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単なる擦過傷では済まない…靴擦れが引き起こす意外な病気

12/7(金) 9:26配信

日刊ゲンダイDIGITAL

 これからの季節、意外に目立つのが靴ずれだ。「ボーナスで新しい靴を買った」「貸靴でスキー、スケートやボウリングを楽しむ」など普段とは違った靴を履く機会が多くなるからだ。ところが靴ずれができても大抵の人は「単なる擦過傷」と軽く考えがち。しかし、手当てが不十分だと思わぬ感染症を発症。せっかくのクリスマスや年末年始の休みを病院で過ごすことにもなりかねない。「横浜市立みなと赤十字病院」集中治療部の田嶋淳哉医師に聞いた。

 20代の男性は旅行中に左足底に靴ずれによる水疱ができた。「若くて免疫力もあるからそのうち治るだろう」と放置したところ、その2日後、熱と悪心にも襲われたため、自分で救急車を呼び病院へ。そのまま半月間入院生活を送ることになった。

「当初、この男性は40度近い熱がありました。靴ずれから周囲に蜂窩織炎(皮膚に起きる急性の感染症)ができ、そのことによる発熱だと考えられていました。脈はやや速いものの、意識はハッキリしていて呼吸数、血圧も安定しており、CT検査でも異常はありませんでした。左足底の1センチ大の水疱の中は膿性でした」

 すぐに抗生物質の点滴による治療が始まったが、入院後に男性の血圧が急低下。全身に赤斑を伴うショック症状が表れた。

「靴ずれでできた膿からは多数のグラム陽性球菌が発見されました。この菌は後日保健所で確認されましたが、予想した通り、毒素産生型のメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)でした」

 男性は、毒素性ショック症候群(トキシックショック症候群=TSS)と診断され、集中治療室(ICU)に移動。治療を継続した。それでも無事退院するには半月以上かかったという。

■若い人ほど注意が必要

 TSSは黄色ブドウ球菌が産生する毒素が免疫系のT細胞を活性化して大量のサイトカインが短期間に放出されることで発症する。急激な発熱、低血圧、紅斑、下痢、筋肉痛などの症状が表れ、中には呼吸不全や肝機能障害、凝固異常といった多臓器不全から死に至ることもある。

「ただし、黄色ブドウ球菌自体は人の皮膚や鼻の中に常在するありふれた菌です。普段は害はありません。皮膚を切ったり、刺されたり、やけどしたり、皮膚のバリアーが壊れたときに感染が起きやすくなります。TSSは男性、女性、子供にかかわらず誰にでも起きる病気ですが、過去には生理時にタンポンを長期間入れっぱなしにしていて感染したケースが多く報告されました。同じように鼻の奥の鼻血を止めるためガーゼなどを挿入し、それを入れっぱなしにしたことで感染することもあります。残りはやけどや切り傷、虫刺され、外科手術後の局所感染によるものです」

 ちなみに、TSSの原因となる毒素から身を守るための抗体は年齢とともに増えていく。そのため、TSSのリスクは若い人ほど高いといわれている。

「靴ずれからTSSを発症する例はマレですが、国内外で報告されています。たとえば新しいサッカーシューズに替えた時に水疱を伴う靴ずれが生じ、TSSを発症した男児2例が海外で報告されています」

 日本ではスケートでの靴ずれからTSSを発症した6歳の男児の例がある。この男児はスケートをした際に靴ずれを起こし、左のかかとの皮膚が化膿した。4日後に39度台の熱が続き、手足に発赤・腫脹があり、全身に紅斑が表れた。立ち上がるときに頭痛を訴え、上の血圧が80㎜Hgで低血圧の状態だったという。発症時が2月下旬だったためインフルエンザも疑われたが、検査で除外された。

 幸い処置が早くこの男児は数日で完治、退院したという。

「TSSを発症すると急激に病状が悪くなります。放っておくといずれ治るということは決してありません。入院して治療を受けなければならないのです。それを防ぐには靴ずれであろうが、虫刺されであろうが、傷口を水で洗い流した後でしっかり乾かすことです。その上で、傷口の周辺から分泌される組織液を逃がさないよう、被覆材を使用するといいでしょう。化膿した際には医療機関を受診してください」

 靴ずれや鼻血、虫刺され、ささいな傷などをむやみに恐れる必要はないが、傷口を清潔にしておかないと重症化して命のやりとりになる場合がある。覚えておこう。

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