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「クレーム恐れないで」ANA初の65歳定年退職CA、涙の“卒業式”

11/28(水) 0:24配信

Aviation Wire

 全日本空輸(ANA/NH)の客室乗務員として初めて定年の65歳まで勤め上げ、乗務を終了した客室乗務員の大宅邦子さん(65)に対し、ANAは11月27日、これまでの乗務時間を証明する「滞空証明書」を授与した。滞空証明書は退職時にもらう“卒業証書”のようなもので、大宅さんは44年10カ月のCA人生を卒業した。

◆「人生は仕事から学んだ」

 大宅さんは、20日のロンドン発羽田行きNH212便(ボーイング777-300ER型機、登録番号JA786A)で乗務を終了。27日は、羽田空港のオフィスに私服のまま出社し、多くの同僚が見守る中、ANAの山本ひとみ客室センター長から滞空証明書を受け取った。大宅さんの総飛行時間は、3万750時間29分だった。

 ANAが客室乗務員の定年を65歳に引き上げたのは、2006年4月1日。大宅さんは65歳制となって初の定年退職者となった。大宅さんが入社した当時は、30歳だったという。総飛行時間を振り返った大宅さんは「継続していたから、そこまでできたのかな、という感じです。そんなに長くは感じないですね」と話し、「まだできますからね」と笑った。

 詰めかけた同僚たちには「人との距離の取り方、言葉の選び方・使い方など、人生に必要なことは、すべて仕事から学びました」と謝辞を述べた。120歳まで生きることを目標とする大宅さんは、今後について「本をしっかり読んで、体を鍛え、健康な体を保って、周りに迷惑をかけないように生きていきたい」と話すと、拍手が起きた。

 大宅さんは滞空証明書のほか、後輩たちからのメッセージや、イラストが得意な同僚CAが制作した、大宅さんに起きた出来事のマンガなども受け取った。オフィス内では、目元を拭う姿が多く見られた。

 オフィスでの授与式後、多くの同僚が大宅さんとの記念撮影を楽しんだ。同僚たちは、涙で大宅さんの門出を祝った。

◆搭乗客との交流楽しむ

 大宅さんは1974年2月5日入社。同年4月から乗務を開始してから、長い間、第一線で活躍してきた。乗務中に印象に残ったことを尋ねると、搭乗客との文通や交流などを楽しんでいるエピソードを紹介してくれた。

 10年以上前に当時小学5年生だった女の子が、両親と3人で成田発シカゴ行きに搭乗した。親子はファーストクラスを利用。そのときはクリスマスで、業務渡航の乗客が少なかったため、ファーストには親子3人しかいなかった。

 親子を接客した大宅さんは、「自分自身がイヤなので」という理由から、女の子を大人と同じ扱いで接客。後日、女の子の父親から「自分(女の子)をひとりの人として認めてくれて、サービスしてくれたことに感激した」という内容の手紙を受け取った。女の子は大宅さんの仕事ぶりを見て、自分自身の進路を決断したという。女の子とはそれ以来、文通が続いているのだそうだ。

 女の子は今年、大学を卒業した。今はどうしているのか。大宅さんは「うち(ANA)に入ってこられるのかな、と思っていたけど、出版社に入社してしまいました」と笑いながら話してくれた。

 また、20年以上前にウィーン発成田行きのビジネスクラスで接客した女性客とは、文通のほか、一緒に食事をするなどの交流が、現在も続く。「真っ暗なビジネスクラスで、空になったグラスを下げようとしたときに、お客さまからお声をかけられました」と話す大宅さんは、「当時は空いていたこともあり、このまま2、3時間話し込んでしまいました」とおどけた。

 機内で知り合った遠方客とは、互いに名産品を送り合う。所沢在住の利用客からは茶葉を、岡山の人からはマスカットをもらい、千葉在住の大宅さんは、名産の落花生をプレゼントするという。

◆クレームは「あなたなら大丈夫」

 およそ45年のCA人生を「大変だったことは、あまりなかったですね」と振り返った大宅さんだったが、利用客からのクレームを2回ほど受けたことがあったという。「力が及ばなかった結果なので、クレームを受けることは嫌ではありません」と話し、「改善する見込みがなければ言われません。お客さまは『あなただったら大丈夫だ』と思って話してくださります」と、クレームを前向きなものととらえている。

 後輩たちには「クレームは恐れないでください」とメッセージを送り、「命は取られないです」と穏やかな口調で語った。

 また、あいさつも重要だという。「きちんと発声していないと、お客さまの前でも声が出てこないものです」と話し、「出社したら、大きな声であいさつしてください」と重要性を説いた。

 今後、CAを目指す人々には、「重労働ですよ」と華やかな業界の裏にある“本当の顔”を紹介。「健康体でないと、何もできません。健康には食生活が大切です」と話す大宅さんは、イモの煮っころがしやヒジキの煮物など、日本の昔の食事を好む。特に味噌汁にはこだわっていて、出汁をきちんと取って作るのだそうだ。

 乗務終了後に、制服は会社に返却した。「時間は進んでいくものですから、寂しくはないです」と話す大宅さんだったが、もう一度着てもよいと許可が出たら、と問われると、「もちろん着ます」と即答。「体は鍛えていますから」と話した大宅さんは、涙を浮かべながら、働き慣れた職場を後にした。

Yusuke KOHASE

最終更新:11/28(水) 0:24
Aviation Wire

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