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台湾で中国国旗を掲げる統一派 「言論の自由」当局容認 台北・田中靖人

12/6(木) 18:32配信

産経新聞

 台湾では、中国との統一を主張する政治団体が中国の国旗「五星紅旗」を掲げる場面に出くわす。世論の一部には掲揚禁止を求める声もあるが、当局は禁止は憲法が保障する「言論の自由」に反するとして掲揚を許容している。台湾で中国国旗を掲げる人々は、どのような立場で何を考えているのか。

 ■急進統一派の象徴

 台北市の再開発地区、信義区にある地上101階建て高層ビル「台北101」。外資系高級ホテルや真新しいオフィスビルを眼下に望む展望台は、観光客が多数訪れる観光スポットだ。展望台の地上入り口前で、五星紅旗を手に持った蕭勤(しょう・きん)氏(75)が自作の歌を大声で披露していた。

 「中国人の英雄たちよ、立ち上がれ。大陸(中国)は素晴らしい」

 その蕭氏に通りすがりの女性(34)が怒鳴りかかった。「台湾の何が不満なの? あなた台湾人なの?」

 蕭氏は台湾生まれではない。中国南東部・江西省出身で、1995年に香港から台湾に移住した。政治団体「中華愛国同心会」の所属員だ。同心会の張秀葉(ちょう・しょうよう)秘書長(58)によると、同会に所属する数百人の大半が中国大陸出身者だという。張秀葉氏も上海出身で、「大陸配偶者」と呼ばれる中国人花嫁としてカナダ在住だった台湾人の夫と台湾に来た。張秀葉氏は2012年から五星紅旗を掲げる運動を始めた。

 きっかけは、中国で非合法化された気功集団「法輪功」が101前で行う、中国共産党を批判する座り込みに対抗するためだった。だが、徐々に政治的な志向を強め、同心会は今や中国との速やかな統一を主張する「急進統一派」の一つとなった。

 張秀葉氏は「今の中国共産党は民生重視で経済は好調。それに比べ台湾は二大政党の政治屋がいつわりの民主主義をもてあそび、庶民の生活は苦しい。台湾は中国と統一してこそ将来に希望が持てる」と訴える。

 張秀葉氏が来台した1990年代中頃、「アジア四小龍」筆頭格の台湾の経済は好調だった。同時に、社会は96年の総統直接選挙を前に民主化の最盛期を迎えていた。だが、その後の3度の政権交代は、張氏の目には「経済成長の阻害要因」に映ったという。

 加えて、張秀葉氏の出身背景が台湾社会への不満を増幅させた。49年の中台分断後、台湾当局は87年まで第二次国共内戦の敵である共産中国との人的交流を制限。大陸配偶者の台湾在住が認められるようになったのは、92年からだった。大陸配偶者とその親族は、終戦から中台分断前後に台湾に来た大陸出身者「外省人」と区別され、主に東南アジア出身配偶者とまとめて「新住民」と呼ばれる。現在約35万人まで増えているが、居住開始から身分証の取得まで一般的な外国籍配偶者が4年間なのに対し6年間。高学歴者は少なく、給料や社会保障などで台湾人と待遇が異なる。張秀葉氏は「私たちは台湾では二等市民だ」と憤る。

 張秀葉氏は11月の統一地方選で「中国民主進歩党」を名乗る政党から台北市議選に出馬。得票はわずか286票、得票率0・16%で、同じ選挙区の候補者19人のうち最下位で落選した。投票約2週間前の11月9日に取材に応じた張秀葉氏は「当選するとは思っていない」と語った。それでも出馬したのは「親中派とされる中国国民党も私たちの地位を改善してくれなかった。自分たちで訴えるしかない」からだという。

 張秀葉氏は中国当局との関係について「われわれの活動を良く思っているとは思うが、接触はない」と語った。だが、台北地方検察署は同12日、選挙違反(買収)容疑で張氏らを事情聴取した。同心会が10月1日の中国の建国記念日に開いた600人規模の食事会で、張秀葉氏が投票を依頼するなどした疑い。地検は、食事会の費用が中国側の負担だった可能性もあるとみて調べている。

