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資産の15%を失っても、あなたは夜寝られますか?

2018/12/6(木) 8:01配信

ITmedia ビジネスオンライン

 日本人の投資観を探っていく連載「渋谷豊の投資の教室」。投資する人としない人で年3.5%の差がつくことを解説した第1回に続き、第2回は投資する人が必ず意識しなければいけないリスクについて考えていく。世の中の投資話は「利回りが5%です」とか「利回りは10%」とか、利回りで話されることが多い。一方で、うまい話には裏があるというとおり、高い利回りの影にはリスクが存在している。

GPIFの資産構成割合:GPIF Webページより

 我々はリスクとどう付き合い、どう考えていけばいいのか。「お金の教養」を身につけることを目指した総合マネースクール、ファイナンシャルアカデミーの渋谷豊取締役に、今回はリスクについて聞いてみた。

サイトウ: 前回は、長期投資には構造的にメリットがあるんだよ、という話でした。経済成長がだいたい給料の増え方だとすれば年平均で1.5%程度。一方で、投資したお金は5%くらいで増えていく。ただし、投資した資産は増えたり減ったりするので、長期間持ち続けることで、上下のブレが減って、だいたい期待する利回りになっていく。でも、このブレって怖いですね。

渋谷: このブレ幅のことを投資ではリスクと言います。下がることだけがリスクなのではなくて、上がったり下がったりブレることをリスクと言うんですね。

  期待収益とリスクの2つの分析をおこなうのが株式投資の基本です。ちなみに、このブレ、リスクのことは標準偏差で表わされています。例えば来年5%の期待収益が見込める投資が、ブレ、つまりリスクがプラスマイナス10%だとすると、「期待収益が+5%で標準偏差が±10%だ」ということになります。この場合、1年後の株価のリターンは、66%の確率で期待収益の5%に+10%の15%の利益が上がるか、または、5%に-10%のマイナス5%に収まることになります。

サイトウ: リスクが重要とはよく言われますが、なぜブレるといけないんですか?

渋谷: 別にブレること自体はまずくありません。例えばGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)という世界で最も多くの資金を運用する機関は、日本株は年間30%ぐらいブレるよねということを言っています。債券だと5%くらいかな。そういう数字を公にしているんです。

渋谷: 「GPIFは、このようなブレ幅というリスクをちゃんと考慮して皆さんのお金を運用してます」という証拠ともいえます。例えば、GPIFが130兆円の資産のうち、日本株を25%、米国株に25%、50%も株を持っています。そんなに株を持っていて暴落したら大丈夫? と思いますよね? 3年前に実際に暴落した時に、7.9兆円損を出したというので話題になりました。でもそれは、GPIFのとっては年間の想定したブレの範囲であり、きちんとコントロールしていますよという意味を込めて、自分たちの投資はこれくらいのリスクですよ、というのを公表しています。

 ブレること自体が悪いのではなくて、投資をした人がブレを許容できないことが問題なんです。投資を行う上ではリスクをともなうことは避けることができませんが、注射器の針を見ても怖い人と怖くない人がいるように、リスクの許容度も人によって必ず違います。だから100万円の資産が5%下がることが嫌な人、受け入れられない人がリスク5%以上の投資をしてはだめなんです。俺は50%下がっても平気だよという人は、極端に言えば50%のリスク商品に投資をしてもいいのです。

 このルールを分かっていないと、長期投資をスタートした直後に暴落があって裏切られたと投資をギブアップしてしまうんです。結果的に長期間保有していればいい成果が得られたのに、そのリスクに耐え切れずにやめてしまって、将来得るべきものを失う。残るのは損失だけ。どれくらいのブレ幅があるのか、そのリスクを知っておくことで、値動きにちゃんと向き合うことができる。そういう意味でリスクがとても重要なんです。

渋谷:  サイトウさんなら100万が50万になったらどうですか?

サイトウ: 落ち込みますね!

渋谷: そういう人は50%のリスクがある商品を買っちゃいけないわけです。私はもう慣れているので30%、50%のリスクは取れます。

サイトウ: 心の持ちようだと。

渋谷: はい。それだけのリスクをとっても、私は夜ちゃんと寝られます。でも初めて投資をする人はそれを知らないので、長期投資だから安心だと思いつつも、たまたま1年目から大きくブレて下がってしまったら、投資を止めてしまうわけです。でも原則的に経済が成長している以上は、長期間保有しておけば価値は上がるわけですからもったいないですよね。長期投資を途中で諦める人が多いのは、日本の投資リテラシーの低さだと思うので、まずはリスクを理解するのが投資の一丁目一番地です。

 投資を始める前はみんな収益があがることを期待しています。だから始めるわけです。でも、高い期待値を持っているからこそマイナスになると幻滅するじゃないですか。

 だから投資してすぐに幻滅しないように、リスクについてきちんと把握しておくことで長く投資とお付き合いできるようになります。そのためにもリスクに対する理解が必要なんです。リスクがあること自体は全く問題ありません。なぜなら人間の心がブレるように全ての物はブレますから。

サイトウ: 下がってもぐっすり寝られるためには価格を見なければいいんですか?

渋谷: いいえ、価格が想定したリスクの範ちゅうに収まっていることは、確認したほうがいいですね。

 ところで先日、トヨタとソフトバンクが戦略的提携を発表しました。両社は、お互いにいいなと思い合えるすごい力を持った会社ですね。だから提携を発表しました。ところが両者の株価の動きだけでみるとブレ幅が全く違います。自動車のキングとITのキング、共にキングであるわけですが、でもこの2社の株価の動きは全く別物で、ソフトバンクは上下の動きが激しいけれど、トヨタの株価はそこまで激しくはない。どっちが偉いか良いかではなくて、それを知ったうえで株を買っているかが大事なわけです。知らない人が、ブレ幅が大きい株はダメだと言うことがありますが、そんなことはなくて、ブレ幅の大きいほうが将来の期待の高さを表していることもあります。

サイトウ: ブレ幅が大きいと将来の期待が大きくなるんですか?

渋谷: 「安定しているね」という人だとブレ幅が少ないんですが、逆に成功する期待も失敗する可能性も両方ある「未完の大器」はブレ幅が大きいですよね。債券などは成長期待がないので価格はあまりブレないのですが、株は成長期待があるからブレるんです。

 期待をいい意味で上下に裏切る人たち、すごいこんなことやるんだ! みたいな人っていますよね。Teslaのイーロン・マスクとか。とんでもないことやって、良いことも悪いことも両方起こり得る、そういう人はブレ幅が大きくなります。トヨタだったら毎年2兆円ぐらい利益を着実に稼いでくれそうだけど、突然来年に10兆円の利益を稼ぐまではいかないんだろう。でもイーロン・マスクならもしかしたらいきなり10兆円を稼ぐかもしれないな、みたいな感じです。

 リスクは把握することがポイントで、リスクがあること自体は何の問題もありません。

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