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スタートアップが生き残るに必要不可欠な知財戦略とは

12/6(木) 6:00配信

アスキー

ASCII STARTUPは11月26日、スタートアップと知財関係者を対象にしたセミナーイベント“「IPナレッジベース」コミュニティーイベントin東京”を、丸の内のStartup Hub Tokyoにて開催した。
ASCII STARTUPは2018年11月26日、スタートアップと知財関係者を対象にしたセミナーイベント“「IPナレッジベース」コミュニティーイベントin東京”を、丸の内のStartup Hub Tokyoにて開催した。当セミナーは、スタートアップが知財を活用するための情報提供と専門家とのネットワーク、コミュニティーづくりを目的としたもの。登壇者に、経済産業省特許庁 企画調査課 課長補佐の貝沼憲司氏、株式会社リクポ代表取締役 CEO 木崎智之氏、IPTech特許業務法人 代表弁理士・公認会計士の安高史朗氏の3名を迎え、スタートアップが知っておくべき知財戦略をテーマに、セッションとパネルディスカッションを行なった。
 独自のサービス、製品の価値やブランドを守るために必要なのが、特許や商標といった知的財産権だ。こうした知的財産は、スタートアップにとって、自社技術を守るだけでなく、オープンイノベーションや資金調達の武器にもなり、とくに世界展開には欠かせないものだ。経済産業省特許庁では、スタートアップの知財意識を促進すべく、情報提供や専門家とのネットワーキングなどの活動を行なっている。
 
知財コンテンツ、早期審査、知財アクセラレーションプログラム、海外展開などの支援策
 第1部のセッションは、経済産業省特許庁 企画調査課課長補佐 貝沼憲司氏より、スタートアップの知財戦略の状況と特許庁のスタートアップ支援施策について紹介した。
 

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 ゼロからスタートするスタートアップが持つ唯一の武器は、斬新な技術とアイデアだ。つまり、スタートアップにとっての企業価値≒知財ともいえる。スタートアップが生き残るには、自社の技術やアイデアを守り、他社と差別化することは欠かせない。
 
 知財によって得られる価値は、独占、連携、信用の3つ。事業の差別化や模倣の防止による独占、事業連携などオープンイノベーションの連携ツール、資金調達や事業評価の際の信用の証になる。
 
 アメリカや中国の注目スタートアップは知財への意識が高く、創業当初から知財戦略に邁進している。しかし、日本のスタートアップの知財への関心は、全業界平均で2割、IT業界では1割弱と意識が低いのが課題だ。
 
 特許庁では、スタートアップ支援施策として、2018年7月に「ベンチャー支援チーム」を設置し、知財コンテンツの提供、審査の早期化、知財アクセラレーションプログラム(IPAS)の実施、海外展開支援――などの施策を進めている。
 
 知財コンテンツとしては、国内外ベンチャー企業の知的財産戦略事例集「IP Strategies for Startups」、オープンイノベーションのための知財ベストプラクティス集「IP Open Innovation」、知的財産デュー・デリジェンスの標準手順書「SKIPDD」の3冊のPDFを特許庁のウェブサイトにて配布し、セミナーやイベントでも3冊をまとめたパンフレットを提供している。
 
 審査の早期化では、スタートアップ向けに通常よりもスピーディーに特許権を取得できる「スーパー早期審査」、「面接活用早期審査」を用意。通常審査は出願から権利化まで約14.1ヵ月かかるが、「スーパー早期審査」を利用すれば約2.5ヵ月で権利化が可能だ。貝沼氏のおすすめは、「面接活用早期審査」。審査官との事前面談で、出願の内容、意義、事業戦略上の位置づけなどを相談することで、質の良い特許権をスピーディーに取得できる。さらに、スタートアップは特許料などの費用を3分の1に減額するといった減免制度も用意する。
 
 「知財アクセラレーションプログラム」では、8月30日に支援先企業10社を採択。知財やベンチャービジネスの専門家による知財メンタリングチームを組成し、採択企業への支援を行なっており、IPAS特設ウェブサイトにて、採択企業以外にも情報共有している。3月には、支援内容を一般化した支援モデルとして公表する予定とのこと。
 
 海外展開を目指すスタートアップには「Jetro Innovation Program : JIP(日本発知財活用ビジネス化支援)」を実施。今年度はシリコンバレー、深セン、ベルリン、ASEAN(インドネシア、マレーシア、タイ)の6地域を対象に、日本で集中研修「BootCamp」を実施した上で、海外展示会やピッチイベント等によるビジネスマッチング機会の提供している。
 
 特許庁では、スタートアップと弁理士など専門家とのネットワークの機会を提供するため、月1~2回のペースでセミナーやイベントを全国で開催している。また、スタートアップを適切に評価・支援するための投資家向けの手引書を作成しており、早ければ年度末に公表する予定だ。
 
 第2部のパネルディスカッションでは、サロン予約アプリ「リクポ」を運営する株式会社リクポ代表取締役社長の木崎智之氏、IT系のスタートアップを中心に活動するIPTech特許業務法人 代表弁理士・公認会計士の安高史朗氏が、リクポでの特許取得の事例を交えつつ、特許や商標をとるメリットや注意点について語った。
 
起業の際に、知財で気を付けていたこと。気を付けるべきだったこと
木崎氏(以下、敬称略):「起業家はプロダクトが完成したらすぐにローンチしてユーザーの声を反映してどんどんプロダクト改善を行いたい。しかし、特許を取得するまでは公にすることはできないため、出願するタイミングが重要になります。リクポでは、プロトタイプを作った段階で安高さんに相談しました」
 
