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【木内前日銀政策委員の経済コラム(28)】 想定外の暴騰・暴落リスクを高める銀行の動き 日銀報告

11/9(金) 15:03配信

ニュースソクラ

日銀システム報告、銀行貸し出しの質低下

 日本銀行は、国内の金融システムの安定性を評価する観点から、年に2回「金融システムレポート」を公表している。10月22日の最新版は、金融機関のリスクテイク姿勢にかなりの警戒感を示す内容になったと思う。

 前回4月のレポートで日本銀行は、低採算先の上位グループである「ミドルリスク企業」向けの融資拡大に注意を促したが、今回は、金融機関が保有するリスク資産全体の拡大が、将来の景気や金融システムの安定に与える悪影響について、一歩議論を進めた感がある。

 今回のレポートで分析の目玉となったのは、足もとでバブル崩壊期以降のピークを更新した金融ギャップ(金融面での偏り)の動きが、先行きの経済にどの程度の変動リスクをもたらすかを計測するGDPatRisk(GaR)という手法を用いた分析だ。

 先行き3年間の需給ギャップの変化幅について確率分布を計測すると、従来と比べて、需給ギャップが悪化する方向へと確率分布の形状が変化した、つまり景気の下振れリスクが高まっていることが確認できた。

 日本銀行は、先行き3年間といったやや長い目で見ると、バランスシートの調整圧力を溜め込むことが、下方のテールリスク(市場において、ほとんど起こらないはずの想定外の暴騰・暴落が発生するリスク)を高める方向に作用していると指摘している。

▼リスク資産拡大で自己資本比率低下

 他方、金融機関の財務環境については、自己資本比率が近年緩やかに低下していることが指摘された。その背景には、金融機関がリスク資産の保有を拡大させる一方、そこから得られる収益が十分に高くないこと、つまり、リスク資産の拡大に見合った収益をあげにくくなっていることがある。

 リスク資産では、低採算先向けの融資拡大が引き続き注目されている。金融機関の低採算先貸出比率は、近年、上昇傾向を辿っている。また、日本銀行が地域金融機関に対して実施したアンケート調査の結果では、「ミドルリスク企業向けの貸出金利は、景気循環を均した信用コストに見合っていない」と回答した金融機関が、5割以上に上っている。

 こうしたもとで、景気情勢が悪化に転じた場合、信用コストの増加から、金融機関の収益環境がにわかに厳しくなる可能性がある。

 さらに、足もとで注目を集めている不動産業向けの貸出比率は、依然、上昇傾向を辿っている。地域金融機関からは、最近の融資申し込み案件で、利払い能力の低い投資家層の増加、賃貸物件の期待利回りの低下、借入期間の長期化など、質の悪化を指摘する声が増加しているという。

▼低下する金融機関のストレス耐性

 リスク資産の中で融資でなく証券投資に注目すると、地域金融機関は投資信託を積み増し、リスクテイクを積極化させている。投資信託の中身が多様化するなか、そのリスクを十分に補足できていない先も少なくないという。

 日本銀行が実施しているマクロ・ストレステストで、テールイベント(滅多に起きないが、実際に起きると大きな影響を生じさせる出来事)・シナリオの結果を過去に遡って比較すると、金融機関の当期純利益や自己資本比率は徐々に下振れる傾向が見られている。

 低金利の長期化や競争激化から金融機関の利鞘の縮小傾向が続く一方、過剰なリスクテイクを伴うリスク資産の拡大が、自己資本比率を低下させてきていることが背景にある。

 金融機関の過大なリスクテイク姿勢が、先行きの景気の下振れ傾向を大きくするリスクを高める一方、経済・金融面のショックに対する金融機関の抵抗力、いわばストレス耐性は着実に低下している。経済・金融環境と金融機関の財務環境との間で、スパイラル的な悪化が生じるリスクは高まっているのだろう。

 金融機関の過大なリスクテイクを抑制する手段として、日本銀行は考査などを通じた金融機関への働きかけを進めるだろう。一方、過大なリスクテイクの誘因となっている収益環境の悪化を、預貸利鞘の拡大、安全資産投資の収益性回復の観点から緩和すべく、当面は、長期金利の上昇を促す金融調整を進めていくことになるのではないだろうか。

■木内 登英(前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)
1987年野村総研入社、ドイツ、米国勤務を経て、野村證券経済調査部長兼チーフエコノミスト。2012年日銀政策委員会審議委員。2017年7月現職。

最終更新:11/9(金) 15:03
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