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水産業、酸性化への対策急務 明らかになりつつある温暖化と海洋生態系の関係

12/8(土) 7:11配信

SankeiBiz

 温室効果ガスによる地球温暖化の影響の一つとして、海洋環境が注目され始めている。海面水位と海水温の上昇に加え、海に二酸化炭素(CO2)が溶け込むことで進行する海洋の酸性化。これらがトリプルパンチとなって、海洋生態系に大きな影響をもたらすと危惧されるのだ。

 東京・お茶の水で7月31日に開かれた「海生研シンポジウム」では、気候変動が海の生態系や生物に与える影響を専門家が報告した。

 海洋生物環境研究所(海生研)中央研究所の喜田潤所長代理によると、地球の平均気温は過去100年当たり約0.8度、海面水温は約0.5度上昇した。

 これにより、中高緯度の多くの地域で2001~10年平均と比べて51~60年平均の最大漁獲可能量が半分以下になるとIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は予測する。

 「この予測は水温上昇以外の要因を考慮しておらず、実際はさらに減ることも考えられる」と、喜田さんは指摘する。厳しい温暖化対策を取れば、海洋酸性化はある程度抑えられる可能性があるが、海面上昇は止められない。極域での雪氷の融解が続き、低い土地の消失やマグロなどの資源変動が危惧されるという。

 国立研究開発法人海洋研究開発機構の原田尚美・地球環境観測研究開発センター長代理は、北西太平洋の外洋域に加え、沿岸域でも酸性化が進んでおり、炭酸カルシウムができにくい環境になっていると話した。

 海洋にCO2が溶け込むと水と反応し、炭酸水素イオンができる。そのとき水素イオンが放出されるので、海水の水素イオン濃度が増す。その結果、水素イオン濃度指数(pH)が下がる。全海洋表層水のpH平均値は約8.1とアルカリ性だが、徐々に酸性方向にpHが変化する現象を海洋酸性化と呼ぶ。

 酸性化すると、生物の殻や骨格になる炭酸カルシウムの生成が阻害される。貝類やサンゴ類は石灰化しにくくなり、殻が薄くなる、稚貝が育たないといった影響が表れているという。

 現在、大気中には毎年6.4ギガトンの炭素が放出され、海洋にはそのうち2.4ギガトンが吸収されると見積もられる。CO2吸収を海洋に期待する声がある一方で、世界の9海域の観測結果からは、海洋酸性化はpHで年間0.0011~0.0024の低下として既に進行していることが分かってきた。最大の低下を示したのが、わが国近傍の北西部北太平洋だ。

 「海洋酸性化はまだ危機的レベルにいたっていないとされているが、海洋生物にとっては、酸性化がわずかでも、水温上昇など他の要素と複合することで飛躍的に影響が増す可能性がある」と、原田さんは警告する。

 海洋酸性化のモニタリング情報を共有する国際観測ネットワークのワークショップでも、酸性化の経済的影響が報告された。ユネスコ政府間海洋学委員会によると、サンゴ礁海域では3兆~37.5兆円、魚類で6.5兆円、甲殻類で3.7兆円、貝類で2.4兆円の経済損失が生じると試算される。

 海生研の林正裕・主査研究員は、日本の水産有用種への影響研究はまだ少なく、酸性化が種苗生産に影響を及ぼす可能性もあると指摘した。

 温暖化の海洋影響を予測し、対策を講じることは、日本の水産業にとって急務といえよう。

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【プロフィル】東嶋和子

 とうじま・わこ 科学ジャーナリスト。筑波大・青山学院大非常勤講師。筑波大卒。米国カンザス大留学。読売新聞記者を経て独立。著書に『人体再生に挑む』(講談社)、『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文芸春秋)など。

最終更新:12/8(土) 7:11
SankeiBiz

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