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【論調比較・入管法】 外国人の人権案ずる朝毎・東京 治安悪化懸念の産経

2018/11/19(月) 11:02配信

ニュースソクラ

日経・読売は前向きに評価

 単純労働を含む外国人労働者の受け入れを拡大するため新たな在留資格「特定技能」を2019年4月に創設する出入国管理法改正案が、11月2日閣議決定された。政府・与党は開会中の臨時国会での成立を目指し、早速国会で論戦が始まっている。安倍晋三首相は「移民政策はとらない」と繰り返しているが、野党は「実質的な移民政策への転換」などと批判を強めており、今国会最大の対決法案になる。主要紙の論調も分裂しているが、与党内の反対論を反映して、日ごろの安倍政権への距離感とは異なるものになっている。

 今回の改正は、介護、農業、建設など多くの分野の深刻な人手不足を受け、単純労働を含む分野に外国人の受け入れ拡大が柱で、就労目的の在留資格を医師や大学教授など「高度な専門人材」に限ってきた従来政策からの大転換になる。

 具体的には、一定の日本語力や技能を身につけている「特定技能1号」と、より高い能力を持つ「特定技能2号」の2つの在留資格を新設。技能実習生(最長5年)制度も存続し、技能実習から1号と進むと最長10年働くことができる。熟練者を想定する2号は定期的な審査を経て更新していけば永住に道が開けるので、「実質的移民」と指摘される。

 受け入れ業種は、14業種が検討の対象になっているが、法相が各分野の所管閣僚と協議して定めるとして、法律には明記しない。人手不足が解消された場合受け入れ停止の措置を講じる。受け入れ人数に上限を設けないが、初年度受け入れは4万人程度との試算がある。また、従来、5業種で2025年に50万人超の受け入れとしていたのが、業種の拡大でさらに膨らむはずだ。

 外国人の受け入れ態勢整備のため、法務省入国管理局を「出入国在留管理庁」に格上げし、支援や受け入れは「登録支援機関」(業界団体や弁護士などを想定)が担う。

 この間、野党が国会で政府を追及する一方、自民党の法務部会が「激論を経て了承」(日経10月30日朝刊)するなど与党内にも反対が根強い。安倍政権は「移民政策はとらない」と言い続けているが、与野党を問わず反対・慎重論として「事実上の移民政策ではないか」という疑問が共通している。ただ、与党と野党では、反対論でも論旨は違うことに、注意が必要だ。

 自民党で反対論を展開しているのは「保守派」と呼ばれる右派議員が中心で、本来は安倍首相に一番近い人たち。特に、特定技能2号が事実上、移民になる恐れがあるとして、治安面の懸念なども含め、資格取得の厳格化などを強く求め、また、今も「法案を了承していない」と言い切る議員もいる。

 他方、野党は制度の大転換にもかかわらず、国民的な議論不足という「拙速批判」に加え、現状でも劣悪な労働条件で働かされる技能実習生が多い中での制度拡張を疑問視。実習生から特定技能1号へ最長10年家族の帯同が認められないことを人道面から問題にする。総じて、「共生」の観点を含め、なし崩しでなく、受け入れ条件をきちんと整備する必要を指摘する声が強い。

 主要紙の社説(産経は「主張」)を比較しよう。東京を除く各紙はこの間、2回以上取り上げているが、経済界の意向を反映して一番積極的なのが日経だ。<人口減少下で日本が成長するには外国人材の積極的な受け入れが不可欠だ>(11月3日、https://www.nikkei.com/article/DGXKZO37331270T01C18A1EA1000/))などと必要性を強調し、具体的な制度設計で留意すべき点やポイントなどを列挙。特に、資格取得のための能力基準の明確化を重視し、<新しい在留資格を取得するための日本語能力と技能の試験を整え、合格基準を明確にしなくてはならない>(10月18日、(https://www.nikkei.com/article/DGXKZO36619070Y8A011C1EA1000/))と注文している。
 読売も日経に比較的近く、1<本来は就労目的ではない在留資格の外国人に、単純労働を担わせてきた現状を改善する。その意味でも、新たな在留資格を設けることには意義があるだろう>(10月17日、https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20181016-OYT1T50130.html)と評価する。
これに対し、安倍政権支持が目立つ産経が、この問題では反対に舵を切った。10月15日(https://www.sankei.com/column/news/181015/clm1810150001-n1.html)に、<首相は移民政策を否定しているが、極めて近い仕組みと言わざるを得ない。……外国人の大量受け入れについて世論は二分しており、拙速に進めては禍根を残す>として問題点を列挙。その中で、他紙と違うのが「日本社会の変質」への懸念の強さだ。<(永住者が)さらに増えてくれば地方参政権を求める声も高まるだろう。これを認めれば、人口が激減する地域で永住者の方が多くなる危うさもはらむ。こうした将来的に起こりうる課題について、政府の議論はまったく聞こえてこない>と断じる。

