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【舛添要一の僭越ですが】 ゴーン氏とマクロン仏大統領の間に密約か

11/27(火) 13:02配信

ニュースソクラ

ゴーン逮捕劇で、「社会主義」フランスを痛感

 社会主義思想の元祖は、マルクスではなく、サン・シモン(1760~1825)である。伯爵の称号を持つフランスの貴族だ。

 若い頃、私はフランスで研究生活を送ったが、フランスの政治家や有識者は「社会主義を実現したのはフランスだ」と私によく話したものである。

 14日に日産のカルロス・ゴーン会長が東京地検に逮捕されたが、その裏にはフランス政府の動きが見え、留学時代を思い出して、やはりフランスは社会主義の国だと痛感したものである。

 今回の逮捕劇について、日本や世界のメディアは、役員報酬の過少記載や会社に提供させた住居などのゴーン会長の不正行為について詳細に報じている。しかし、その背後にあるフランス政府の狙い、マクロン大統領とゴーン会長の確執、日産とルノーの力関係などの要因については、あまり掘り下げた分析はしていない。

 そこで、フランスとはどういう国か、政府と企業の関係はどうなっているのか、社会主義の国と私が言う理由は何かなどについて解説したい。それが、実は日産の内部告発という「クーデター」の背景を理解することにつながるからである。

 私は、日本とフランスとアメリカを自分の体験も含めて比較するが、日仏は伝統文化の国であるのみならず、「お上が強く、官尊民卑」、「大きな政府」で社会保障も充実している点でよく似ている。アメリカは新興国で、民間の活力を尊重する国で、「小さな政府」であり、公的な健康保険なども整備されていない。これらの観点からは、私にはアメリカはフランスよりも遙かに異質な国に見える。

 ルノーは、ナチス占領下にドイツに協力したかどで、第二次大戦後、ドゴール将軍によって国有化され、ルノー公団となった。しかし、国営企業となっても業績は上がり、20年にわたって公団総裁の座にあったピエール・ドレフュス氏は『成功した国有化:ルノー(Une nationalization reussie)』(Fayard,1981年)という本の中で、「国有化は成功したのみならず、これから世界のモデルとなるものである」と書いている。

 これがフランス人の認識であり、ルノー公団は1990年には株式会社になるが、フランス政府が筆頭株主であり続けている。フランス国鉄(SNCF)も日本のようには民営化されていない。また、エールフランスもKLMオランダ航空と経営統合して持株会社を作ったが、かつては国営企業であったし、今でもフランス政府が支配権を握っている。その他、多くの企業でフランス政府が主要株主であり、まさに社会主義的な国だということがよく分かる。

 また、労働組合が強いことも、日本と違う社会主義的な面である。マクロン政権の前は、社会党のオランド政権であり、何よりも雇用の安定を優先させた。2012年にフランス北東部の町フロランジュで、アルセロール・ミタル鉄鋼会社が高炉の閉鎖し、大量の解雇者を出した。

 そのようなことを繰り返さないために、2014年にオランド政権は「フロランジュ法」を制定した。その要点は、
(1)工場などを閉鎖するときには、事前に売却先を探すことを義務づける
(2)株式を2年以上保有する株主に2倍の議決権をあたえる、の二点である。

 ただ、(2)については、株主の3分の2が反対すれば適用されないが、フランス政府が大株主の場合は、株式を買い増して、3分の2を阻止するようにすることが多い。

 この法律は、国内産業を保護し、雇用を守ろうとする目的で制定されたものである。オランド政権下で、この法律を適用してルノーと日産を経営統合させようとしたのが、当時のマクロン経産大臣であった。

 それは、社会党政権の最優先政策である雇用の確保を実現させるためであった。当時は、フランス政府は約20%のルノー株を保有しており、2倍の議決権を行使できる可能性があったのである。

 しかし、日産を代表してゴーン会長が抵抗したため、マクロンの目論見は失敗し、2016年末にはフランス政府が日産の経営に介入しないことで合意している。

 ところが、翌2017年5月の大統領選でマクロンが当選したため、反目し合ってきたゴーンの退陣は必至だと見られていた。しかし、2018年2月の人事で、ゴーンの続投が決まった。

 その裏にはマクロン・ゴーンの密約があったのではないかという観測もある。ルノーは日産の43.4%の株を持ち、議決権もあるが、日産はルノーの15%の株式しか持っておらず、議決権もない。しかし、利益の半分以上は日産のほうが生みだしているという歪な関係になっている。

 マクロン大統領が、日産とルノーの経営統合を実現させ、完全にフランス政府の傘下に置くことを狙ったとしても不思議ではない。ゴーン会長が、続投を条件にマクロン案を飲んだのではないかと推測されるのである。実際、BBCやファイナンシャルタイムズは、ゴーン会長が両社の経営統合を計画していたと報じている。

 これに対して、危機感を持った日産の幹部たちが、役員報酬過少記載、会社資金の私的流用などの不正を理由に追放クーデターを敢行したと考えてもよい。東京地検との司法取引は、情報を管理し、事前のリークを防ぐためにも有効であった。

 さらに付け加えれば、ゴーン会長の高額報酬については、マクロン大統領は大臣時代から批判的であった。まさに、アメリカと違う「社会主義の国」フランスである。役員報酬の過少記載は、フランス政府からの批判をかわすための方策でもあったと考えることもできよう。

 今後の展開は、東京地検特捜部の捜査に待つしかないが、以上説明してきたようなフランス政府の意向についても理解しておくことが肝要である。

舛添 要一 (国際政治学者)

最終更新:11/27(火) 13:02
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