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全盲の男性、タンデム自転車で琵琶湖一周の「ビワイチ」 記者も伴走、2日間で150キロ走った理由

2018/12/30(日) 7:00配信

withnews

 自転車で琵琶湖を1周する「ビワイチ」を、全盲の山野勝美さん(66)=滋賀県彦根市=が11月に達成しました。4月から県内の公道走行が解禁された2人乗りのタンデム自転車で、晴眼者とペアを組み、2日間で約150キロを走りきりました。以下はその道中を、自分も一緒に自転車で走って見届けたい、と思い立った無謀なおっさん記者による「伴走取材記」です。(朝日新聞彦根支局・大野宏)

【写真特集】全盲の男性、タンデム自転車で「ビワイチ」完走 伴走した記者が撮り続けた挑戦の記録

「山野さんがビワイチ」 記者も同行

 11月23日朝。滋賀県彦根市の最低気温は6.5度、冷たい雨が降る。普段なら寝床へ逆戻りする天気だが、上から下まで雨天装備を着込んだ。

 ノートパソコンを入れて5キロ近いデイパックが肩に食い込む。「なんだってこんなことを思いついちゃったんだ?」。10年もののロードバイクにまたがって、ふと考えた。

 10日前、取材先で県視覚障害者福祉協会の職員さんから「副会長の山野さんがビワイチに挑戦する」と聞いた。すぐ取材を申し込み、使う自転車を見せてもらって驚いた。

 タイヤは一般的なロードバイクの27インチより二回り小さい24インチ。変速は3速、ハンドルやサドルは「ママチャリ」同然、重量約20キロとずっしり。自分がもう1人いたとして「これでビワイチやれ」と言われたら、2人そろって逃げ出すぞ、という第一印象だった。

 山野さんは視覚障害者マラソンの大ベテランで、フルマラソンの自己ベストは3時間台。ただ、自転車での長距離経験はない。晴眼者で前席を頼まれた平岡行雄さん(65)は登山歴こそ長いが、自転車は「家の近所の田んぼへ行くぐらい」。試走では時速15キロ程度しか出ていないという。

 「大丈夫かな?」との思いから「自分もご一緒させてもらえませんか?」と口走っていた。ただ、大丈夫じゃないのが誰だったかは本番で明らかになった。

思い出のタンデム、公道解禁をアピール

 午前8時。前席に平岡さん、後席に山野さんが乗り込み出発。「せーの、はいっ」と平岡さんが声を掛け、2人が息を合わせてペダルを踏み込んだ。山野さんのマラソン練習に伴走した経験もある黒田一臣さん(46)さんがロードバイクで伴走し、2人の安全を確保する。

 タンデムの弱点は2人分の重量とホイールベースの長さ。低速時のバランスが取りにくく、きついターンは苦手。ママチャリと似たようにブレーキを前席が操作するだけなので急制動も効きにくい。「前後の信頼関係が大事」と山野さんはいう。自転車経験が少ない平岡さんに頼んだのは、3月まで県立視覚障害者センターの所長として、ともに仕事をしてきたからだ。

 生まれつき視力が弱かった山野さんがタンデムに出会ったのは30年ほど前だ。家族旅行で訪れた観光地で、小学生だった息子とサイクリングロードを走った。息子が前席に座ってハンドルを操作し、山野さんは後席で一緒にペダルをこぐ。「親子で一緒に遠出やスポーツを楽しむことなんてなかった。貴重な時間でした」

 10年ほど前、視覚障害者らでつくるランニングクラブで2台を購入したが、運動公園などでしか乗れない。昨年、三日月大造知事との対話の席で公道走行の解禁を訴え、県道交法施行細則の改定につながった。その成果をアピールしたい。「滋賀で自転車やるなら、やっぱりビワイチ」と挑戦を決めたわけだ。

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最終更新:2018/12/30(日) 7:00
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