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外国人材拡大に日本の医療のセーフティーネットは大丈夫か/沢田貴志氏(医師・港町診療所所長)

12/8(土) 20:04配信

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 日本に、急増する外国人材を受け入れる態勢は整っているのか。

 多くの課題が積み残されたまま、12月8日の未明、改正出入国管理法(入管法)が成立した。来年4月から、新たな在留資格で外国人労働者の受け入れが始まることになる。政府は年内に総合的な対応策を決めるとしているが、具体的な中身についてはまだ何一つ決まっていない。

 受け入れる外国人労働者の人数も、首相が国会で5年間で34万人を上限とすると答弁したかと思えば、ただちに法務大臣がそれを否定してみせるなど、実際は今後何が起きるかは誰にもわからない状況だ。

 その一方で、法案採決の直前になって、外国人技能実習生たちの悲惨な実態が明らかになった。年間5000人前後の失踪者がいることは伝えられていたが、法務省の聞き取り調査の内容を野党議員たちが精査した結果、最低賃金以下で働いていた実習生が67%、10%は過労死ラインをこえて働いていた。さらには、2015年から2017年までに69人が、脳出血、急性心筋梗塞、自殺、溺死といった原因で亡くなっていたこともわかった。

 外国人医療に取り組んできた医師の沢田貴志氏は、外国人労働者が急増した1990年代、ビザなしの不法滞在の外国人が重症になって医療機関に担ぎ込まれてくることが多かったが、今後、同じようなことが頻発するのではないかと危惧する。今の技能実習生やアルバイト目的の留学生たちが置かれた状況では、病気になっても、解雇を怖れて医者にかかろうとしない人が多い。また、そもそも長時間労働で病院に行く時間がない人もいる。

 現行制度の下では技能実習生も、3カ月を超える在留資格をもつ留学生も、一応日本の健康保険でカバーされることになっているが、自己負担が大きかったり、保険料を滞納すると使えないなどの理由から、セーフティーネットとして機能しているとは言いがたい。無論、失踪してしまえば、健康保険そのものから外れてしまう。

 沢田氏によれば、外国人労働者の不法滞在が社会問題化し、ビザの整備など外国人の受け入れ態勢が進んだ結果、2000年代初頭には、日本にも多文化共生社会が生まれるのではないかとの期待が持てた時期もあったそうだ。ところが、2006年頃から、技能実習生やアルバイト目的の留学生などが急増したため、既存の制度では対応が追いつかなくなってきた。それまで横ばいだった外国人の結核患者が増え始めたのも同じ頃だった。結核は早く見つけてきちんと薬を飲めば治る病気だ。また、感染初期には他人に感染しないが、対応が遅れると職場全体に感染を広げることにもなりかねない。医療の問題は社会全体で取り組む必要がある。

 神奈川県では、NPOと県と医療団体が連携して医療通訳派遣の仕組みを作っているが、年間の派遣件数は7000件を超えている。通訳ボランティアの対象言語も英語、中国語、タイ語、ベトナム語など13言語にのぼる。医療機関側も言葉が通じれば、早く確実に診断ができる。そのようなちょっとした術がわかれば大きな問題にならない。外国人の受け入れ拡大を決める前に、まずそうした現場の取り組みから議論を始めるべきではなかったか、と沢田氏は語る。

 2020年には東京でオリンピック・パラリンピックが開催され、多くの外国人が日本を訪問することが予想される。しかし、ここにも危惧すべき問題があると沢田氏は言う。政府は今、五輪開催をにらみ、インバウンドの外国人診療における医療通訳養成の事業に力を入れ始めている。外国人医療全体の底上げになればよいが、旅行保険でカバーされる裕福な外国人のための通訳が中心となって、日本在住の外国人患者への対応が置き去りにされることになりかねない。医療ツーリズムなど成長戦略の一環として医療をビジネスとしてとらえる流れに抗うのは容易ではない、と沢田氏はいう。

 外国人材の受け入れが決まった今、日本が整備しなければならない受け入れ態勢とはどのようなものか。何が政府・国会の議論に欠けていたのか。30年間外国人医療に取り組んできた医師の沢田貴志氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。

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沢田 貴志(さわだ たかし)
医師・港町診療所所長
1960年東京都生まれ。86年千葉大学医学部卒業。東京厚生年金病院勤務を経て、91年より現職。シェア(国際保健協力市民の会)副代表を兼務。東京大学大学院など4大学で非常勤講師。
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(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)

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