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“異端ルーキー”山本博志四段 三間飛車の使い手「通用しなかったら死ぬだけだ」

12/4(火) 16:03配信

スポーツ報知

 戦国時代の将棋界に、独特の武器を手にして打って出るルーキーがいる。今月、デビュー戦を迎える予定の山本博志四段(22)は、現代将棋では少数派となった「三間飛車」の使い手。棋士人生の出発を前に「三間飛車は頼れる相棒。三間飛車に懸けて生きていきたい」と力強く語る。

 まだ公式戦の盤上で一手も指していない山本は、遠い旅に出る前の高揚を隠さなかった。「もちろん不安はありますけど、楽しみが大きいです。自分の棋譜を見ていただけることは一番うれしいことです。いよいよ始まるんだな、という気持ちですね」。ニコニコの笑顔で勝負の時を待っている。

 普通の新人と異なる個性を持っている。振り飛車のひとつ「三間飛車」を主力戦法にする。165人いる棋士のうち8割は居飛車党。羽生善治竜王(48)らタイトルホルダー7人のうち6人、藤井聡太七段(16)も居飛車党だ。少数派で減少傾向にもある振り飛車党。中でも、三間飛車のみを主力としているのは中田功七段(51)、小倉久史七段(50)くらいしかいない。

 現代将棋の潮流からは異端とも言えるが、山本は力強く語る。「三間飛車に懸けて生きてきました。困った時に『俺には三間飛車がある』と思えるような頼れる相棒です。三段リーグも、一か八かで使い続けました。通用しなかったら死ぬだけだと。でも四段になれたことで自信になった。どれだけ通用するかを見ていただけるのはうれしいです」

 小学1年の時、父親と一緒に将棋を始めた。類いまれなスピードで強くなり、自然と棋士を志すようになった。小4の時、小倉七段に弟子入り。師匠の得意戦法・三間飛車と出会い、指すようになった。「小学校の頃は『楽しい』としか思っていなかったです。思っていたのと違うぞと思ったのは奨励会に入ってからです」

 小6で棋士養成機関に。「神童」と呼ばれるような少年たちが全国から集う場所では勝てなくなった。3級から4級へ、1級から2級への降級経験もある。「2度も降級して棋士になったのは僕くらいじゃないでしょうか…。四段どころか初段にもなれないと…さっさと辞めた方がいいと思ってました」

 2度目の降級をした中3の時、師匠の家を訪ねて「辞めます」と告げた。「師匠は『どうしても辞めたいなら止めないけど、もったいないと思う』とおっしゃってくれて。自信をなくしていたので『もったいない』の言葉がなかったら、辞めてましたよね」

 そんな時、藤井猛九段(48)の将棋を研究したことが転機になった。同学年の羽生竜王らが歩む王道とは異なる道を志向し「藤井システム」「角交換振り飛車」など革新的な戦法を続々と創案した棋士だ。「こんなにカッコイイ人がいるんだって。将棋って、なんてすごいんだって思ったんです」。決意したのは三間飛車にこだわり、磨きをかけること。すると、不思議と勝つようになった。

 藤井聡太七段が1期だけ在籍した三段リーグでは、桂馬を端から使う奇襲戦法「トマホーク」で天才少年に完勝している。「僕には、どんな将棋でも指しこなせる藤井七段のような才能はありません。でも、自分の土俵に持ち込んで自分の力を発揮すれば勝つこともある。三間飛車なら、自分にしか思いつかない将棋を指せる時があるんです」

 夢はタイトル。「まだまだ大きなことは言えませんけど、藤井猛先生を目標にしていきたい」。山本システム、山本流―。数年後の将棋界には、新たな独創家が生まれているかもしれない。(北野 新太)

 
師匠・小倉久史七段
「一番弟子ですので四段になってくれてうれしいですし、正直ホッとしています。去年、一緒に三間飛車の本を出した時は、ここまで深く研究しているんだ、と驚きました。三間飛車は特殊な指し方なので主力にして戦っていくことは大変なことだと思いますけど、必ず武器にもなると思うので、将来はタイトル戦に登場するような棋士になってほしいですね。でもまあ…本心から言うと、今のタイトルホルダーは居飛車党が多いので、いろんな指し方を覚えてほしいという思いもありますよ」


 ◆三間飛車(さんけんびしゃ) 将棋の戦法は飛車を初型の位置のまま戦い始める「居飛車」と、初型の位置から左側に動かしてから戦い始める「振り飛車」に大きく二分される。好んで採用する側の人を「居飛車党」「振り飛車党」と称する。振り飛車のひとつに分類される「三間飛車」は飛車を左から3列目の7筋に振る戦法。他にも、左から4列目の6筋に振る「四間飛車」、中央5筋に振る「中飛車」、左から2列目の8筋に振る「向かい飛車」がある。居飛車に分類され、右から4列目の4筋に振る「右四間飛車」もある。

 
◆山本 博志(やまもと・ひろし)
 1996年8月13日、東京都江東区生まれ。22歳。小倉久史七段門下。2008年、棋士養成機関「奨励会」入会。15年、三段昇段。今年9月、三段リーグで通算13勝5敗の成績を残し、四段(棋士)昇段。奨励会三段時代の17年、小倉七段との共著「三間飛車新時代」を出版。趣味はカラオケ。家族は両親と妹。

最終更新:12/4(火) 21:53
スポーツ報知

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