと感じます。なぜ7以降はディズニーに預けたんでしょうね。

谷口氏:
 作り手としてやりたいと思うとこと、ビジネスとしてやるべきこと、どうバランスを取るかであって、どっちかに偏りすぎてもよくないとは思うんですよね。
 ゲームにしろアニメにしろマンガにしろ小説にしろ、変わらないと思うんですよ。

谷口氏:
 『ガス人間第一号』とかは、ある程度、SF映画を観てきた中で、「そうだ、日本のこういう作品を観ておこう」って戻った感じでした。
 あ、用意していただいたSF年評に山田正紀さんの小説『神狩り』が載っているのが嬉しいですね。同じ高校の大先輩なんですよ。

谷口氏:
 山田正紀さんは好きでしたね。あとは小松(左京)さんと星(新一)さんと筒井(康隆)さんとか、そのへんの方々は基本中の基本として。

イシイ氏:
 基礎教養な感じ。

小倉氏:
 基本ですよね。

谷口氏:
 ヨコジュン(横田順彌)さんの『山田太郎十番勝負』とか、そのへんまで普通に読んでいなくちゃならないとか。そんな感じでしたし。

イシイ氏:
 海外SFの小説にはいかなかった感じですか。

谷口氏:
 海外SFは一応、ひと通りは読みました。ただ当時は翻訳されて手に入りやすいのが、メジャーどころでしたし。

イシイ氏:
 基本、ハヤカワ文庫でしたね。

谷口氏:
 ハードSFとかはだんだん言葉通り、ハードになっていって。

小倉氏:
 海外SFが特に顕著ですよね。よもや誰もついていけないっていう。

谷口氏:
 私、ギリギリついていけたのはあのへんですね。『竜の卵』とかそのへんぐらい。

イシイ氏:
 『竜の卵』は面白かったですね。

小倉氏:
 あれは今振り返ると、正真正銘ハードSFなんだけど、まだ全然難解じゃあない。

谷口氏:
 ええ、今からするとあのへんだったらまだ優しいですよ。でも、当時の感覚だと、やばいけっこう厳しいぞ、みたいな(笑)。

イシイ氏:
 足が12本で12進数でしたっけ。なぜかそういう細かいところばかり覚えてます。すごいアイデアの塊だったなっていう。

小倉氏:
 アーサー・C・クラークのアドバイザーをやっていたぐらいの人なんで。

谷口氏:
 ああ、そりゃ当然そうなりますわね。

小倉氏:
 いわゆる兵器産業の研究者だった彼にとって、磁気単極(モノポール)を触媒にした核融合ロケットとかは、仕事の研究の延長にある普通の対象だったんです。

谷口氏:
 SF小説は、今だとAmazonとかですぐ読めたり、取り寄せることができますが、当時は本屋に置いてあるのはメジャーどころしかない感じでしたからね。

イシイ氏:
 学生時代はどのへんにお住みだったんですか。

谷口氏:
 愛知県です。名古屋の隣りにある日進っていうところにずっといまして。

小倉氏:
 僕は近郊の千葉の柏に行けば大きい本屋があって、という感じでした。社会人になってから都心の本屋に行って、「あ、こんなに本があるんだ」と驚きましたよ。

谷口氏:
 地域によって、文化的に接触できるかできないかは大きかったですよね。

イシイ氏:
 僕は大阪の梅田に行っていました。本屋に行くと、どこまで充実しているのか、チェックしていましたね。
 二十代まではどのくらい大きい本屋が職場の近くにあるかとか、住んでる近くにあるのかとかがすごく大事で。そこでクリエイターとしてどこまで自分を保てるかっていう。

谷口氏:
 それはわかります。初めて新宿の紀伊国屋に行ったときに、嬉しくて一日中いましたもん。「やっべー、こんな本まで置いてある」って。

小倉氏:
 1980年代の池袋西武のリブロは別格でした。

谷口氏:
 ただSF小説とは別に、私たちの世代は普通に生活していたら嫌でもSFが飛び込んできたし、触れる機会があったわけですよね。そういう意味では良かった。

■SFが普及する一方、『ヤマト』『ガンダム』はSFか否かが問題提起される。

──小倉さん、谷口監督、イシイさんがお生まれになった年の前後にアポロ計画や、『ウルトラマン』、『2001年宇宙の旅』がありますね。

小倉氏:
 そう、だから子ども向け雑誌を読むと、当時はソ連とアメリカの宇宙開発の歴史がどうなっているとかが書かれていたり。
 毎年のように新しいSF映画が公開されていましたし、テレビ東京のお昼の時間帯にB級の映画をいっぱい流してくれていて。