 ■反発も根強く

 中国との統一を主張する「統一派」の中にも、五星紅旗を掲げる団体とは距離を置く勢力もある。台湾大学の張亜中(ちょう・あちゅう)教授(63)は同心会などを「批判したくない」としつつも、「彼らは政党を名乗ってはいるが、選挙ではなく存在自体が目的で、その証明のために五星紅旗を掲げている。誰に見せているのか」と揶揄(やゆ)する。

 張亜中氏は中国国民党で「急進統一派」と批判された洪秀柱(こう・しゅうちゅう)前主席のブレーンとして知られる。張亜中氏は自身は「急進派」ではなく、中国と台湾が敵対関係を解消し平和統一の方法を対等な立場で話し合う方策を追及しているだけだと主張する。だが、中国の台頭で「台湾では『統一』の定義が『統一される』に変化した。一般市民にとり『統一』は(中国への)降伏と同義語で支持は少ない。理性的な議論もできない」と嘆いた。

 「台湾独立」を主張する市民団体「台湾北社」の李川信(り・せんしん)社長(62)に至っては「台湾で五星紅旗が受け入れられる余地はない。目障りだ」と、にべもない。北社など複数の独立派団体は6月、民主進歩党の蔡英文政権に五星紅旗の掲揚禁止を要求。これと前後して、禁止法制定の是非を問う住民投票の実施を中央選挙委員会に請求した。

 中国国内で台湾の「青天白日満地紅旗」が禁止されている以上、相互主義に基づく禁止は「言論の自由」に反しないという主張だった。だが、直接の提案者が選挙委が求めた追加説明に応じず、投票は立ち消えになった。李氏は、投票実施に必要な28万人の署名集めの人手も費用も足りず、あきらめたと説明する。

 李氏は、1987年の戒厳令解除前は「台湾では五星紅旗を持っているだけで銃殺された」と指摘する。だが、独立派を含む民主化勢力の努力で「言論の自由」が確保された結果、五星紅旗はどこでも掲揚できるようになった。李氏は「中国は台湾を併呑する動きを強めているのに、何という皮肉だろう」と話した。

 台湾の急進統一派政治団体「中華統一促進党」の張安楽(ちょう・あんらく)総裁(70)は産経新聞の取材に、五星紅旗を掲げるのは「台湾人民に慣れさせるためだ」と主張した。中国が台湾への武力行使に踏み切った際、旗への抵抗感を少なくしておくことで市民に投降を促し、犠牲を減らすのが目的だという。

 張氏は「台湾では日本統治時代の洗脳の結果、(台湾は中国の一部ではないと)誤った主張をする者もいるが、先住民以外は中国が祖国で、血統も言語も文化も共通だ」と中台は不可分だと強調。「日本も明治維新で国家を統一し強国になった。中華民族の偉大な復興のためには中国の統一が必要だ」と訴えた。台湾当局が公称してきた「中華民国」の「役割は終わった」とし、「中華人民共和国こそが(統一の)神聖な任務を果たせる」とした。

 その上で、中台統一に向けた対話の動きがない中、中国が武力を発動し「人民解放軍が台湾に上陸したらどうするのか」と問題を提起。「江戸城の無血開城のような形が良い。そのために台湾人民は五星紅旗に慣れておく必要がある」と訴えた。

 張氏は台湾の暴力団「竹聯●(=封の下に綿のつくり)(ちくれんほう)」の構成員だった経歴がある。張氏は「外省人」と戦前から台湾で暮らす「本省人」の「心の垣根を最初に超えたのはヤクザ(組織)だ」と主張。本省人が多い台湾南部で「平和統一」を主張できるのは統一促進党だけだと自賛した。張氏は8月、中国当局から資金を受け取った政治献金法違反などの疑いで、台北地方検察署から事情聴取を受けている。

 ■第二次国共内戦 第二次大戦終戦直後から始まった中国共産党と中国国民党政権の内戦。中国大陸の支配権を確立した共産党は1949年10月に中華人民共和国を樹立。国民党は同12月、台湾に拠点を移した。台湾では現在でも「国家安全法」により、中国当局や解放軍を利する「組織の発展」や情報収集などが処罰される。

最終更新:12/6(木) 18:32
産経新聞

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