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【木内前日銀政策委員の経済コラム(29)】 市場乱調の裏に、米国の財政赤字の急拡大

11/26(月) 14:03配信

ニュースソクラ

蘇る双子の赤字、トランプは市場の警告を無視しているが

 世界の株式市場は不安定な動きを続けているが、米国の双子の赤字問題に原因の一つがあるのではないか。80年代に注目を集めた双子の赤字問題が、再びよみがえってきた。

 2018年度の米連邦政府の財政収支は-7,790億ドルと、2012年度以来の赤字額を記録した。昨年末に実施された10年間で1.5兆ドルの巨額の減税措置や、インフラ投資、軍事関連などでの歳出拡大といった拡張的な財政政策が、急速な赤字拡大の背景にある。

 議会予算局(CBO)の見通しによれば、2022年度頃には赤字額のGDP比率は5%に達する見込みだ。第2次世界大戦後に、米国で連邦財政赤字額のGDP比が5%を超えた局面は2回しかないが、いずれも景気後退直後に税収が一時的に大きく落ち込んだ時期に限られる。この事実は、トランプ政権が、いかに大規模な財政拡張策を実施しているかを裏付けているだろう。

 他方、IMF(国際通貨基金)の見通しでは、米国の経常赤字のGDP比率は、2018年に3.0%の後、2019年には3.4%だ。これは、双子の赤字問題を背景に株価の暴落(ブラックマンデー)が生じた1987年と同じ水準だ。米国経済が需給ひっ迫傾向を徐々に強めるなかで、政府が財政拡張策を進め需要を増加させれば、国内での供給がそれに追いつかずに、輸入増加で超過需要が賄われる。その結果、経常赤字が拡大してしまうのは自然なことだ。

▽双子の赤字問題が金融市場を不安定に

 足もとでは、米国の長期金利が緩やかな上昇傾向を見せている。財政赤字が拡大し、米国国債の発行が加速する見通しが強まっていることが背景にある。10月に長期金利上昇をきっかけに株価の大幅な下落が生じた際に、トランプ大統領は、それは金融引き締め策のせいだとしてFRB(米連邦準備制度理事会)への批判を強めた。

 しかし、本当に政策の修正が必要なのは、財政収支と対外収支の同時悪化、つまり双子の赤字という構造問題を生み出している政府の財政拡張策だ。しかし、トランプ大統領は、米国の貿易赤字の拡大は、貿易相手国の不公正な貿易慣行や不当な通貨切り下げによってもたらされているとし、財政赤字削減に真剣に取り組む様子はない。

▽活かされないブラックマンデーの経験

 金融市場の動揺に促され、米国政府が双子の赤字問題の解決に真剣に取り組んだ時期もあった。1980年代のレーガン政権第1期には、大型減税政策とドル高政策が双子の赤字を招き、長期金利上昇や1987年10月の株価暴落(ブラックマンデー)を生じさせた。

 それは誤った経済政策に対する一種の市場の警鐘であったといえる。長期金利の上昇は住宅ローンの負担を高め、また株価下落は資産を目減りさせるなど、米国民に大きな痛みをもたらした。

 その結果、健全な財政政策運営の重要性についての国民の意識が高まり、レーガン政権はその第2期目で、財政健全化策を実施した。金融市場が政府に健全な政策運営を促し、政府もそれに応えたのだ。

 それを受け、米国の双子の赤字は縮小へと向かい、ドルの安定と長期金利の落ち着きをもたらした。それらが、1990年代以降の米国経済の繁栄の礎となったのである。

 しかし、レーガン政権の第2期目とは異なり、株価大幅下落といった市場の警鐘に、トランプ政権は耳を貸さない。貿易赤字の原因を貿易相手国に求めるだけで、国内で過剰な需要を作り出している財政政策を修正しなければ、双子の赤字問題はさらに深刻になるだろう。

 それはドルの信認を低下させ、また、海外から米国への資金流入を鈍化させ、米国の長期金利を押し上げるだろう。その結果、住宅、自動車など長期金利に敏感な部門を中心に、景気抑制効果が高まるだろう。それとともに、世界規模での金融市場の動揺を何度も繰り返すことにつながるのではないか。

■木内 登英(前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)
1987年野村総研入社、ドイツ、米国勤務を経て、野村證券経済調査部長兼チーフエコノミスト。2012年日銀政策委員会審議委員。2017年7月現職。

最終更新:11/26(月) 14:03
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