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機械が作った音楽は人の心を動かすか 「AIで自動作曲」研究するワケ

11/9(金) 8:00配信

ITmedia NEWS

 人工知能が作曲家になる日は来るか。私たちは、人間が作った曲と人工知能が作った曲の違いに気付けるのか。前回の記事では、テキスト入力された歌詞のイントネーションを分析してメロディーを作る自動作曲システム「Orpheus」の開発に2008~13年までの大学院在籍時に携わっていた、産業技術総合研究所 主任研究員の深山覚さんに、それらの疑問をぶつけました。

AIが作曲

・人工知能で「ヒット曲」難しい理由 ”良い音楽”は科学できるのか

 「音」と「音楽」の違いや、自動作曲を考える上で重要な3つの要素、人工知能がヒット曲を生み出すのはまだ難しいことなど、そのお話は多岐にわたりました。今回は、自動作曲は人間の作曲家の仕事を奪うのかや、これからの作曲家は人工知能とどのように付き合っていけばいいのか、自動作曲が浸透した日常はどんなものになっていくのか、などを聞きました。


編集部注:「Orpheus」は現明治大学の嵯峨山茂樹教授のアイデアから生まれ、東京大学らの研究チームで研究・開発されたもの。深山さんは、2008年~13年までの東京大学大学院在籍時に開発に携わっていた。

「AIが作曲家の仕事を奪う」という誤解

 人工知能による自動作曲で、作曲家の仕事はなくなってしまうのでしょうか。深山さんは「客観的な視点からも、私自身の信念としても、それはあり得ない」と否定し、「私が自動作曲を研究する理由は、人間ならではといえる創作を探究したいからなんです」と強調します。

 「いきなり"人間ならではの創作とは何か"を考えるのは、なかなかモヤッとして掴み所がありません。でも、少しずつ自動化できる所を見つけることで外堀を埋めていき、最後に残った部分が"人間ならでは"ではないか、というモチベーションを持って研究しています。それに私自身が、作曲の仕事をなくそうとは思っていません」

 「AIが作曲家の仕事を奪うとは思えない」と指摘する深山さん自身、音楽を嗜んでいるようで、「どこまで作曲に関わる部分を自動化できるんだろう」という思いをずっと持たれていたようです。

 「自分なりにインスピレーションが湧いてすごい曲を作っているつもりでも、もしそれと同じことが機械にできてしまうなら、誰にでも同じことができるようになります。どこまでやると同じものが出ないようになるのだろう、どうすると人間が作れないものを作れるようになるのだろう、そういうことへの興味が開発のキッカケです」

 実際Orpheusを通して、これは人間には作れないなと思えた音楽に出会った瞬間はあるのでしょうか。

 深山さんは「Orpheusを使っていろんな人が作曲をしてくれましたが、ちょっと奇抜な歌詞やフレーズが多くて(笑)。でも、それに対してちゃんとメロディーが作られて、自動作曲として評価もされている。それがびっくりなんです」と振り返ります。

 利用者の無理難題にも従順に対応するOrpheus、泣けますね。人間だったらさじを投げたくなるような要望にも解を出して、自動的に返してくれる。それは自動作曲ならではの面白さかもしれません。

 ただ、作られたメロディーを自分で歌うことを考えた場合は、「こんなメロディータッチ、よう歌わんわ!」という曲も含まれています。見方を変えると、人間の作曲者は、アーティストが歌いやすいようにメロディーの作り方を制限されていた可能性もあります。深山さんも「作曲家が作る歌は、アーティストが歌いやすい、聴衆が聴いていて楽しいなど、そういう方向に目を向けているでしょう」と話しています。

 しかし、それは音楽の可能性を狭めていることにならないでしょうか。歌いやすさと楽しさの両立は必ず必要なのでしょうか。歌いにくいから楽しめない、聴いていても楽しくない、と感じてしまうのでしょうか。深山さんは「そうは思いませんね」と否定します。

 「結果的に、僕たちが知っている音楽は限定されていて、もしかしたら、まだまだ知らない音楽があるかもしれません。Orpheusが作った"歌いにくい歌"を頑張って歌えるように練習している人を見つけたりすると、自動作曲研究者の冥利に尽きますね。意図してなかったとしても、新しい音を作れたということになりますから」

 ただし、今のOrpheusは人間に使ってもらうことを想定しているため、人間が聴いて違和感がないか、人間が歌いやすいか、などを少し意識した作りにしているそうです。例えば「歌詞のイントネーションに従うというルール」を設けた点。

 「箸、端、橋……それぞれ東京と大阪でもイントネーションが違いますよね。歌詞を入力して生成する仕組みなので、音として聴いたときに歌詞の意味が伝わらないといけないなとは思ってます」

 そうしたルールを細かく積み重ねることで、歌らしさ、音楽らしさが生まれるのでしょう。しかし、深山さんは「ルールを入れていくだけでは、ある程度で限界が訪れます」と指摘します。

 「Song2Guitarという、私の一押しの研究が良い例かもしれません。音響信号を入力すると、ギター編曲を自動生成するものです。具体的にはギターの運指情報を生成して出力しています。つまり、運指が決まれば弾けるという発想に立ち、人間が弾けないものは作らないという制約を入れることで問題を解いています。私としては非常に気に入っているアプローチで、単純にデータを学習して生成しているだけでなく、人間が弾けるかどうかで生成物の特徴を決める、という発想です」

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最終更新:11/9(金) 8:00
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