 さらに、法案決定当日の11月2日(https://www.sankei.com/column/news/181102/clm1811020001-n1.html)には、反対を明確にする。<なぜそんなに急ぐ必要があるのか。態勢を整えないまま踏み切れば社会に混乱が起き、将来に禍根を残そう。与党にも慎重な意見は多い。この内容では国会審議に耐えられない>と切り捨て、<移民を受け入れる多くの国が社会の分断や治安の悪化に苦しんでいる現実もある。制度に抜け道やあいまいさを残したまま、「社会実験」を行うようなまねは許されない>と、強くけん制している。

 産経の論調は、自民党保守派・右派と歩調を合わせ、治安悪化への懸念などを背景に「いかに管理するか」という視点が強い。

 他方、朝日、毎日、東京は、法案を強く批判するが、論旨は産経とは異なる。人手不足対策を急ぐあまり、受け入れ環境整備が不十分で、制度の中身の詰めも甘いという主張だ。

 全体としての評価は、<改正案には不透明な部分が多い>(毎日11月3日、https://mainichi.jp/articles/20181103/ddm/005/070/048000c)、<見切り発車とはまさにこのことだ>(朝日11月3日、https://digital.asahi.com/articles/DA3S13752520.html?ref=editorial_backnumber)など、手厳しい。

 3紙が特に問題視するのは、現状の実習生の労働条件が劣悪なこと、新制度がこれを改善する道筋が不透明なことだ。<技能実習生については、長時間労働や違法に低い賃金を告発する声が絶えない。……入ってくるのは「労働力」という生産要素ではなく、生身の人間だ>(毎日11月3日)という当たり前のことを改めて指摘し、<外国人に頼らなければ、もはやこの国は成り立たない。その認識の下、同じ社会でともに生活する仲間として外国人を受け入れ、遇するべきだ>(朝日10月29日、https://digital.asahi.com/articles/DA3S13744799.html?ref=editorial_backnumber)、<日本でともに働き、暮らす仲間を快く迎えられる環境づくりがまず必要だ>(東京10月29日、http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018102902000141.html)と訴える。

 具体的には、政府が「移民ではない」と謳っているためもあって家族帯同の条件が厳しいことを<人権保障の観点から大問題である>(東京)と批判。<受け入れに伴う支援策は本来、セットで審議するのが当然なのに……検討が追いついていない。……日本語教育や医療、生活相談など外国人が安心して日本で暮らせる態勢の整備は、その人びとに頼る日本が公的に支払うべきコストである>(毎日11月3日)と指摘する。

 3紙に限らず、与党内や国会などの議論で問題点が次々に明らかになり、拙速さが目立ってきつつあるのを受け、各紙の論調は日に日に厳しさを増している感がある。産経は、すでに書いたように10月15日には反対までは踏み込まなかったが、11月2日には反対を鮮明にした。基本的に法案支持の読売も、11月3日(https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20181103-OYT1T50009.html)には<国民の不安解消に向け、丁寧な説明が求められる><(人手不足が解消されたときの受け入れ停止などの)措置だけで、「移民政策」と異なると言えるのか。十分な議論が欠かせない>など、厳しめにくぎを刺す。

 今国会で成立するか、また、最終的にどのような制度に仕上がるかは見通せない。<社会の同質性が強い日本で今すぐ結論を出すのは性急かもしれない>(毎日11月3日)としても、今後、大きな流れとして外国人が増えて行くことは疑いない。

 それを、いかに受け止めるかを考える時、<外国人労働者は、消費者でもあり、納税者でもある。異なる文化や価値観はしばしば摩擦を引き起こすが、一方で、気づかなかったことを気づかせ、社会をより豊かで多彩なものに変える契機をもたらすだろう>(朝日10月29日)という方向性の理解は必須だ。そして、<技能実習生の例があるように、外国人をまるで使い捨て感覚で雇用すれば、国際社会から「奴隷的」と烙印(らくいん)を押されるだろう>(東京10月29日)との警告も肝に銘じるべきだろう。

長谷川 量一 (ジャーナリスト)

最終更新:2018/11/19(月) 11:02
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