谷口氏:
 やってましたよね。『ノストラダムスの大予言』とか見ちゃうわけですよ。

イシイ氏:
 海外作品も『謎の円盤UFO』や『スペース1999』とかを放送していましたし、他にも『バイオニックジェミー』とかね。
 そういえば、小島秀夫さんが作られているゲーム『DEATH STRANDING (デス・ストランディング)』に『バイオニック・ジェミー』の女優さんが若かりしころの姿で登場することが発表されてましたよね。

小倉氏:
 いいですねえ。リンゼイ・ワグナー。

イシイ氏:
 あとは『超人ハルク』とか。アメリカのSFドラマ当たり前のように放送されていましたね。

小倉氏:
 『600万ドルの男』を観ていると、アメリカ空軍とNASAのことがよくわかるんですよ。
 元宇宙飛行士で、空軍の士官なんだけど、事故にあって、サイボーグ手術されて、秘密工作員みたいなことさせられる話。各基地を移動するときにF-104に乗る、という。

谷口氏:
 海外だけではなく、国内の子供向けでも『仮面ライダー』や『デビルマン』だったり、そういうものが普通にボンボン出てきたわけじゃないですか。
 そうすると「何となくこれはSFって言ってるけど、SFじゃないよね」とか、そういう見分けがつくようになってくるんですよね。

小倉氏:
 子ども騙しなのか、背伸びして観ていいものなのか、みたいなね。

イシイ氏:
 当時、なにがSFなのかという論争が『ガンダム』の前に『宇宙戦艦ヤマト』であったんですよ。
 『ヤマト』はパート1が星雲賞を獲っているんですけど、『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』以降、急にSF色が薄れていって。『ヤマト』に星雲賞をあげてしまったことに対して、SF会の人たちが後悔したという図式なんですよね。

谷口氏:
 でも『ヤマト』の功績ってものがあるんだからいいんじゃないですか。

イシイ氏:
 SF原理主義みたいなものが、当時すごくあって。

小倉氏:
 SF小説だけがSFっていうね。

イシイ氏:
 「『スター・ウォーズ』はSFじゃない。あれはスペース・ファンタジーなんだ。サイエンス・フィクションじゃないんだ」という、うるさいファンがいて。

谷口氏:
 一時期、そのへんのSF原理主義者の意見や影響を受けて、スペース・オペラが受け付けなくなってしまったときがあって。つまりスペース・オペラはB級、C級の何かっていう。

小倉氏:
 もう、別腹にしないといけない。

谷口氏:
 そう(笑)。

小倉氏:
 SFじゃなくて、これは俺の好きな全然別のもの、というね。『ガンダム』がSFか否かは、高千穂遙さんも触れていましたね。

谷口氏:
 高千穂遙さんは違うって言ってたんですよね。

小倉氏:
 でも30周年の特番では、「いや、そんなことは作品そのものの評価とは関係ないわけで」っとインタビューで答えていて……。

谷口氏:
 一応発言はしたわけですもんね。

小倉氏:
 “なのに”っていうね(笑)。

谷口氏:
 だから私なんて、高千穂遙さんの小説原作の映画『クラッシャージョウ』は「これはスペースオペラだから、C級作品なんだ。でも俺はこれを作画している安彦(良和)さんの絵を見たいんだ」と自分を納得させて(笑)。あくまで当時の感想ですけどね。

小倉氏:
 葛藤があるんですね。

イシイ氏:
 当時は国内に、SF小説の中でも原理主義要素とかが生まれて。

小倉氏:
 でも確かに小松左京先生の小説を読むと、風格が別格でしたね。矢野徹さんとか、筒井康隆さんとかもいるんだけど、小松さんだけが社会派で。

電ファミニコゲーマー:野口智弘、福山幸司、ishigenn

あなたにおすすめの記事