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常に変化し続ける、それが旭化成

11/21(水) 15:00配信

ニュースソクラ

「わが経営を語る」 小堀秀毅旭化成社長(4)

 ――新しい事業は、若い人たちにとってやりがいがあるでしょうね。

 若い人間にも、権限がある程度任されますからね。伝統のある事業では、どうしても先輩の教えを受けて、先輩から仕事を譲り受ける形になります。

 新事業なら、若くても自ら責任を持って、未知の領域を開拓していくわけです。好奇心を持ってチャレンジする機会がいくらでもあります。

 ――一方、撤退する事業に携わる従業員の士気はどう維持するのですか。

 撤退する仕事は極めて難しいことなんです。だから「撤退」も大切なミッションとして明示して、やり遂げてくれたら、それにふさわしい評価をしなければいけません。

 お前たちはどうせ止めていく事業をやっているのだから、適当にやっていればいいでは、モチベーションを損ないます。

 いろんな経験をした方が、人間的な面を高めるうえで役立ちます。華々しい仕事だけでなくて、泥臭い厳しい仕事を経験した人間は重要だと思います。

 ――会社の大きな目標を共有できるかどうかも鍵ですね。旭化成の求心力の核となるアイデンティティーは何ですか。

 ベースにあるのは企業理念です。「世界の人びとの[いのち]と[くらし]に貢献します」であり、「健康で快適な生活」や「環境との共生」に貢献するというビジョンがあります。

 またグループのバリューとしては「誠実、挑戦、創造」です。特に私が盛んに言っているのは、「挑戦」「チャレンジ」です。新しいこと、変化することにチャレンジしようと常に社内に発信しています。

 私は3つのCを実行してくれとも言っています。まずコンプライアンス、そしてコミュニケーション、チャレンジです。

 グループのスローガンは「昨日まで世界になかったものを」です。この「クリエイティング・フォ―・ツモロー」を、海外の企業を買収する時、相手に旭化成の考え方はこれだと話すと、「魅力的だ」と非常に受けがいい。常に変化し続けることが、旭化成のアイデンティティーです。

 ――昔、長期政権だった宮崎輝さんというカリスマ経営者が求心力でしたね。

 だけど旭化成は企業文化で、すべて「さん」づけで、「社長」なんて呼ぶ人はいません。

 当時も従業員はみんな「今日、宮崎さんに呼ばれたよ」という具合です。官僚的、階層的カルチャーの非常に薄い会社だから、現場の提案が通るのです。

 ――小堀さんはこれから社長を10年、20年と続けて、宮崎さんを超えますか。

 いやいや、リーダーシップは重要でしょうが、そこまではとてもとても。(笑)

 ――今はリーダーシップのあり方も変わったのかもしれませんね。

 変化が激しいので、1人の人間がすべてを判断して、引っ張っていけるような時代ではないでしょう。今、宮崎さんのような(ワンマン型の)リーダーシップでは、たぶん世の中の変化についていけないと思います。

 うちのように事業が広い分野にわたる場合は、経営陣が集団でチームになって引っ張る方が適しています。

 ――その中で社長はどのような役割を担うのですか。

 将来のメガトレンドをとらえて、長期的な構想に基づく施策をしっかり実行する。それとともに、足元の課題を解決しながら、我々がつくった中計の中短期の目標を実現する。この2つをトップとして着実にやっていくことです。

 これを1人ではなかなかできませんから、分担してチームでやっていくのです。旭化成の考え方や企業文化を次の経営陣に引き継いでいくのも仕事です。

 ――チームで経営するのは、難しさもありますが。

 オレのところは儲かっているのだからオレに任せておけ、気に入った奴だけ引き上げるという人が増えると難しいですね。下が上を見て仕事をするようになって、時代の変化に対応できなくなります。

 我々経営会議のメンバーはコーチングを受けています。私は、20何人かの直属の役員に、私への意見を出させています。私の発信はわかりやすいか、私にもっとどういうことを求めたいか、コンサルタントを介して意見を吸い上げています。

 これによって言い方をこう変えた方がいいのかなどの気付きがあります。同じことを徐々に下におろしてやっています。みんながそういう気付きを経験することが極めて重要です。

 ――なぜ始めたのですか。

 風通しをよくして、次を担う経営人材を育てる狙いもあります。与えられた仕事の最適化は誰でもやります。しかし広い視野を持って周りと学び合いながら、会社をもっとよくしようとする人材を増やしたいのです。

 ――3年前に子会社旭化成建材の杭打ちデータの改ざんが発覚して大問題になりましたが。

 出先の現場で施工する事業なので、タコツボになっていたんです。グループ内には「そんな事業をやっていたの」と言う人もいたほどで、よく見えていませんでした。

 当時、住宅部門は集合住宅関係で機会損失があり、大きな痛みを経験しました。しかし企業が社会の中で存続していくためには、何が大切かグループの全員が改めて理解する教訓になったと思います。

 ――惰性で仕事をしていると、組織はサビついて、おかしなことが起きてきますね。

 やはり従業員が生き生きとやりがいを持って働けるように、人事制度、人事施策を時機を逸せず改革することが重要です。

 10年前につくった役割等級制度を1年くらい前から見直しています。人事に関する制度、施策も、時代遅れにならないようにどんどん変えていきます。

■聞き手 森 一夫(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:11/21(水) 15:00
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