安高氏(以下、敬称略):「スタートアップは、スピード感が大事なので、完成したらすぐにローンチしたくなる。しかし、リリースするタイミングがいちばん特許をとりやすい。出願から完了まで2ヵ月くらいかかるので、余裕をもってご相談してもらえるといい」
 
木崎:「相談、出願、権利化までの期間を逆算し、ローンチのタイミングをずらさずに済むように、開発と特許の2つのタイムスケジュールを組んで進めていました」
 
安高:「特許も重要だが、商標も必ず取っておいてほしい。ローンチ前に商標を取っておかないと、他社の商標登録とサービス名が重複した場合、あとから変更しなくてはならなくなるので要注意。そのような問題が生じた場合は、お金も時間もかかってしまいます」
 
木崎:「せっかくプレスリリースで認知してもらっても、サービス名が変わってしまうと、ユーザーにもう一度サービス名を覚えてもらう必要があるため、機会損失となってしまいます。自分自身で出願することもできますが、スタートアップは時間が貴重なリソース。専門家に頼むことで、時間を大幅に削減することができます」
 
知財に関心をもったきっかけは?
木崎:「最初に知的財産権に興味を持ったのは、小学生の授業。大学在学中に起業を考えたときに、せっかく思いついたアイデアをほかの人に真似されたくない、という気持ちがあり、改めて調べてみました。特許は、科学技術の発明など、特別なものだと思っていましたが、ビジネスモデルでも取得できることを知り、うまく活用して“日本初のサービス”として攻めていきたい、と考えました」
 
安高:「ビジネスモデル特許は、2000年頃から話題になっているが、正確には、ビジネスモデル自体を独占する特許ではありません。あくまで、そのサービスを実現するための、サーバーの機能やソフトウェアの機能などの特許がとれる、という考え方です」
 
特許をとって、よかったこと。役立ったことは?
木崎:「大きいのは、資金調達。ベンチャーキャピタルやエンジェルから投資を受ける際に特許があることで評価されることも多いです。また、日本政策金融公庫の資本制ローン等ではで新規性があることが重視されますが、新規性において特許よりも強力なものはない。おかげで満額の融資が受けられました。もうひとつのメリットは、ブランディング。特許を取得していることで堂々と“日本初”とキャッチを付けられる。メディアにも注目されやすく、リリースを出すたびにツイッターのトレンドにあがるなど、ユーザー獲得や認知拡大にもつながっています」
 
安高:「資金調達やVC、マーケティングへの信頼力は大きい。特許が日本初のサービスだという根拠になり、VCへの説得材料に使える。特許自体が評価されてM&Aされることもある。スタートアップは、うまく特許をPRに活用していくといいだろう」
 
自社に合う弁理士を見つけるには?
木崎:「知人に紹介してもらうのが安心ですね。いい関係を築くためには、自社のビジョンやプロダクトについて理解してもらえるかどうかが大事。自社の強み、アイディアの面白さを共感してもらうことで、うまく特許に落とし込んでもらえると思います」
 
安高:「特許事務所側の立場からすると、スタートアップと大企業では対応が違います。大企業には、社内に知財部があり、ある程度の原稿がまとめられているが、スタートアップは何もないところから話を聞くことになる。そのため、大企業に慣れている事務所よりも、スタートアップを理解していている弁理士さんに依頼したほうがいい。信頼できる知人に紹介してもらうか、こうしたイベントやコミュニティーを通じて探すのもいい方法です」
 
 最後に、参加者から質疑応答が行なわれた。「外国出願はしたほうがいいのか?」という質問に対して、安高氏は、
 
 「国内の特許出願から1年以内であれば優先権が主張できるので、海外展開を予定しているのであれば、早めに外国特許もとっておくといい。ただし、費用がかかるので、本当に必要かどうか、どの国で取るべきかの見極めは難しい。すぐに海外進出を考えていないのであれば、1年間様子をみて、国際特許出願などの制度も利用しながら、具体的な海外転換の可能性が見えてきた段階で出願するのでもいいかもしれない」と回答。
 
 また、「特許権の取得、維持にはすごくコストがかかる。それに対してリターンは得られるのか。独占により、かえって市場が収縮してしまうのでは?」という質問に対しては、木崎氏が回答。
 
 「具体的な数字は出せないが、リクポの場合は、メディアの露出、資金調達で金額的には十分ペイできており、知財に投資をして良かったと考えている。また、誰かの真似ではなく、世界初のビジネスモデルのサービスを生み出している、という自覚が社内に芽生え、社員のモチベーションもあがる。採用にも効果があった」と自社の例を挙げた。
 
 日本企業はもともと知財に疎く、とくに起業したばかりの企業にとってはわかりづらいが、事業の競争力の強化・維持に知財戦略は欠かせない。特許庁のスタートアップ支援がスタートしたことで、セミナーなどを通じて、知財の情報収集や、弁理士など専門家とのネットワーキングがしやすくなっている。ASCII STARTUPでも知財セミナーやコミュニティー構築を支援するイベントを開催していく予定だ。知財戦略に関心のあるスタートアップ企業には、ぜひ参加してほしい。
 
『「IPナレッジベース」コミュニティーイベント in 福岡』12月7日開催!
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文● 松下典子 編集●ガチ鈴木/ASCII STARTUP 撮影●曽根田元

最終更新:12/11(火) 14:10
アスキー

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