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【黄門かわら版】免疫学者が訴えた「寛容」

12/9(日) 7:55配信

産経新聞

 結城市出身の免疫学者、多田富雄さんの地元図書館には遺品や著作を展示する資料室があり、郷土の偉人をたたえている。

 生前、東京・湯島の自宅を訪問したことがある。脳梗塞で倒れた後、懸命にリハビリに励んでいた。言語障害や嚥下(えんげ)障害。重度の後遺症に苦しんでいたが、柔和な表情を浮かべ、病後とは思えない生命力を感じた。専用のキーボードを左手でたたいて音声に変換。会話にユーモアを交えた。

 病を得て生き方が変わった。発病直後は絶望のふちにあり、日常は死に覆われていたが、リハビリをしながら過去の自分にピリオドを打った。名声も肩書きも関係ない。死のことを思わず、日々の発見に努めた。

 執筆への意欲もわいた。代表作『寡黙なる巨人』は、学者の内面をさらけ出した闘病記だ。「歩くということ」を考察した章は示唆に富む。苦しくても歩く訓練を続けるのは人間が歩く動物であるからだ。直立二足歩行を発見した人類にとって、歩くということは特別な意味を持っていると結論づけた。

 「寛容」は氏が訴えたメッセージの一つだ。専門の免疫学と関連づけ、寛容であることを知恵の結晶ととらえた。障害に直面してもどこへでも出ていこうとした。「車椅子に乗ったままだと見落とすような看板が、立ってみればはっきりと眼(め)に入る。車椅子の生活が味気ないのはそのためである」。自国開催の五輪を控え、一考の価値がある視点ではないか。(日出間和貴)

最終更新:12/9(日) 7:55
産経新聞

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